恐怖で声が喉がこんなに震えるのは初めてのことだった。
相手は同じ人間で、男で、むしろ生徒を護る立場であり、頼れる教師という肩書きの筈なのに、この世で一番理解に苦しむ存在のように思える。
強がりや虚栄などは一切通じない相手だと。

「こんな事って、どれ?」

土方は呆気にとられた。否、脳が一瞬だけ思考を停止したと言っても過言ではない。
生徒を騙してあんな舞台で屈辱を与えて、どれ、だと訊ける人間がいるのかと、やはり理解に苦しんだ。まるで自分の方が可笑しいのではないかという感覚に陥る。

「どれって、先生、この状況は、変ですよね」

だが至極冷静でいようと土方は努めた。そうでなければ気が狂ってしまいそうになる。
動けないように縛られ、両足を閉じれないように開かされ、在ろう事か肛門に異物が差し込まれているなんて、可笑しい。自分は可笑しくない。相手が可笑しいんだ。

「変ってどの辺が?」
「先生、じゃあ、まず初めに俺を騙しましたよね。昔の教え子を説得したいから、俺に立ち会って欲しいって」
「あーなんだ、その事か」

なるほどなるほど、と一人頷きながら銀八はテーブルの上に置いてある皿の上に手を伸ばす。その中には飴がディスプレイのように飾ってあってその一つを摘まんで彼は己の口の中に放り込んだ。

「それは悪かったと思ってるよ。だってそうでもしないと、クソ真面目なお前はついてきてくんねーだろ?」
「どういう事ですか?…初めから俺に、あの舞台でのショーをやらせる気だったんですか」
「当たり前だろーが」

そして咥内で飴玉を転がしながらさも当然かのように銀八は言ってくる。

「で、後はどの辺が変だった?」
「・・・
 その後の事、全部です・・・」

後はどこも変な所はないだろ?と言わんばかりにこちらを見てくる。反論をいくつも考えていた土方は、何も通じない相手に対して本当にどうしたら良いか分からなかった。分からなくなり、仕方がないので今を含めた全てを『変』だと伝えた。直後、ガリッとした音が聞こえる。おそらく銀八が飴玉を噛み砕いた音だろう。静かな部屋の中で、その音だけが響いてとても不気味に思えた。

「その後の事って?」

白蛇のようなしなやかな銀八の指がさらりと土方の頬に触れて、這う。その行動は土方をまたも恐怖に陥れ、言葉を紡げずにいると代弁するかのように教師は言った。

「ああ、オッサン二人組に椅子に縛られて、舞台に出されて」

途端、ゾワリとしたものを背中に感じた途端、フラッシュバックが土方を襲った。
可笑しくなっているとしか考えられない観客と、当てられるスポットライト。勝手に触られる乳首や性器。

「ぬるぬるになったちんぽ扱かれて」

耳の中を何度も舌が行き来し、蹂躙される体と一緒に何度もくちゅくちゅという音が鼓膜を犯した。

「そういや、初めは嫌がってたけど段々気持ちよくなってきたのか、体から力抜けてたよなー」

まるで自分のモノとは思えなかった。
他人に弄くられ、見世物にされたというのに勃起していく事が信じられなかった。
更にマイクで音を拾われて涙が止まらなかったのを覚えている。
そうだ、そして、その後には。

「やめ、て」
「マジお前が泣き始めた後は会場、半端なかったよなー。皆、お前を犯したくて仕方ねぇって感じで」
「先生、もう、やめて」

その後は。

「で、進行役の奴がさー調子に乗ってお前の尿道と肛門に、ずっぷりバイブを…」
「言うな、言わないで」

そのあとは

その後は滅茶苦茶だった。
差し込まれる筈のない場所に異物を差し込まれ、同時に犯されるその痛みは体だけでなく、心に絶望すら抱かせた。
暴れる土方の体を男達が押さえ込み、なだめるように全身に愛撫を施すのだ。
初めは痛みだけであった。抉じ開けられる痛みは、気を失いそうになるくらいのものだ。
そうだった筈だ。

『あっ、ぁ…』

何度も繰り返される内に、今まで上げていた悲鳴と違う声を出した事に驚いたのは土方であった。
しかしその色のついた声を出したのは紛れもなく自分。

『んぁっ、ぁ、あぁああ』

彼らが快感を引き出すのが上手かったのかどうかでは定かではない。
しかし、土方の体を支配したのは痛みではなく、快感だった。意味が分からなかった。
なのに感じるのは気持ち良さ。

『は、ぁあ』
『おっと、どうやらやぁっと気持ちよくなってきたみたいですよー皆さん』
『んっ、ん』

肛門から入れられたバイブは信じられぬ程の快感を刺激する箇所を攻め、尿道に入り込んだ管はゆっくりと未知なる奥の奥に触れる。やがていつの間にか、声を上げながら土方は腰を振り始めていた。涙が止まらない。口の中に入り込んできても気にせず、もっとと強請るように腰が動く。

「それで、自分から求めてるみてぇに体動かしてたよなぁ」
「違う、嫌だ」
「なぁ、そんで最後には」
「先生やめて、嫌だ、違うんだ、違う、」

動く。動かしてしまった。
嫌だった筈なのに、自分に恥辱を与える男達に強請るように、喘ぎながら。

『あっ、っ、は』
『ほら、抜くぜ?イクぜ?』
『あ、イク、いく、・・っあ』

同時に、尿道からも肛門からも玩具を抜かれて。

そして

「射精したよなぁー土方」
「やめろぉおおおお!!!」

ハァハァと息をしながら銀八の言葉を遮るかのように土方は叫ぶ。
鮮明に覚えている記憶を全て塗り潰してしまいたかった。
あんな辱めを受けて、達してしまった自分の事など。

「なん、で、なんで…」

銀八を見ていられず、土方は項垂れて繰り返す。
何故、どうして。
嫌だった筈だった。気持ち悪くて仕方なかった筈なのに。

「あ、そういやさー俺、処女嫌だって言ったじゃん。覚えてる?」

そんな土方に対して銀八はあっけらかんと訊いてくる。
その言葉はこの一連の事態の引き金のようなものだ。忘れるわけもない。
しかし答えずにいると銀八は続けた。

「でさーイった後にお前、気ィ失っただろ?まぁショーも続けられないって事で、ステージからおろしたんだよ。そんでその後に、オッサン達に回したから」
「・・・は?」
「だから、あのオッサン二人いたろ?あの人らに気絶してるお前、抱かせたから」

良かったなー、処女じゃなくなって。と銀八は小さく拍手する。
男に対して処女喪失は違うだろと何処かで冷静に考える自分がいる。それ以上は考えたくなかった。
あの男達に、気を失っている間に抱かれたなど、考えたくもない。

「オッサン達、よっぽど興奮したのかさーホラ見てみろよ、ゴムつけずにヤッたから、中出ししちゃったみてぇなんだよなー」

指をさされ、思わず視線を下げてしまう。すると濁った液体がバイブの間から零れ出ているのが視界に入った。
意識が途切れそうになるのを懸命に堪えた。ここで気を失えば次は勝手に何をされるか分からない。
何より、理性を保っていなければ心が壊れると思ったのだ。

「ま、これで心置きなくヤれるけど」
「あぁっ!?」

ズボッと予告なく秘部の玩具が抜かれ、声をあげてしまう。栓がなくなったソコはこぷっと音を立てて精液を零した。
刹那、カチャカチャという音がしたと思うとズボンの前をくつろげ、下着から己自身を銀八が取り出したのが視界に入る。思わず土方は目を見開いた。

「先生、やだ、もう頼むから、やめて」

数秒後の自分を容易に想像出来たからだ。
散々犯された場所に、銀八が入り込んでくる。土方を抱こうとしている。
首を振って哀願した。許しを請うように言葉を繰り返した。

「やめろ、お願い、先生、俺壊れる、これ以上されたら、壊れる、いやだ」
「お前は壊れないよ。だって今から先生が気持ちよくしてやるんだから。」
「いやだぁああ…!」

言葉の抵抗も空しく、既にかたくなっているソレに貫かれるのを、感じた。

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