テロリスト達の拘束が終わり、顔を上げた所で店の中に居た人達がワッと騒いで無事を喜び始める。
すげぇ喜びよう…まぁ恐い目にあってたから仕方ねーよな…。
なんて考えていると、スカートの裾を引っ張られる。俺の前に人質にされていた女の子だった。

「真選組のお姉ちゃん、助けてくれてありがとう」
「うーんお姉ちゃんじゃねーんだけど…まぁいいや。怪我なかったか?」
「私はないよ。でも、お姉ちゃんのほっぺた…」
「え…」

頬、と差された所に指を這わすとピリッとした痛みが走る。やべ、怪我してたんだ。
そう思いつつも、こんなんへっちゃらだよ、と答えると女の子は花のように微笑んだ。

…良かった、無事で。
そこで俺はハッと高杉達が居た所に視線を向ける。
だが勿論―…彼らは騒ぎに乗じて居なくなっていた。
同じ攘夷志士でも助けたりしない…捕らえられた者達には興味ねーのか。アイツは…。

『銀時。てめーには聞こえねーのか』

――…ああ、ちょっと思い出しちゃった。
源外のじーさんが三郎と一緒に仇討ちしようとしたあの祭りの日、高杉に言われた言葉。
まるで俺は、ここに居ちゃいけないんだって思わせるような台詞。

「副長、お疲れ様でした!」
「さすがですね!確保の仕方がお見事だったようで!」

応援要請を受けた真選組の隊士が現場に到着し、口々にそう褒められる。
でも俺の気持ちは何だかフワフワしていてあまり返事を出来なかった。

だって本当は、ここに居るべき人間は土方君なんだもん。
俺じゃないんだよ、俺はいちゃいけないんだよ、皆が必要としてるのは土方君なんだよ。
ここには土方君が居なきゃいけないんだよ。
だってここは、俺が知らない土方君の居場所だから。

あれ?なんなんだろう。
気持ちがグラグラする。可笑しいな。
さっきまで、土方君に褒めて貰おうってウキウキする気持ちでいっぱいだったっていうのに。

どうしよう。

あの子に今、すごく会いたい。


副長はお疲れでしょうから、先に戻って良いですよ。と言われ。
本当は残って現場の収拾を副長として指示しなきゃなんだろうけど、俺じゃ分からない事だらけだろうし、お言葉に甘えてジミー君にその場を任せる事にした。

「アイツ…俺ン家に居んのかな」

隊服に着替え終えた俺は、夕暮れで橙色に染まる町並みを歩いていた。
会いたい衝動は結局止まらず、あの子がちゃんと一日中坂田銀時として過ごせたかは、最早どうでも良かった。
そんな時。キャハハ、と笑う子供が母親と手を繋いで公園から出てくるのとすれ違う。

その光景を見て、なんとなく胸が痛くなった。
俺に助けられた女の子にも、きっとああやって一緒に笑える家族がお家で待ってる。

土方君にも家族同然の真選組が、待っていて…

「万事屋…?」

やけに聞き慣れた声に呼ばれ、それに気付いて苦笑しながら俺は視線をそちらに向けた。
当たり前だ。
呼んだのは、土方君の魂が入っている俺自身。

「あ、今のテメーは俺か。ったく、面倒くせーな」


土方君は、外では会った時は俺の事を、今まで通り万事屋って呼ぶ。
銀時って名前で呼んでくれるのは二人きりの時だけ。
なんでそんな切り替えが必要なんだろう、とか前は思ってたけど、そうだよね。

俺との関係を、護る為だもんね。

「どうでした?俺としての一日は。というか新八と神楽は?」
「ガキ共は、仕事終わらせたら適当に散らせた」

ふうっと煙を吐くと、煙草を吸殻入れにねじ入れる。
あー俺の体で勝手に煙草吸いやがったな!金ねーのに!
…というか、意外に煙草吸ってる俺の姿って格好いいね、とか自分で思ってみたりして。

「…あんま良いモンじゃねーな。他人の生活ってやつは」

別に見えなくてもいいモンも見えてくる、と苦笑された。
え、なに。今日一日俺の体に入って何見てきたの。

・・・ああ、なんでだろう。やっぱりコイツに会うと落ち着いてしまう。
ん?落ち着く、とかいうのとは違うのか?
なんか、こうありのままになっちゃうっていうか…最初はそれが分からなくて会う度に喧嘩してたけどさ。

嫌な気持ちが、溶けていくんだ。

「お前こそ、今日の潜入捜査はどうだった…って頬、怪我して、る」
「え?ああ、コレ…ごめんな。怪我しないように頑張ったんだけど」

テロリストを確保する時に怪我したほっぺた。そこを手当てそて貰った箇所を視られ、驚いたように目を見開かれる。

「な、なんでテメーが謝るんだよ。本当は俺が負う筈の仕事なのに」
「だってコレは土方君の体だよ?皆に必要とされてる、土方君の。
 なのに傷つけちゃってごめんね」

あ、嫌だ。今のすごく嫌な言い方だ。

「・・・ッ」

心の中で後悔するも、土方君は俺の態度が気に入らなかったのかグイッと手首を掴んでくる。
そして有無を言わさずに俺を連れて歩き出した。

「ちょ、土方君、何処行くの」
「うっせーな、黙ってついてくりゃいいんだよっ」

ご立腹の土方君は裏通りのラブホ街に入ると、そのままその一つに入っていくから俺は驚いた。
この子、絶対に自分から入るような奴じゃねーのに…
そして彼は適当に部屋を選ぶと、そのまま中へと俺を押し込む。
アレ。なんかいつもと立場逆じゃない?いや、体的にはあってるけど。

「テメェ、何を拗ねてやがんだ、コラ」

土方君が俺の声でそう凄んでくる。
うわ、拗ねるとかさすが、図星に近い事言ってくれるね。

・・・正確的には嫉妬、なんだけどさ。

「別に拗ねてねーよ?ただ、お前の体を傷つけたくなかったのにって思っただけであって」
「じゃあ、なんで『皆に必要とされてる』とか言うんだよ。テメーは何処行きやがった」

あーもー!なんでそうやって細かい所に気付くんだよ、何か含んで言ったのがバレバレじゃん!土方君のバカ!

「銀時。…言えよ。俺の体で一日生活して、何かあったんだろ?」
「だーからーないってば。じゃあさ、土方君はどうなのよ。
他人の生活をするもんじゃねーって思ったのは何で?」


まさか質問を返されると想像してなかったのか、うぐ、と土方君は言葉を詰まらせる。
あれれ?土方君も調子悪くね?いつもなら『話題そのまま返してんじゃねーよ!』とか怒るのに。
怒るどころか、

「…言いたくない」

なんて言って、顔を逸らしてくる。
え、何コイツ。今日一日で本当、何があったの。

「そんな事言わずに教えてよ。な?」
「い、やだ。絶対ぇやだ」
「えー?教えてくんなきゃ十四郎も教えなぁい」
「テメッ俺の顔と声で気持ち悪い台詞言うな!」
「じゃー銀さんに教えてよ」

間近に顔を寄せ、唇が触れ合うかのような位置で囁きかける。
すると照れてしまったのか、戸惑ったような表情をした。
…俺って、焦った時こんな顔すんのかー。

「おっ、俺は、だな」
「うん」

暫くの沈黙の後、どもりつつも土方君は喋り始めた。
さーてと。どんなお話が飛び出してくるやら。

「まず言いてぇのは、お前、あの万事屋で俺をどんな風に言ってるかって事だ…ッ」
「へっ」
「チャイナが俺の事二個チンコだとか、なんか色々言ってたんだぞ」

へ?二個チンコ?俺、神楽の前でそんな事言ったっけ?いやいや言ってない、そんな土方君の下半身を連想させるような事、言ってな…
あああああ言ったわ!カブト狩りの時にニコチンがどーたらこーたらのくだりで…

「土方君、えっと、それはだね」
「そうだ、テメー、思い出せば色々大変だったんだからな!
 俺より銀時の方が料理が上手だとか、服装がいつもと違うだとか、あのコスプレ女だって…!」

胸倉を掴んでくる勢いで捲くし立ててきた土方君の激昂が、ピタリと止まる。
は?コスプレ?何の話?

「・・・俺、寝る前にお前の部屋漁ったんだ」
「えっマジでか」
「テメーの事だから、エロ本とかビデオとかあんじゃねーかって」

ぎっくー!!
いやいやいやごめんね、実はあったんだ!でも前日に長谷川さんに返したんだよね!

「でも、何も出てこねーし、浮気してるっぽい証拠もねーし、で、安心して寝ようとしたら…
 枕に残ってるお前の香りに気付いたら、何か、気持ちが、変になって」

気持ちが変って…あの、つまり土方君。それは俺の香りに欲情したって事じゃないの?え、マジ?

「それで安心した後に、依頼人の家に行こうとしたら、その女に、会って」

だーかーら!さっきからさ、そのコスプレ女って誰?どいつ!?
でもなんか土方君が思い詰めたように話すから突っ込むに突っ込めないんですけど!

「ひ、土方君。ちなみにその娘って、誰の事?」
「俺が知るかよ!ガキ共はさっちゃんって呼んでたけど」

さっちゃぁああん!!なんてタイミングで出てくるの!
なんでわざわざ、俺と土方君が入れ替わってる時に会いに来るの!!!

「…ふざけんなよ。なんだ、俺じゃ満足できねーか。銀時」
「はぁ?なんでそんな話に」
「確かにお前が好みそうな女だったよな。美人だし、胸も尻もでかそうだし、いつも激しく宜しくやってんだろ?」

えええええ!ちょっ、待って!さっちゃん、この子に何言った!?

「そうだよな。俺はあの女みてーに素直に抱きつかないし、体だって柔らかくねーし、可愛い事なんざ一つも言えねーし。
…だから、すげぇ嫌だった」


顔を見せたくないのか、土方君が手で顔を覆う。
あー…外見は俺なのに、そういう仕草をしてるのは土方君だって思うとすげぇ可愛いとか思っちゃう俺は相当変。
コイツが必死で話してるっていうのに。

「俺の知らない世界や人間が居ても、銀時にとっては当たり前な事なんざ、分かってたのに…
 それに少しでも苛々する自分がいる事に気付いて、嫌だった…!」

必死で話してるお前を、余す所なく食べちゃいたい俺は相当キテるよね。

「なんかそんな事を考えてる俺、気持ち悪くて」
「うーんとつまりぃ、土方君は自分が知らない所での俺の生活を知って、ヤキモチやいちゃったんだ?」

ニッコリ笑んで訊くと、反論ナシ。
あーもー何この素直さ!ツンツンなコイツも可愛いけど、素直なコイツもかなり好み!

「な、なんでそんなニヤニヤ笑うんだよ!俺の事、気持ち悪く思わねーのか…
 って俺の顔でそんなニヤけんじゃねぇ!」
「いやいや、ニヤけたくもなりますよ。だっていっつも俺に興味ねーって顔してるお前がさぁ?」
「うわ!?」

突っ立って怒ってる相手の腕を引っ張り、ベッドへと誘い込む。
そしてグイッと顔を近づけた。

「俺の事、そんなに好き好きで居てくれたなんて、顔が緩むに決まってんじゃん」
「す、好き好きとか言うな」
「ねぇ、知ってる?俺もどれだけお前を好きか。
お前の体も、その心も大好きなんだよ。だから気持ち悪いと思わないし。
むしろ教えてあげる」

“お前の体のやらしさをさ…?”

スル、とスカーフを解いて隊服のジャケットを脱ぎ始めると、土方君は驚いてそれを阻止してくる。

「ちょ、銀時、てめっなにしてやがる!?」
「だーから、教えてあげんの。お前、知らないだろ。自分の乳首とかどれだけ淫靡なモンか」

シャツの前を開けると、止めようとしたその手をとって土方君の乳首に這わせてやった。

「や、やだぁ、銀時。放せ…」
「放しませーん。聞いてて?お前が感じた時、どんだけソソる声出すかを」

そして親指と人差し指を導き、胸の突起を摘ませる。
すると驚くくらい快感が全身を襲い、土方君に成りきろうと心構える前に声が漏れた。

「あンッ」

やべー!土方君の体やべー!知ってたけど感度良すぎだよ!
乳首でこんだけ感じるなんて、ホントどんだけ!?

「ぃあ、ん…銀時、もっとコリコリしてくんなきゃヤダ、よ…
 もっと指、動かしてぇ…」
「!?
 オイイイ、何勝手な台詞言ってんだコラ!
 普段は俺、そんな事言ってねーだろ!?」


あーあー怒ってる怒ってる。
さっきまでのしおらしさは何処に行っちゃったんでしょうかねぇ?

「だってー今は俺、土方君なワケだから土方君になりきろうとしてるんです。
 その努力を無駄にしようとする土方君は酷いと思いますアレ作文?」
「知るかァアアなんで作文!?」
「あのねぇ、お前も頑張って銀さんになりきってくんね?
 ここまで来たら、ヤんのもお互いどういう感じなのか知りたい」

ね?と首を腕に絡めて小首を傾げると、ム…と一瞬考え込んだ後、唇を重ねてきた。
ああ、可愛い。

どうしてお前は、俺が求める行動をいつもくれるんだろ。


『君との日常、つまりは』


銀時がこのままヤりたいって言うから、とりあえずキスしてみる。
この後…どうすりゃいいんだ。いっつもアイツ、どうしてるっけ?
なんて考えているとじいっとこちらを見つめて様子を伺ってくる。
うう…自分に見られてるのって変な気分。

「ぬ、がします」
「どーぞぉ」

とりあえず脱がしにかかる。
相手に心の準備を求めるものの、アイツは普段、俺が騒ごうと何をしようと、有無を言わさず脱がして来る事を思い出した。クソ、癪だから銀時になり切ってやらぁ!
・・・でも相手の体は俺のなんだよなぁ…。
なんて考えながらズボンを脱がせる。ところまでは良い。問題は下着だ。

自分で自分の下着を脱がすなんて。

「どうした?銀時…焦らさないで早く脱がせてくれよ…」
「・・・ッ!?」

土方十四郎になりきるのにノリノリな銀時は、普段俺が出さないような甘い声で強請ってくるから折角下着に伸ばしかけた手に動揺が現れる。だが、だからって躊躇っていても始まらない。
なるべく見ないようにしてグイッと下着を脱がせた。

ぶるんっと出てきた俺の性器が視界に嫌でも入る。
悔しい事に、銀時に開発された体は少しの刺激で反応するようになってしまっていた。
自分でもヤバイと思っていたが、他人の目線から見ると余計に・・・なんか…。

お、俺ってヤる寸前ってこんななのか?本当に?
もう既に額は汗ばんで、頬は上気して、ああやって内股擦り合わせてるって?
乳首も、ペニスもあんな硬く勃たせて…?

アイツに抱かれる前の自分自身の痴態に目を向けられないでいると、再び手を引っ張られる。

「何ボーッとしてんの。ホラ、ちんぽとアナルに触ってみ?」
「あっ、ぁ、銀、時、だめ、これ以上は…!」

昨夜、初めて真面目に見つめたと言っても過言ではない銀時の細長くて綺麗な指。
芸術品のようなソレが、片方はペニス、もう片方はアナルに導かれる。

それ以上指を進めるのが、恐かった。
いつもは銀時にされている行為。それが今は自分で行わなきゃいけなくて、でも。
他人の体で自分の体を暴くなんて恐い。情けないくらい。
何より、体はアイツでも、自分がそれを動かしているのが嫌だった。
俺の体に入るのは、銀時じゃなきゃ嫌だ…!

「だーいじょうぶだって。アナルはいっつも俺がしっかり解いてやってるからすぐにヌップリ…」
「いやッ、だ!お前じゃなきゃやだ…!」

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