俺の居ない時の君は、誰といるのかな、とか。
何してるのかな、とか。
どういう事考えてるのかな、とか。
俺の事、少しでも思い出してくれてるのかな、とか。
我ながら乙女のような事、考えてるなんて分かってるんです。
『君との日常、つまりは』
初めは照れくさかった、男同士で入るラブホにも慣れてきた頃でした。
ゴムつけなくても、生でヤって中出しするのを許してくれるようになった頃でした。
好きって言ってもね、殴らなくなってきた頃でした。
お、これはちょっと、そろそろ今まで培ってきた変態プレイを試しても良い時期じゃないの!
と勝手に一人で舞い上がっていた頃でした。
「あーうー…土方君、そろそろ出なきゃ…ん?」
ものっそい身体がだるい+おまけに声が変です。擦れます。
それ以前に、こんなハスキーボイスでしたっけ?俺?
ごろ、と覚醒しきってない意識のまま寝返りを打つ。
と。
「あり?俺?」
目の前には、すやすやと気持ち良さそうに眠る俺の姿。
あーそりゃあ、大好きな土方君とヤった後だから、気持ち良く快適な安眠を…
「んー?」
いやいやいや、可笑しいでしょ。可笑しいからね、なんで俺が目の前に居んの。
・ ・・。
はっ!
まままままさか幽体離脱!?もしかして身体がだるいのもそのせい!!?
「たったたた助けて土方くーん!君の大好きな銀さんが幽霊になっちゃ…」
驚きで叫びながらベッドから立ち上がると、ふと何も纏っていない股間に目が行く。
いつもは銀色の陰毛が、何故か黒です。
はい、可笑しいです。
嫌な予感がして、俺は急いで全身が映せる鏡の前へ駆けて行き。
「うっそ、マジでかこのヤロー」
呆然としながら呟いた。
俺の身体が、愛すべき土方君の体になってしまっていたから。
顔も土方君。大好きな髪の毛も、真っ直ぐな鎖骨も、引き締まった全身も、網膜に焼き付ける程刻み付けた彼の、もの。
おそるおそる、鏡を覗き込んで乳首に触れる(本能ですから、コレ!)
コリ。
「…うわぉ」
この指に馴染む感じ。乳輪の大きさや色といい、土方君の乳首以外何者でもない。
それ以上でも、それ以外でもない。
というか、感覚も土方君のものらしく、乳頭に触れただけなのに感じ方が半端ない。
こりゃあ俺に舐められただけでもひゃんひゃん言うワケだわ。
>自分で乳首を摘まんで弄っている内に、なんだか変な気分になってくる。
当たり前だ。
だって鏡に映る姿は土方君なんだもの。
つまり俺から見たら、あの子が自分で乳首弄ってる姿なワケで。
「ぁ、ン」
とりあえず声を出してみる。
あーあー俺が出してるのに聞こえてくるのは土方君の声ですよ。
ヤバイね。どれくらいヤバイかっていうと、かなりヤバイね。
そこで、俺はピコーンって良い事を思いつく。
普段の土方君じゃ、絶対にシてくれない事。
「あう…」
彼が滅多に出さないような声でわざと喘ぎながら手をついて、柔らかい土方君のチンコの裏スジを鏡にぺたりとくっつける。
そしてゆっくりと擦りつけ始めた。
俺が開発したおかげか、土方君の体の感じ方は半端ない。
彼が俺だけに見せる、感じてる時のカオ。
頬を少し赤らめて、僅かに唇を開いて、いやらしい目つきで俺を見る。
鏡に映るそんな土方君は扇情的で、ホントにそそってくれる。
「あ、っあっあっ、銀時ィ…」
彼の声で鳴く。
土方君のオナニーの仕方、知らないからなんとも言えないけど、俺の名前呼んでくれてたら嬉しいなー…
「てんめぇえ!!人の身体使って変態な事してんじゃねぇえええ」
「あいたー!!」
淫らな彼の姿に興奮してきた所で、思い切り蹴りを喰らわせられる。
変な叫び声を上げながら俺は倒れこんだ。
何事かと見上げれば、そこには裸体の俺の姿。
「ちょっ、俺の大事なトコが丸見え!お嫁に行けなくなる!隠せコノヤロー!!」
「上等だ、俺の姿で自慰してた奴が偉そうな事言ってんじゃねーよ!」
「俺の姿…って事は、土方君?」
めっちゃ不機嫌そうな表情をした俺が、『そーだよ』と呟く。
あれー…えっとつまり。
俺達の身体が入れ替わっちゃったって事?かな?
なんで?可笑しいなー。
眠りに入る前は、確かにお互い大丈夫だったのに。
「ったく、なんで俺がテメーの体に入らなきゃいけねーんだ。なんか苛々する」
「んー…とりあえず土方君、そろそろ出ないと。時間だし」
「意外に冷静だな、オイ」
俺の体に入ってるくせに、なんでそこまでキリキリするかなぁ。
やっぱり頭に血が上りやすいのは精神的な問題?
というか、ものっそい意外そうに見てくるから、我ながらムカつきますね。
いや、精神は土方君でも、声も顔も俺だからね、やっぱり。
自分に『意外に』とか言われるとムカつくね。
「つか、なんで俺とお前、入れ替わってるんだ」
「知らねーよー。いいから早く服着て、土方君。
あれ?でも今は坂田君?」
とりあえず、早く身支度して出ねーと!
悠長に原因を問いただしてくる彼をシカトして、俺は土方君の着流しに袖を通す。
うお。なんかこの角度から見る土方君の胸元ってヤバイね。
胸板と着流しの隙間具合がヤバイよ。
こうさー…高杉みてぇに前をもうちょっと肌蹴させて露出を…
「オイイイ!てめぇ、何だソレは!肌蹴すぎだろうが!!」
無視されて黙々と俺の服を着込んでいた土方君が、俺の身支度を見るやいなや食いかかってくる。
「えー?いいじゃん。土方君のおっぱいならこんぐらい出しても平気じゃね?いけんじゃね?」
「お、おっぱ…!?てめぇ、いい加減にしろ、この状態分かってんのかよ!?」
おっぱい、という単語に顔を真っ赤にさせて胸倉を掴んでくる。
あちゃー。自分にこんな至近距離で迫られても嬉しくないというか。
「いいか、元の体に戻れるまで、お互い生活を交換しなきゃなんねーんだ!
俺は今日だって隊務があるし…!お前、今日仕事入ってんのか」
「あーあるよ。草むしりの手伝い」
「草…!!」
俺の体で草むしりをやらされるのが屈辱なのか、顔に手を当てて絶望ポーズをとってくる。
「まーそんなに気を落とすなよ土方君。
神楽も新八もいるし、すぐ終わる仕事だから後は家で昼寝してりゃいいんじゃん」
「・・・!
百歩譲って俺はいいとしても、テメーはどうすんだ。
これから俺の身体で仕事こなすんだぞ!?」
「んーなんとかなるだろ。ジミー君に頑張らせるよ」
ケセラセラな俺の態度が気に入らないのか、説教を続行させようとする土方君…もとい俺の腕を引っ張ってとりあえずラブホを後にする。
分からない事は新八にさりげなく聞いて、とだけ告げて俺は屯所へ、土方君は万事屋へと帰っていく。
本当は新八達や真選組の連中に体が入れ替わった事を説明した方が早いのだろうが、それでは俺達が夜中に会っていたことがバレてしまう。
内緒の関係なだけに元に戻れるまで、なんとかやり通すしかない。
そうして夜明け前に、屯所の裏口から入り込んで土方君の部屋―副長室へと辿り着けた。
急いで障子を閉めて一息ついた後、灯りをしぼって室内を照らした。
とりあえずまだ日が昇るまでは時間があるし、まだ少しくらい寝れる時間はあるだろう。
そう思って襖を開け、きっちり畳んでしまってある布団を外へと出す。
「あー…だりー」
しかし、なんつーか身体がだるい。
特に腰の辺り。つか肛門にも微妙に違和感を感じる。
え?もしかして土方君てば、いっつもヤった後こんなにダルイの?
うそ、マジで?
そういえば、今回は色々変な体位をさせてしまったような…
というかアレ?俺ゴムしてたっけ?
いや、してない。って事は中出ししたんだっけ?
ん?そういや土方君、あの後掻き出してたような…えーとーうーんと…
覚えてねぇえええ!!
あんな理性ぶっ飛んだ最中の事なんか覚えてねーよ!
だって仕方ねーじゃん。
土方君可愛いんだもん、エロイんだもん、お尻ぶっ叩きたくなるんだもん。
仕方ねーじゃん!!!
あれ?
もしかしてこういう思考回路って彼氏失格?
くそーもうちょっと労わってやっか…でも、まだ試してみてープレイが…
あ、そしたらそれを試してから労わるか…
てか、心配しなくてもよくね?マゾっ気ありそうだから、むしろ喜ぶんじゃね?
なーんて、自分に都合の良い最低な事を
愛しの土方君の布団の上だと言うのも忘れて
グルグルと何時間も考えていた頃。
俺の扮する土方君の多難な一日が始まった。
「とう」
「ぎゃああああ」
朝日が見え始め、鳥がさえずり始めた時間帯。
ドガシャァアアンと酷い音を立てて部屋が爆発した。
驚きで叫ぶ俺を尻目に、煙の中から現れたのはバズーカを背負った沖田君。
出たぁああ人の話を全く聞かない、サディスティック星の王子!!
「おはようごぜーます、土方さぁん。良い朝ですねェ」
「どこが良い朝!?全然清々しくねーよ、メッチャ煙でモクモクしてるよコノヤロー!」
「あらら、朝から元気なお人ですぜィ。
明日は起こしてくれって俺に頼んだのはアンタでしょーが」
「どんだけバイオレンスな起こし方!?」
いや、いっつも沖田君に土方君が弄られてたから見慣れたものだったけどさ!
ここまで身の危険感じるモンだとは知らなかったんですけど!
「んー?今日の土方さん、可笑しくないですかィ」
「はい?」
「なーんかいつもと反応が違うっつうか…」
じっ、と大きな瞳が俺を見つめてくる。
やばい、やばい。なんか焦るんですけど、こうやって見られると!
え、大丈夫、大丈夫、落ち着け、落ち着くんだ俺。いや、今は土方十四郎!
だって今はツラも体も土方君だもんね!
「そそそそんな事ねーよーとりあえず着替えるから出てけ」
「えぇ?もう着替えるんですかィ?
アンタいっつも朝風呂入ってから着替えるじゃないですか」
「だっ、だよなー。ちょっと今日は寝ぼけてるみてぇだぜ、沖…総悟ー」
うおおおおなんか思ってたより土方君を演じるのって難しいかもよ!
やっべーなー…万事屋に行ったあの子は大丈夫かな…。
というか、沖田君相手にこれだけ手こずってちゃマズイよね。
土方君の下には何人も部下がいんだし…
とりあえず、隊服と備え付けのタオルを持って…と思ったけどよく考えたら風呂場が分からない。
何回か屯所には来た事があるから、副長室と応接間の位置ぐらいは把握してるけど…
なにせこの広い敷地内、勘で辿り着けるような場所ではない。
「ど、どーしよ…」
頼みの沖田君はすぐさま何処かへ居なくなってしまったし、朝が早いせいか隊士も誰一人見当たらない。
仕方ない、風呂に行ったとみせかけてその辺でパパッと隊服に着替えよう…
と思っていたら、朝錬を終えた様子の隊士共を発見!
しかも汗流しに行こう、とか言ってるし!これはついていくしかない!
あーでも、野郎共と同じ風呂に入るって事ぁ土方君の裸晒すって事だよな…。
まぁそれは当たり前だし、俺の居ない所ではアイツにとって日常茶飯事なんだけど。
だって恥ずかしがっちゃって、まだ一緒にお風呂入ってくれないんだもん、土方君。
そりゃあヤってんだから、裸は嫌って程見てるけどさ(てか嫌じゃねーけどさ!)
俺としてくれない事を、他の奴らとはしてるなんてちょっとジェラシー。
なんちって。
「おはよー、皆」
土方君が隊士達にどんな挨拶するか知らないから、適当に声をかけて脱衣所に潜入。
おーおームサイ野郎の裸ばっか…と思った直後、注目が一斉にこちらに注がれたと感じた時には連中が奇声を発しだす。
「副長ォオオ!ちょ、アンタ何してんですか!」
「おはよー、じゃないですよ!寝ぼけてる場合ですか!」
「え、なに?俺なんかした?」
「何かしたも何も、ここは一般隊士の浴場ですよ!幹部の浴場は向こうです、副長!」
アイドルを前にしたファンかお前ら!
という勢いでキャーキャー騒いで猛抗議してくる。
えー…幹部の風呂なんかあったんだ…。
でも、ちょっと遊んでやるのも楽しいかも(はぁと)
「そ、そんな文句言うなよお前ら…俺だって、たまには部下と裸の付き合いしてぇっつうか…」
普段の土方君じゃ絶ッッッッッ対言わないような事を甘い声で溜め息混じりに呟いてみる。
「でも、悪ィ…俺がここにいるのはお前らには迷惑だったみてぇだな…」