「な、んで…ッ」
涙目の土方が俺を睨みつける。
それは一体何度目の行為?
所詮、俺を昂らせるモノにしかならないのに。
ああ。でもいつもと違う事がある。
彼が俺に向けるのは、戸惑いではなく憎悪。
「なんでこんな事すンだよ!?
俺が銀八に何したって言うんだよ…晋助まで巻き込んで…!」
そう言って、俺の胸倉を掴んで床に押さえつけた土方の力が弱くなる。
気付けばボタボタと零れてくるのは涙。
彼が生んだ、塩気のある雫。
「答えろよ!何なんだよ、お前!」
こうやって教え子が声を荒げて泣いている姿を見たら、普通の教師は慈愛の情でも湧くモンなんだろうか。
でも俺の胸中にはちっとも湧かなくて。
むしろもっともっと泣かせてやりたくて。
なぁ。もっと苦しめば良いんじゃない?
なぁ。もっと俺に泣かされれば良いんじゃない?
なぁ。泣けよ。憎めよ。もっと、もっと。
楽しくて仕方ねー。
「なーに?知りたい?先生が土方達にこんな事、する理由」
唇に落ちた土方の涙を舌先で舐め取れば、愛しい生徒は驚愕に目を見開く。
はは、そうだ。もっと怯えろ。
俺という存在を恐怖で刻み込め。
「ハッ、怖気づいてんじゃねーよクソガキ」
思い知れ。
『そんな風に笑わないで』
(遡る事、数ヶ月前)
見つめる。
見つめる。
今日も君を。
アイツの隣の君を。
教室では絶対見せないその貌。
アイツの隣で、君は見せる柔らかい貌。
「何、アレ」
薄暗い準備室のカーテンの隙間から
俺は彼を見つめる。
放課後の日課。
彼が昇降口から出て正門から帰っていく様を
上から下まで嘗め回すように見つめて
視姦するのが俺の、放課後の日課。
不真面目な俺の授業を
真面目に受け止めて習おうとする
馬鹿で愛しい我が教え子。
そんな彼が最近、隣の伊東先生のクラスの生徒…
高杉晋助と幼馴染で
間に入っていける者が居ないくらい
仲が良い事を知った。
「何、あの貌」
知らない。
知らない。
そんな君は。
「…悪戯して、泣かせてヤりてぇなァ、オイ…」
レロリと舌を覗かせて俺は
常時携帯している飴を舐める。
「なぁ、土方…?」
くすくす笑いながら、
眼鏡の奥で双眸を俺は歪ませると
何も知らずに高杉の横で笑う彼を
滅茶苦茶にしてやる算段を考える。
想像しただけで吐き気を催すくらい
愛しさと笑いが喉の奥から込み上げた。
ああ、楽しい。楽しい。
楽しいね?