あんな、銀時とか名前呼びながら俺の身体使ってマスターベーションするなんざ(しかも股間を鏡に擦り付けてるってどんなだよ!?)、あのクソ天パ野郎しかいねぇ!
清々しい気持ちが一気に霧散して苛々だけが残った俺は、夢中になっている奴に思いっきり飛び蹴りを喰らわせた。

「てんめぇえ!!人の身体使って変態な事してんじゃねぇえええ」
「あいたー!!

おお、気持ち良いくらいのクリーンヒット…ってしまった!
魂はアイツでも体は俺だった!クソ、面倒くせぇ…。

とりあえず、やはり予想通り俺と銀時の身体が入れ替わってしまったようだ。
アイツも原因はさっぱりなようだが、妙に冷静…というかあまり緊迫していないのが腹立つ。
仕舞いには着流しを思いっきり肌蹴させて羽織ったりして乳首丸出しにして外に出ようとするから叱っても、『土方君のおっぱいだから大丈夫』とかよく分からない理由を言ってくるもんだから余計だ。

「テメーはどうすんだ。これから俺の身体で仕事こなすんだぞ!?」

原因は謎で解決方法も分からない。
ゆえに元に戻るまで、お互いがお互いの生活をしなければならないのだ。
俺が銀時の仕事や生活をこなすのはともかくとして、コイツが俺の仕事をこなせるのか!?
近藤さんのボケに突っ込んだり、総悟の攻撃をかわしたり、その他諸々雑務出来るのか!?
・・・何より。

「んーなんとかなるだろ。ジミー君に頑張らせるよ」

そう。
何より、この後山崎と一緒に潜入捜査が待っているのだ。
しかもメイド服着て…つまり女装で。
説明するべきか迷ったが、そうこうしている間に銀時に引っ張られてホテルを脱出。
とりあえず今日一日はお互いの生活を送る事になった。

・・・勿論、秘密の関係だから周りに相談の類は一切出来ねェ。

「新八に訊けば大体の事は分かるからさ。んじゃ、頑張ってねハニーv」
「…だぁれがハニーだ」
「やだーそういう時はダーリンもね(はぁと)って言ってくれよー」
「誰が言うかァアア!そんな気色ワリー事!」

なんか、相手が銀時とは言えど自分の顔や声で言われると尚更気持ち悪ィ。

アイツと分かれた後、一気に疲れたに見舞われた体で万事屋へと向かう。
あー…スゲー苛々する。煙草吸いてェ。
でも銀時って吸わねーんだっけ。買わなきゃいけねーのか…
いいよな。勝手に吸っても。アイツの体だし。
そこでふと、少し前だが銀時に言われた言葉を思い出した。

やけに不敵な笑みを浮かべて彼は言うのだ。

『土方くぅん、そんな煙草ばっか吸ってると肺真っ黒になって早死にするヨ?』

(…死ぬなら、一緒に死ね)

銀時は、時々無性に腹が立つんだ。
アイツは絶対に一緒に死んでくれない(土方君を世界で一番愛してると言いながら、護りたいモノが銀時にはあるから)
でも俺だってそうだからオアイコなんだと思う(俺だって銀時が好きだけど、だからってソレを優先できない)。

それを知ってるくせに、分かってるくせに。
試すようにああいう言い方をしてくるから俺は、時々銀時が嫌いだ。

俺に余裕がない事を知ってて、余裕を振りかざしてくるアイツが、嫌いで
(どうしようもなく、好きなんだよ)

「アレ」

煙草を置いてる自販機を見つけ、その前に立ち。
懐から財布を取り出して開き硬直する。

札が一枚も入ってねぇえええ
小銭も皆無。
いや、財布がなんか薄くてペラペラしてる時点で嫌な予感はしていた。
だがここまで金が入ってないとは普通思わねーだろ!

『あ。土方君。じゃあ今日のホテル代、俺が出すね』

ホテルに入る時に銀時がそう言って金を払った。
なんか次の日に仕事入って、金も入るから、というよく分からない理由だった。
普通は入ってから奢るモンだろ、と思いつつもフロントで男二人が目撃されるのは避けたくて、早くこの場から去りたくてアイツの言う通りにして。

「こんな金がねーダーリンって…ありえねーだろ」

はぁあ、と溜め息をついて俺は煙草を諦めた。
まぁ家に戻れば、いくら極貧といえど少しは金、置いてあるだろ…
え、置いてあるよな?

不安を拭え切れなかったが万事屋に着いた俺は、階段を登りながら家の鍵を取り出す。
あー…そういやコレ、合鍵貰ったんだよな…
いつでも着てネvとか言ってたけど、あのチャイナがいるってのに行けるワケねーだろ。

がちゃ。
鍵を穴に入れて回し、なるべく音を立てないように玄関の引き戸を開いた。
室内は電気一つついていない。夜だからあたりめーか…
などと考えながらブーツを脱いで家の中の様子を伺う。

「(静かだな…あのチャイナ、熟睡か…?)」

確か、銀時の寝室は居間の隣だった筈・・・
客を応接するべき部屋は乱雑しており、ソファの上には巨大犬が気持ち良さそうに眠っている。
オイ、あの犬室内で寝てんのかよ…つかチャイナはどこで寝てんだ?

ま、まさか銀時の奴、あの小娘と同じ場所で寝てるんじゃ…!
と心配したのも束の間、スースーと寝息が押入れの中から聞こえる。
だよな。さすがにそれはねーよな。

「とりあえず、寝よ…」

なんと寝室にあたる畳の上には布団が敷きっぱなしだ。更にその上に寝着も脱ぎっぱなしにされている。
・・・どういう生活してんだよ、あいつ!!
というか、ちょっと待て。このパターンはアレじゃねーのか。
こういう男の部屋には…エロ本とか隠してあんじゃねーのか・・・?


探ろうとした所でハッと手を止める。
そうだ。俺は本人の居ない所でこうやって勝手に秘密を暴こうとする類のモノは嫌いな筈だ。
よく女は彼氏のケータイをいじってメールをチェックし、浮気しているかを確かめるらしいが俺はそうじゃない。

ふん、そうさ。
愛なんか幻想だと思っていた俺が、あんなちゃらんぽらん男と一応付き合ってるんだ。
俺は銀時を信じ…
『ちょっと聞いてよ、土方君!この間神楽に結野アナのフィギュア壊されちゃってさー』
信じられるかァアアアアア!!
そうだ、アイツ俺の前だと言うのに、ああいうフザけた事ぬかしやがる奴だ!

どうせ俺がいねー所で風俗に行ったりだとかエロDVD見てたりすんだろ、そういうパターンだろアイツは!
ちょうどいい。またとねー機会だ。
整理するフリして徹底的にコイツの部屋を調べ上げてやる!
浮気の証拠でも見つけようモンなら切腹だ、コラ!

「・・・ねーな」

なんとか隣に居るチャイナや巨大犬を起こさないようにガサゴソと探ってみたが、意外に出てこない。
絶対に本やDVDの類があると思ったのに一つもない。
(ちなみにマダオに色々借りている銀時だがたまたま昨日返却していて、運よく一つも部屋にない状態)
なんだか拍子抜けのような、安心したような。

つまり家では抜いてねーって事か?
まぁあんな小娘と同居してりゃそんなん無理だよな。

それとも、俺とヤって満足してくれてるという事、なのか?

「・・・気持ち悪」

危うく喜びそうになってしまう気持ちを抑え、寝着に着替えて布団にボスッと倒れて眠る準備をしようとした。
しかし枕に顔を埋め途端に香る、銀時の髪の毛と同じにおいに気付く。
キスやセックスの時に顔を近づけなければ香ることのないにおい。

『土方君、土方君…可愛いね…』

耳元で息を吹き込むように囁かれた言葉を思い出し、一気に体が熱くなる。
や、やばくないか俺…アイツを思い出して熱くなるとか…アイツの身体なのに…!
そこでふと気になって、手を上げて視界に入れた。
骨ばった、しかし剣術をやっているとは思えない華奢な手。
スラリと伸びた5本の指は長く、惚れ惚れするほど整っている。

「こんなにマジマジとアイツの手なんか…見た事ねーしなぁ…」

いっつもこの指が俺の頬に触れて、髪を梳いて、性器を撫でて、アナルを解いて…
俺は、銀時って名前を呼んで、するとアイツは大丈夫だよって笑ってくれて…
って何を思い出してんだ俺はァアア!
気持ち悪い!大分気持ち悪いぞ俺!寝よう、もう!

・・・こうして、俺が扮する銀時の妙な一日が始まった。


「銀ちゃーん。料理下手になったアルか?」
「え」

銀時の布団では落ち着いて眠る事が出来ず、仕方がないので早めに起きて朝食を作ってやる事にした。
あの眼鏡小僧はいねーから、俺とチャイナの分だけで良いんだよな。
料理にはあまり自信がないがアイツよりは上手くやれるだろう。と踏んでとりあえず卵焼きとウインナー、サラダを作って出してやると、起きてきたチャイナに第一声、そう言われた。

巨大犬に餌をやっている所にそう言われ、なんだか物凄いショックに襲われる。
俺の料理…アイツより下手…?

「へ、下手ってどういう了見だコラ」
「だっていっつも銀ちゃんの卵焼きはフワッとしてるアルよ」

向こうは悪気がないのだろうが(大体、アイツと精神が入れ替わっている事を知らないし)、それでもなんだかすごくへこむ。アイツに負けるとかありえねぇ・・・。

「それに、今日のはなんだか甘くないヨ」
「あー…」

もしかして坂田家は卵焼きは塩より砂糖派なのか?
マズイな。そういう細けー所はチェックしてねぇよ・・・。

「えっとだな、お前だって甘ェもんより少しは大人の味の塩辛さを知った方が良いと思ってよ」
「とりあえず決定的に可笑しいのは、サラダに乗ってるこの尋常ならぬマヨの量アル」

じと、とサラダを見つめられるも俺には可笑しい、と思われる理由が分からない。
普通はあの葉っぱの緑色が見えなくなるくらいまでマヨネーズはかけるモンだろ?
本当はもっと並々盛ってやりたかったが、さすがにそれじゃあ怪しまれると思って気持ち少なめにしたんだが…。

「・・・銀ちゃん、まさか!あのマヨラーにたぶらかされたアルか!」
「え、な、何言って」
「そうでショ!?だって可笑しいアル、銀ちゃんはマヨよりドレッシング派アルね!」

グワシッと胸倉を掴まれて、チャイナの顔が間近に迫ってくる。
マヨよりドレッシングだとォオオ!?あの野郎、ふざけやがって!!

「だからあのマヨラーには二個チンコがあるって知ってたのネ!
 私や新八が知らない所で、チンコ見せあう仲だったアルね!」

二個チンコって何だァアア!!(注:カブト狩り編参照)
くそ、あの天パ野郎は俺のいねー所でガキ共にどんな印象植え付けてやがるんだよ!?

「おおお落ち着け!チャイナ…じゃなかった神楽!
 アイツには二個チンコねぇ、一つしか…ってそれ以前に年頃の娘がチンコとか言うなァア!!」
「もう私は悲しいヨ!
 二人は乳繰り合う仲ならぬ、チン繰り合う仲だったなんてぇええ!!」
「オイイイ、てめ、いい加減にしろやコラ!チン繰り合うって何だよその造語!!?」

「おはようございまーす。・・・って朝から二人とも何をエキサイトしてるんですか」

挨拶して現れたのは眼鏡小僧。なんという絶妙なタイミングだ。
チャイナには俺が言い訳しても埒が明かねぇ、コイツに加勢してもらうしか…

「聞いてよ新八ぃいい、銀ちゃんってば二個チンコ野郎と夜な夜なギシギシアンアンしてるのぉおお!」
「オイ、勝手に話を飛躍させてんじゃねぇ!!」

銀時・・・。なんだか俺、やっていける自信が早くもなくなってきたんだが。
真選組に負けず劣らずひどい有様過ぎる・・・。


「あれ?いつもとなんだか服の着方が違いませんか?」
「え」

大波乱の朝食を終え(なんとかチャイナの誤解…というのも変だが俺と銀時が付き合っているんじゃないか、という疑いを解いた)、俺はガキ二人を連れて依頼人の家へと向かう。
草むしりの手伝いというのが面倒だったが、仕事は仕事だからしっかりこなすのが俺のポリシーだ。
という気持ちに切り替えている時に眼鏡小僧にそう言われる。

「いっつも、片方は着物、腕通してないじゃないですか」
「あ…っとまぁたまにはイメチェンをだな」
「やっぱり銀ちゃんに何かあったとしか思えないアル!
 二個チンコの呪いヨ!」
「だから二個チンコじゃねえっつてんだろ!それ以前に昼間からそういう言葉を発するな!」

全く、銀時は一体どんな教育してやがる!?と思いつつも、アイツが普段してるような着方にする為に腕を袖から抜いた。
なーんかヒラヒラすっから気になるんだよな、コレ…。

「ん」

コツン、と爪先に何かが当たったので足元に目を向ける。
すると眼鏡が転がっていた。
落し物かと思って拾い上げると、キョロキョロと辺りを見回している忍び装束の女がいる。
くの一のコスプレか?こんな真昼間から?
というかこの眼鏡、あの女の落し物か。

「おい、そこの女。コレ・・・」
「あっ、銀さぁああん!」
「うぶっ」

確かめようと声をかけた途端、女は突然こちらに駆け出してきて抱きついてくる。
オイイイ胸が!胸が当たってるんだが!

「あ、さっちゃんさん、こんにちは。今日も銀さんに会いに来たんですか?」
「違うわよ。たまたまよ、たまたま。
たまたま銀さん達が草むしりの依頼が入ったって知ったの」
「さっちゃーん。たまたまで依頼の内容は普通把握出来ないアル」

俺が…まぁ正確には銀時が女に抱きつかれたにも関わらず、ガキ達は冷静に対応している。
え、つー事は知り合いか・・・?
まさか考えたくもねーけど、彼女とか、じゃ。

いや、それはねー…よな・・・?

「と、とりあえず離れてくんねーか」
「あら銀さん、今日は罵ってくれないのね。いつもの激しさがないわ」
「へっ」

の、罵る!?
イヤそこまでは分かるが、いや分かるのもどうかと思うが、いつもって何だよ!?激しさって何!?
お前、銀時の一体何なんだよ!?

…本当に彼女じゃ、ねーと思いたいけど。
でもコスプレしてるし…アイツが好みそうなデカイ尻してるし…美人だし…

・・・ん?
お?
なんだ、この気持ち。

next