「なんだ、あいつ」

家の扉を開けて玄関で靴を脱ぎ。
ポケットに入れておいた携帯を開いても
土方からの着信やメールを知らせるアイコンは表示されない。
ため息をつきそうになるのをなんとか呑み込み、
そのままソファへと倒れこむ。

『俺達だって、一緒に帰らない時はある』

教師の伊東にそう自分が言った筈なのだが、
その言葉を高杉は信じられずに居た。
進路相談、と高杉と一緒に帰るのを土方は断ったが
もしこれからも一緒に帰らない前兆だとしたら?
もしかしたら、クラスメイトと帰る為の嘘だったりしたら?
いつもなら『今日は一緒に帰れなくてごめんな』
などの謝罪メールなり電話なりがくる。
なのに今日は来ない。
今頃、土方は勉強していた自分に嘘をついて、
最近仲が良いと言う近藤や沖田と楽しく喋っていたとしたら?

「ハッ、アホらし…」

クッションに顔を埋めながら
少しでも土方を疑ってしまった自分に腹を立てる。
土方は嘘をつかない。
いつでも正直で、そういう人間だという事を一番知っているのは
高杉自身なのだから。

「十四郎…」

普段、あまりしない勉強のしすぎか頭が痛かった。
しかしこの痛みも、あの愛しい幼馴染との未来の為なら苦ではない。
もう高杉には生きる理由は無いのだから。
それでも、生きなければいけない。
それが優しかった兄の願いだからだ。
そして唯一高杉を愛してくれる、土方の為。

「お前は、この哀しい世界に奪わせたりしねぇから…」

高杉に残された、この世界で唯一の宝物の為。


『そんな風に笑わないで』


「う…?」

頭が痛かった。
喉も痛み、声も掠れている。
重いまぶたをゆっくりと持ち上げると、白い天井が視界に入る。
円形の蛍光灯が部屋を煌々と照らしているのは分かった。
そこでふと、咥内がぬるぬるとした感覚を覚えている事に気付く。

なんだコレ。気持ち悪ィ。口を漱ぎに…
そこまで考えかけて、土方は意識が一気に覚醒した。
同時に背中に冷や汗をかいた。

そうだ。さっきまで俺は、あの男達に…!

「あぁ…っ」

急いで体を起こそうとした途端、全身に甘い快感が走る。
ドクドクと血が流れるのを感じながら
体の異変に土方は動揺を隠し切れない。

「な、に…!?」

そこで辺りを見回して、己のまともではない体勢にようやく気付いた。
一人がけの黒い革張りのリクライニングソファに縛り付けられていたのだ。
M字に大きく開かされた脚は足首と太腿で左右それぞれベルトで縛られており、
蕾にはどす黒いグロテスクな淫具が入れられて抜け落ちないように固定されている。
更に陰嚢にはローターがつけられ、尿道には管状のものが少しだけ顔を出す。

「なんで、だ」

混乱する頭で、ようやく土方はそれだけ呟いた。

終わった筈だった。
あのステージ上での屈辱的なショーは終わった筈だ。
もう帰れる。
帰れる筈だったのに。
なんで。なんでだ。ここは何処だ
晋助、晋助、早くお前の所に帰りたい


「おはよう、土方」


早く、晋助の所に


「せん、せ…」

その声にゾクリとした。
自分をここまで追いやった元凶が
眼鏡の奥に冷たい瞳を携えて現れた。
思わず動きを止めて、銀八を土方は見る。
すると徐に男の手は弄られすぎて敏感になっている
土方自身を強く握る。

「あう!」
「土方ー、先生さぁ。今朝教えたよなぁ?」
「ひっ、ぁ!やめろぉ!はな、はなせぇええ!」

「先生が挨拶したら、ちゃんと挨拶しなさいってさー?」

銀八は無表情のままグニグニと土方の牡を弄る。
いっその事笑ってくれてれば良いのにと思う。
感情が読めない程恐ろしいものはないと
土方はこの時初めて知った。

「せんせぇ!痛い、本当に、いやだ…!」

自分でも思ってしまうくらい
痛々しく土方自身は赤く充血していた。
自慰くらいでしか使った事のないソレを
乱暴に扱かれ、尿道を無理矢理穿り返されたのだ。
何度も絶頂を迎えたその身体は疲れ果て、
擦られても快感は生まれず、痛みしか感じない。

「あぁああ!」

徐に銀八の親指が鈴口を押し潰す。
余計に異物が中に入り込み、
土方はあまりの激痛に舌を突き出して喘いだ。

「やめっ、せんせ、やめて、やめてくれぇええ!!」

首を左右に振って懇願しても銀八には通じない。
興奮も何も見せないまま、淡々と土方を攻める。
どうしたら良いか分からなかった。
両手も両脚も拘束されていて何の意味も持たない。
抵抗の言葉も意味を成さない。

『土方ー、先生さぁ。今朝教えたよなぁ?』

そこでふと土方は思い出す。
今しがた銀八が言ったばかりの言葉を。

『先生が挨拶したら、ちゃんと挨拶しなさいってさー?』

挨拶…!
それしか思いつかない。
この強硬な彼の行動を止める術がもう見つからない。

「せんせ、い」

震える声で言う。
自分でも笑ってしまうくらいか細い声で。

「お早う、ございます…」

これが違ったらどうすれば良いんだ。
そんな考えが頭の中で駆け巡ったが
途端、土方自身から銀八の手が離れる。

「はい、さすが土方は賢いね。よく出来ました」

よしよしと頭を撫でられる。
あまりの安堵に堪えていた涙が溢れそうになった。
だが、すぐに土方の頭は冷静さを取り戻す。
この狂った状況を打破しないといけない。
相手は仮にも教師だ。
話をなんとかつけなければ。


「…先生」

「なにー?」

「俺、どうしてこんな事、されてるんですか」
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