その後の俺といえば、気が気じゃなかった。

近藤さんが追いかけてる眼鏡小僧の姉に出会ったり、
変な美人巫女姉妹を名乗る女に犬の様子を訊かれたり、
団子屋の看板娘に抱きつかれたり(キスされそうになるのを懸命に護った)、

謎の老人と猫耳が生えた女に「家賃払え」と嫌味たらしく言われるし(後に、万事屋の下に住んでる大家だと判明)、

片目を前髪で隠した女に「今日も地球防衛軍はしっかり活動してるわよ」と耳打ちされたり、

・・・なんというか。

アイツ、『この天パがなければ、もっとモテてるだろうに〜俺の人生はさ〜』とか愚痴ってたのに。
なにがもっとモテてただよ。ふざけんなよ。
俺がいねー所で、こんなに。

こんなに・・・
ああ、嫌だ。なんだか苛々する。

「はー・・・」

草むしりの依頼は、一時間足らずで終わった。(なのに給料は3万くらい貰えた。いいのかコレ)
仕事も終わったのでガキ二人にはこの後は自由行動させて、俺は一人で公園のベンチに座り、一服していた。
銀時は仕事が終わった後は家で昼寝でもしてりゃ良いんじゃねーの、とか言っていたが、なんだかそんな気にはなれない。

だってあの万事屋は、俺が知らない時間を過ごす、アイツの空間で。

「…バッカみてぇ」

平日の公園は親子連れが楽しそうに遊んでいた。
それを眺めながら、アイツの体になって色々見える事を知ってしまった事に妙な焦燥感を感じる。
俺の仕事は――…生活は、こうした平和を護る事。
でもソレは近藤さんがしよう、って望んだ事だったから。

何もなくて、護るものがなかったあの頃、生きる場所を与えてくれた近藤さんが、したい事なら。
俺は体張って、命が切れるその時まであの人に尽くそうと思った。

それしかあの頃の俺にはなかったから。

でも。
でも、今は。

『喧嘩ってのはよ、なにか護るためにやるもんだろうが』

今は。


『君との日常、つまりは』


「ごっ、ご注文はいかがなさいますかぁ〜?」

うわぁああん、どうしよう土方君!つかゴメン、土方君!
やっぱり高杉達にバレたくねーから顎しゃくっちゃったよ!顎ずれたらごめんね土方君!
顎がズレても、俺はお前を愛し続けるから!
なんて心の中で謝りながら俺は、なるべく高い声を出して高杉達の応対をする。
大丈夫だよな?
女装してるし、髪型違うし、化粧だってしてるしすぐには真選組副長だってバレねーよな!?

「オイ、店員!」
「ははははい、なんでごぜーましょうか!?」

だが、高杉の隣に座るお嬢さんに、明らかに不満げに呼ばれる。


「一つだけお子様メニューってどういう事っス!
 貴様、晋助様を侮辱するつもりか!」

やっべぇえええテンパってて、一つだけメニュー違ェヤツ持ってきちまった!
というかそんなに騒ぐな、頼むから!ジミー君に見つかったらどうするつもりだよ!

「落ち着いてください、また子さん。別に彼女は晋助様にお子様メニューを渡したワケじゃありませんよ。
 間違えて混ぜただけです。責めてはいけません」
「武市先輩、ロリコンのクセに何庇ってるんスかぁ!」
「だーからロリコンじゃなくてフェミニストと言っているでしょう」

またもや二人がギャーギャー騒ぎ始める。
なんつーか…さすがは高杉の仲間?みたいな。随分個性的な奴らのようで…
というか本当に幕府に追われてる自覚あんの?こいつら。

「・・・姉ちゃん」

なんて考えていると、高杉の低い声が明らかに俺に向けられている。
やややヤベーなぁ…コイツは変な所で勘が良いから…

「は、はぁい、ご注文お決まりですかぁ?」
「随分俺の連れに興味あるみてーじゃねェか。ん?」

なんとかバレねーように明るい声で言うも、紫煙を吐きながら不敵に笑んで訊いてくる。
どっ、どうしよう。土方君ってコイツと面識あんのかな。
ヅラは結構土方君達と色々ドンパチしてるから分かるだろうけど、多分高杉はそこまでこの子を間近で見た事ないだろうから平気な、筈・・・。

「いてっ」
「客をジロジロ見るたァ躾がなってねーんじゃねェのかい」

でも、徐に髪の毛を引っ張られて余計に心拍数が上がる。
ちょっ!待って!近い、近いからァア!なんでお前はいっつもそうやって相手引き寄せて凄むの!
そうだよ、高杉は昔からなんか気に入らねェと胸倉掴んで怒るヤツだったよ!
よくそれでヅラが餌食に…。

「…てめぇ、・・・男か?」
「え?違いますぅ、トシ子は女の子…うっ」

グイッと顎を掴まれて顔を近づけられる。やべぇ!しゃくれが解除される!

「間違いねェ、このツラ…真選組の…」

あばばばば土方君、どうしよう!
とりあえず通報とかメンドクセー事する気ねぇし、振り切って逃げた方が…

「貴様らよく聞けぇええ」

スカートの下に忍ばせてある小刀を取り出そうとした、その時だった。店内にガガガガという天井にマシンガンが放たれる音と一緒に、おっさんの声が響き渡る。

「メイド喫茶に限りなく近いこの茶屋は、我ら革命組織・『萌える闘魂』が占拠した!」

うっそぉおお、最悪だ!最悪のタイミングだ!
店内は一気にパニック状態に陥って唯一冷静に見えるのは俺と、高杉達。そして接客していたジミー君ぐらいだ。
混乱に乗じて高杉から離れられたのは良いけど…困ったな、動くにしてもテーブルとかイスとか色々障害が多すぎる…

「チッ、面倒な事に巻き込まれたっス。どうしますか、晋助様」
「萌える闘魂ねェ…暫く様子を見ようじゃねェか」


高杉達のコソコソした会話が聞こえてくる。
あーもーやっぱりこういう状況楽しんでるよね、アイツ!
祭りとか喧嘩とかド派手な事好きだもんね、それを遠くから見てほくそ笑んでるヤツだもんね。
同じ攘夷志士だから何かアクション起こしてくんねーかな、とか期待してたけどやっぱり無理か・・・

土方君の体だし、あんまり無茶はしたくないんだけどそうもしてらんない。
アイツは自分の体が傷つくより、自分達が護ってる平和が傷つく事を恐れてる。

「それに、随分と別嬪な雌狗も混じってるみてぇだしなァ…クク、お手並み拝見といこうじゃねーか」

とりあえず、高杉達の事はほっといてジミー君と合流しなきゃ…とか考えてるとさすがはジミー君!
テロリスト達にバレずに俺の所まで来てくれたよ!

「副長!なんか大変な事になりましたね。予想外すぎます」
「だよなぁ…あんなマシンガンなんざ、何処で手に入れたんだか」

確か、俺達が宇宙旅行してた時にハイジャックしたのも萌える闘魂だったよな…残党かなんかか…。
アイツら、船ごとターミナルに突っ込もうとしたような連中だし、あんまり刺激はしねー方が良いかも…
とかなんとか考えている間に、リーダー格の男が近くの女の子を捕まえる。
人質か…また面倒な事してくれるな。

「我らの要求は、捕まった同胞の解放だ!ゆえに貴様らには手を出さない。
 だが警察との交渉が始まるまで、これ以上騒ぐならこの女から殺していくぞ!」

テロリストの声にシン、と辺りは静まり返り、頭に銃口を向けられた女の子だけがいやぁあと泣き叫ぶ。
うー…困ったなー…。

「副長。一応、応援要請は出来ました」
「さんきゅ。どんぐらい時間かかるんだ」
「早くて30分はかかります。でも人質とられてますし…どうしましょう。圧倒的に俺達不利ですよ」
「…。
 ジミー…じゃなかった、山崎。
お前だったらあのリーダー格以外の奴ら、武装解いて拘束するのに何秒必要?」

ジミー君は確か、土方君の元で監察として働いている筈だ。
多分、そういう武装解除、拘束という流れの訓練は受けてると予想してそう訊いた。

「リーダー格の男以外…2人だけですよね。
 この位置からだったら…俺に意識が向いていないのを前提で、5秒あればいけます」
「5秒ね。上等」

俺は太腿に忍ばせておいた小刀を取り出すと、装備していない方の太腿が見えるようにスカートにビリッと切れ込みを入れて裂く。勿論、土方君のパンツが見えるギリギリまでですけど!

「ふ、副長!?アンタ何してんですか!?」
「いいか山崎。今から俺が、あの子の代わりに人質になっから」
「ちょ、ちょっと待ってください、それなら俺が…」
「俺よりお前のが身軽だから頼むの。リーダー格は俺に任せて。
 絶対にしくじるな。他の連中を5秒で終わらせろ」

なるだけ土方君が言いそうな台詞を選び、俺はしゃがんでいた体をスッと立ち上がらせる。
はい、トシ子ちゃんお色気大作戦☆テロリストもメロメロよ!開始でーす。

とりあえず怪我しないように俺、頑張るね、土方君!


周りが静かなせいか、コツ、という靴音が妙に響く。
それに気付いた男が俺に向かって銃を向けてきた。

「おい、そこのアマ!何を勝手に歩いてやがる!ぶっ殺されてェのか!?」
「ち、違います。その…人質はその女の子と私、換えてもらえませんか?」
「はぁ!?」

その場に居る人達の視線が一気に俺に注がれる。
銃口を頭に向けられてる女の子は、目に涙を沢山浮かべてこちらに助けを求めるように見つめてきた。
待っててね。今、助けてやっから。

「私、このお店で誇りを持ってお仕事してるんです。なのにお客様を危険に晒すワケにはいきません」
「へェ、ねーちゃん。そんな要求が俺達に通るとでも?」
「はい。国を救いたい、という志の攘夷志士の貴方なら、分かって下さると思っての事です」

土方君は、テメーらにとっては仮初めの平和だろうが、護る為に必死こいて生きてんだよ。
今の俺の体は彼のものだから、それを叶えなきゃいけない。
何より、俺の手の届く範囲で誰かが傷つく所は見たくないしね。

…ちゃんと見てる?高杉。

「はは、度胸あンじゃねーか。こっち来な」

リーダー格の男は、まるで品定めをするように頭から爪先までを一しきり眺めた後、女の子を放して俺に手招きする。
おーおー舌なめずりしちゃって。土方君の体を視姦した罪は重いぞコノヤロー。
だが、予想通りテロリストの連中の視線は全部俺に向けられている。よし、後は頼むぜジミー君!

「あの、私は何をすれば…ひゃあ!?」
「へへへ、幕府の犬共との交渉が始まるまで楽しませて貰おうじゃねーか」

近づいた途端、テーブルの上に押し倒される。興奮してるのか荒い息をしながら、さっき小刀でスカートにスリットを入れた箇所から銃の先を差し込んできた。
てっ、テメェエエ!!土方君のスカートの中に何か突っ込んでいいのは俺だけですぅううう!!!

「ぎゃ!?」
「うあ!」

パットを詰めまくった胸にも手が伸び始めた時、男達の叫び声が聞こえる。
すぐにそちらへ目を向ければ、テロリスト達の銃は床に落ち、ジミー君によって拘束されていた。

「てめ、どこから出てきやがった…ぐう!」

一瞬の内に仲間達が武装解除させられた事、そして突然現れたジミー君の存在に相手が驚いてる間に、俺はマシンガンを持っている方の手首を掴み、ゴキンと捻った後に思い切り腹に蹴りを入れる。

そして、痛みに呻く男をそのまま床に押し倒し、俺はソイツに馬乗りになり。

「さて、悪いんですけれどもォ〜」

上に放られたマシンガンがクルクルと回転して落ちてきたのをキャッチすると、間抜け面してる男にガチャリと向けてやった。

「どーもぉ真選組です。神妙にお縄についてくださいませ、ご主人様v」

うっは!完璧!どうどう、土方君!この華麗なる抑え方!
体が元に戻ったら銀さんの事、褒めて頂戴ね!
うーんそうだなぁ、ご褒美はナースコスで6時間耐久プレイなんて…

「ちっ…幕府の犬め…!
・・・。
 って、すみません、あの」
「なんだよ。見逃してなんて言っても聞かねーぜ?」
「いや、そうでなくてパンツ丸見えで…グハァ!!!」

あぁ…最後の最後でパンツ見られちゃった…。
とりあえず見た奴には制裁加えといたから。

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