はい、斜め45度。ちょっと顎ひいて若干上目づかい。
更に着流しをちょっと肩のところまでおろして、熱っぽく声を出せば。
「「「迷惑なんかじゃないです、副長ぉおおお!!!」」」
色っぽい土方君の出来上がり!
30秒ぐらいで出来ちゃうから、皆試してくれよな!テストに出るぞー!
「ふふふ副長、自分が背中お流しします!」
「じゃっ、じゃあ俺が泡立てます!」
「泡立ててどーすんだよ!副長、そしたら俺が脱がせて差し上げますハァハァ」
なーんて、ちょっと調子に乗って土方君の体でそんな事をしてみたら、鼻の下伸ばしまくって興奮した隊士達が群がってくる。
うお、土方君てば大人気。
まー…そりゃあそうだよね。いっつもはコイツらにとっては雲の上のような存在だもんね。
同じ場所で衣食住を共にしてるのに、一緒に江戸の平和護ってるのに、出しゃばれば『切腹だコラぁああ』だもんね。
そりゃ、こうやって近づいてくれたら嬉しいよね…。
・・・。
だからって、同情するかってんだコノヤロー!
お前らが土方君と一緒に風呂に入るのなんか10年…いや、1億光年早いわぁあああ!!
俺だって一緒に入った事ねーってのに!
「テメーらいい加減にしろ!俺に群がってる暇があったらさっさと風呂入りやがれ!
じゃっ、俺は幹部用の風呂行くから」
「「「「「「ええええええ!!!」」」」」
「そんなー!副長ぉおお」
断末魔が残る脱衣所を後にし、俺はさっさと幹部に用意されている風呂場へと向かった。
ふー。やっぱり、土方君の裸をそんな簡単に見せてたまるかってんだよなー。
幸い、こちらの浴場には誰も居なかった。
折角土方君の体に入ったのだから彼の感覚を堪能したい所だったが、誰かが入ってきては困るので軽く浴びるだけにしておいた。
「へ。潜入調査?」
「そうだぞ、トシ。忘れてたのか、お前らしくない」
食堂に用意されていた朝食を済ませ、とりあえず今日の仕事を訊きにストーカーゴリラ…もとい真選組局長、近藤の所へと向かった。
すると、『潜入調査』といういかにもな仕事を言い渡されてしまう。
「あ、いや、覚えてたけど…一応、確認を」
「はは、そうだな。でもそうしたら俺より今回同行する山崎に訊いた方が良いんじゃないか?」
同行に山崎…ってえっとジミー君だっけ?えーなんか不安だなぁ、地味なだけに。
多分、捜査の準備をしているぞ、と言われたからジミー君を探す。
すると向こうも俺…土方君を探していたのか、おーいとこちらへと駆けて来る。
「副長ぉ!」
「おお、ジミー探したぞ」
「え、ジミー!?なんですかそれ、旦那の呼び方の真似なんてしないでくださいよ!」
ジミーと言われたのがそんなにショックだったのか、ジミー君は涙目になって揺さぶってくる。
えー…だって、普段土方君がジミー君の事、なんて呼んでるのか知らないんだもん。
普通に山崎、とかだったっけ?
というか確かいっつも土方君に暴力されつつ頼られてるんだよなぁ…。
などと考えていると、意外そうに目を丸くして見つめられた。
「…なーに?」
「いえ、いつもだったら、俺がこんな怒ってると
『うるせぇええ切腹させるぞコラ!』とか逆ギレしてくるから拍子抜けしちゃいまして」
あーなるほど。
普段の土方君はそんな感じなのね。
「それに、今日は煙草吸ってないし…」
「ええええ馬鹿だな、お前はっ本当!
今から潜入調査なのに煙草のにおいを体につけてどうする」
やっべええええそうだ、土方君はマヨラーで極度のヘビースモーカーなニコチン野郎でした!
俺、吸えなくもないけど金無いし煙草買う習慣ねーからなぁ…
どうしよう。不審に思われたかな?なんて相手の様子を探ってみたけど
『ですよね、さすが副長!』と称えられてしまいました。
んもーだからキミはジミー君なんだよー。
「ええええええ女装ぉおおお!!?」
「し、声が大きいです!時間ないんで、早くこのストッキングはいてください」
だが作戦の確認を始めるのかと思いきや、ジミー君は俺に女装させようとする。
え、もしかして潜入ってアレか!?かまっ娘倶楽部的なものか!?あっち系に行くのか!?
そういや、昨晩土方君がヤる前にすね毛とか剃ってた気が…
(薄いからあんま意味ねーんじゃねーの、むしろチン毛剃ってやろーかと言ったら殴られた)
翌日に女装する仕事が入ってたから、その準備だったってワケか。
畜生、真選組ィイイ俺の知らない所で土方君に女装させるなってんだよ!
「もー。副長だって仕事確認して、渋々でもちゃんとOKしたんですからしっかりしてください」
しかし、着させられたのは女物の着物ではなく黒地のミニスカワンピにフリフリの白いエプロン。
長髪のウイッグをツインテールにして、更にはヘッドドレスを付けさせられて。
ありーなんか嫌な予感がするんだぞ、銀さん!
「はい、目ェつぶってくださいね。薄くですけど、化粧しますから」
「いや、えとあの地味…山崎?」
「ちょっと副長!なんで今地味って言いかけたんですか!?明らかにジミーじゃなくて地味って言いかけましたよね!?」
「うるせーなー。ねぇ、それよりもしかして、俺達が潜入するのって
その、お帰りなさいませ、ご主人様ぁ〜的な所だっけ?」
「いいえ、違いますよ。
限りなくメイド喫茶に近いけどそこまでは徹底してないメイド喫茶っぽい店に潜入です」
「何!?その限りなくやる気があるんだかわかんねースタンス!」
あまりにいい加減な情報に、自分が今は土方君だというのも忘れていつもの調子で突っ込みをいれてしまった。
やべ、と思って口をつぐむと、やはり普段と違うのを察されたのかジミー君があんぐりと口を開けて見つめてくる。
あーもー…俺の馬鹿…。
「ど、どうしたんですか、副長。なんかいつもと様子が違いますね」
「えと…悪ぃ、色々動揺しちまってるかもなー俺」
「あ、そうなんですか。だから今日は殴る蹴るの暴行が少ないんですね」
「そっちかよ!!だからお前は地味なんだよ!」
「えええー!!」
微妙に論点が違うジミー君を俺は叱る。
えっとぉ…つまり土方君は、地味…じゃねぇやジミー君には常にドメスティックヴァイオレンスなわけね。
で、逆に沖田君は土方君にドメスティックヴァイオレンス…。
・・・なんか結構ハードな生活だね、土方君って。
「おぉー」
「どうですか、副長!山崎退、今までで最高の出来です!」
という感想は、化粧をし終えて鏡を見た事で掻き消された。
ジミー君の技術もだけど、多分これは元が綺麗だからだよね、コレ!
さすが土方君はメチャクチャ美人さんです。
ただ、そういう系列の店に潜り込むにはまぁ顔は良いとして、ちょいタッパありすぎじゃね?
ジミー君と違って、土方君は痩せてるけど、そこまで華奢な方でもないし…バレねーかな、コレ。
なんか失敗したら身体が元に戻った時にスゲー土方君に怒られそうなんだけど、コレ。
でもパー子やった時にあのバカ皇子に男だってばれなかったし、やればいけんのかな。
「あとは、女性になりきってくださいね。
お客さんにお尻触られても切腹だコラアアとか騒いじゃダメですよ」
「分かった。適当に指を2、3本折る程度に留めておく」
「ちょっとぉおだからそういうのがダメなんですってば、副長!」
ケツ触ってくるとか…大丈夫かなー。
いや、別に土方君のお尻を他人に触られたくないとかそんなんじゃねーよ?
(そんな邪まな理由じゃ…いやでも9割くらいはそうかもだけど…)
やっぱり男と女じゃケツ違うし、触られて男だってバレてもめんどくせ…
あーそっか。触られなきゃいいんだ!銀さん、あったまいい!
「じゃあトシ子ちゃん。これ3番ね」
「はーい」
そんな感じで、潜入捜査が始まった。
「お待たせしましたぁ〜オムライスですぅ〜」
ジミー君いわく、この店には度々攘夷志士が常連として来ている、との事。
確定情報ではないし、万が一何かあった時に隊長格以上の人間が傍に居た方が良い、との事で土方君が抜擢されたのだという。
「あ、あの出来ればケチャップで大好きって書いてくださ」
「ごっめんなさぁ〜い、そういうサービスは受け付けてないんですぅ。ごゆっくりどうぞぉ〜」
今日で何人目だ、っていうくらいこの手の注文が来てる。
やっぱり皆さんメイド喫茶と勘違いして入って来てんじゃないの?
大体ねぇ、オムライスにケチャップで大好き(はぁと)とかねぇ、俺だって土方君に書いて貰った事ないのに!
なんでテメーみてーな知らない男に土方君の身体(しかもメイド服)で大好きとか書かなきゃいけねーんだコノヤロー!
あーでも出来ればメイド服じゃなくて・・・いやいや、メイド服も可愛いよ?
土方君に似合ってるよ?でもさぁ。どっちかと言えば俺的にナース服のが良かったなぁみたいなね。
「副長!キレ出すのかと思ってハラハラしてましたけど、上手くかわしてるじゃないですか!」
「(はは。伊達に万事屋っつー接客業してないからねー)
まぁな。それより山崎。なにか有力情報は掴めたか?」
テキトーにこなしていく事に、感動したのかジミー君が小声で褒めてくる。
土方君を演じる事を忘れていた俺は取り繕うように、それっぽい質問をした。
「あくまでそれっぽい、っていう情報ばっかりですよ。やっぱりガセなんですかねぇ…」
「って言っても、まだそんなに時間経ってねーしな。もう少し粘ってみようぜ」
…とは言ったものの、スゲー足元スースーすんだよな、コレ。よく女の子はこんな頼りないモンはけるよなぁ…
つか土方君の腰が冷えたらどうしよう。
なんてとりとめない事を考えていると、トシ子ちゃん、テーブルにご案内して!と呼ばれる。
はいよ〜、と気持ちを切り替えて案内する客達が居る入り口に視線を向けてギョッとする。
「な、なんなんスか、ここ!客がムサい男ばっかりっスよ武市先輩!」
「当たり前ですよ、また子さん。ここはメイド喫茶に限りなく近い茶屋ですから」
「はぁあ!?いい加減にしてください、晋助様をなんつー所に連れてきてるんスか!?」
ギャーギャー騒ぎ出す男女と一緒に、片目を眼帯で覆った男の姿が凛と立つ。
オイイイ!!!攘夷志士どころか、一番ヤベー指名手配犯が来ちゃったんですけどぉおお!!
ど、どうしよう、どうするべきなの土方君!!
「やっぱり別の所に行きましょうよー晋助様!武市先輩の変態行動に晋助様まで付き合う必要ないっス」
金髪の強気そうな女の子が、そう言いながら高杉を連れ出そうとする。
おっ、お嬢さんナイス!そうだよ、お前らお尋ね者なんだよ!指名手配なんだよ!
今まさに真選組が潜入捜査でお前らの事、嗅ぎ回ってるからね!
早くとっととこっから出た方が・・・
「クク、いいじゃねーか来島。たまには別の趣向の場所で茶ァ飲んだって」
高杉ィイイ!
ちょっとお前、なんでそう気まぐれ男なの!?
そうだよ昔から高杉はそういう奴だったけどよぉ!!それより少しは危機感持てや!
というかどうしよう。
俺が案内に出ていいのかコレ。土方君だってバレたりしないかなコレ。
バレたらやばいよね。面倒な事になるよね、コレ。
しゃくっとくか?顎しゃくれば土方君だってバレねーか!?
・・・。
出来ないぃいい土方君のしゃくれ顎なんて見たくないもん!!!
「そうっスか…?晋助様がそう言うんなら…オイ、そこの店員。3名っス」
「は、はい〜…こっ、こちらへどうぞぉ〜」
坂田銀時、土方君の体で絶体絶命大ピンチなんですけど!!
『君との日常、つまりは』
「…ッ、ぁ、ぁあん」
どこからか喘ぎ声が聞こえて俺は目を覚ます。慣れた声色に息遣い。
ぼやける意識と外界を繋ぐ瞼をゆっくり開けた。
枕に頭を埋めてる体勢の体は、いつものだるさはなくスッキリしている。
「は、あン、ぁ」
可笑しいな。
アイツに抱かれた後は大抵倦怠感を伴うというのに。
・・・終わった後、すぐに出された精液掻き出したのが良かったのか?
あー…こんな清々しいのは久しぶりだ。
これから女装しての潜入捜査が在る事を思うと、もう少しこのまま寝たい…
「あっ、く」
つか、真面目にうるせーな。AVつけてんのか?音量下げろってアイツに頼も…あれ?お?
「あう…」
ええええええなんで俺が鏡の前で裸で声出してんだ!?
通りで聞き覚えがある筈だ、今までの声は俺のモンじゃねーか!
というか、じゃあこの俺は何…?
起き上がって恐る恐る体に視線を向ければ、いつもより白い肌。
視界にはちらちらと銀色の前髪が揺れる。
・・・まさかこれ、銀時の身体・・・か?
じゃ、じゃあまさかあそこで腰振ってる俺の中に居るのは。
「あ、っあっあっ、銀時ィ…」
銀時じゃねーか!!!