銀時の形の良い唇が俺の手の甲に触れる。
思わず顔が熱くなり、
そんな自分を否定したくてその手を振り払った。
「…ッ、にするんだテメェ…!」
「おや、テメェとはあんまりですね。
親愛の証ですというのに、コノヤロー」
「…!?
これは婦女子に対してするモンだろーがっ!
男同士でするもんじゃねぇよ!」
「そうなんですか…?そうとは露知らず。
申し訳ありませんでした。ご主人様」
絶対ぇ申し訳ないと思ってないだろ、この執事!
にやりとほくそ笑んでから
謝ってお辞儀したって遅ぇんだよっ
「銀時!てめぇ、これ以上俺に舐めた態度取りやがったら
どんなに有能な使用人頭でも即解雇だからな!」
「十四郎様、伯爵たるもの。
そのようなお下品なお言葉遣いはしてはいけません。
それにまず、貴男は私を解雇出来ませんよ?」
続けて彼は、
朝のお茶はアッサムで宜しかったでしょうか?
なんて悠長に言ってくる。
それを見つめながら俺は唖然とした。
解雇できない…?どういう事だ。
「おや、納得出来ない、というお顔をなさってますね」
銀色の髪を揺らし、楽しそうに笑いながら
ティーカップを渡してくる。
「でも、親父の遺言では全ての遺産は俺が引き継ぐと」
「ええ、そうです。だから貴方様は私のご主人様。
しかし、雇い主はそのお父君」
そっと長い銀色の睫毛を銀時が伏せるから
俺はハッとした。
そうだ。
彼は家族もなく、帰る場所もなく…
しかし親父がその才能を見出した最強執事。
「遺言の中には『十四郎か己の命が尽きるまで、我が息子に付き添え』
というのがあったのを、ゆめゆめお忘れのないよう」
そう言われてしまえば、俺は黙るしかなくなる。
仕方なく差し出されたティーカップを受け取ると
また嫌な笑みを浮かべてくるから、思わず俺は睨みつけた。
「私の愛しいご主人様」
が、彼は臆する事無く目を細めて呟く。
「貴方様が死ぬ時は、私が死ぬ時だというのも忘れないで下さいね」
時々、銀時はそういう事を言う。
本当に突拍子もない、タイミングで。
多分彼は口にはしないが、無類の寂しがりや。
俺はそれを知ってるから。
だから、命令する。
「…そう思うんだったら、
最低限、俺の身の回りの世話はしっかりやる事だな」
執事が淹れたお茶を飲み、そうして俺の朝は始まる。
ベッドから立ち上がり俺は銀時に早速命じた。
「着替えるぞ。手伝えや」
「・・・イエス、マスター」