愛しい俺のご主人様。

貴方はもう覚えていらっしゃらないでしょうが、
貴方様こそ俺の生きる理由。
例え遺言になくとも
十四郎様に仕えて死んでいく事は
俺が焦がれて止まぬ事。

白金に輝く銀のくせっ毛。
同様の双眸の色。
その色と毛質は、妖怪の銀狼を髣髴とさせ
きっと貴様は不吉をもたらすだろうと
古い慣習にとらわれた村から
まだ小さな子どもだったにも関わらず
着の身着のまま追い出された。

食べるものも無く、縋るものも無く。
道端にゴミのように捨てられ、ボロ雑巾のようだった俺を
見つけ、拾って下さったのは
今は亡きご主人様のお父上。

身分はおろか、どこぞの家の出とも分からぬ俺に
屋根のある寝床や腹が満たされる食事を与えて
文字の読み方や書き方を教えて下さった
笑顔の優しい旦那様。

何より、彼は十四郎様に会わせてくれた。
俺のこの世で唯一の宝物。

『銀時。君をこの家に住まわせる代わりに、条件がある』

そう言って、旦那様に手をひかれてやって来たのは
まだとっても小さかった十四郎様。
あの頃から気恥ずかしがり屋で
俺の挨拶も無視して仕舞われましたね。

『十四郎の、良き相談役になってくれないか?』

近藤家の勲公爵様には可愛がられていらっしゃるものの、
歳の近いお友達がいらっしゃらない、との事。
そこで、旦那様に見初められた俺がお側役に抜擢されたのだ。

俺は、初めて存在意義を任せられた。
故に十四郎様はその日から、俺の大切な宝物。
でも旦那様に任されたから、という理由だけで
十四郎様が大事なわけではない。

幼い十四郎様は、本当に俺に心を初めは開かなかった。
何を言ってもそっぽを向き、
遊びを誘っても断るばかり。

彼も、きっと恐れているのだろうと思った。
俺を捨てた村人達のように。
分かってる。
世界は、旦那様のようにお優しい人間達ばかりではない。
使用人たちは俺の容貌を見て
異質な子どもだと噂しているのを知ってる。

でも、貴方様だけには誤解されたくなかった。
他の人間が俺をどう思おうとどうだって良い。
だけど十四郎様。
貴方と旦那様だけには、俺はこういう人間だって知って貰いたかった。
だからある日、思い切って聞いた。

『十四郎坊ちゃま』

俺が呼ぶと、貴方はビクッと肩を震わせてこちらを見る。
そんなに怖がらないで。

『坊ちゃまは、私が怖いから私を避けるのですか』

俺はこんなに貴方に近づきたいのに、
どうしたら伝わる?

『この髪と目の色が恐ろしいのですか。
 だったらこの髪を全て燃やします。目玉も抉り取ります。』

ねぇ、どうしたら

『だから…』

『ちっ、違う。怖いわけじゃない』

すると、焦ったような声がかけられるから驚く。
そしてそんな俺に貴方様はこう言いましたね。

『き、綺麗、だから』

『…はい?』

恥ずかしそうに、やっぱり視線を逸らしながら。

『だから!俺って、髪の毛とか真っ黒だろ?
 でも坂田はすげぇ銀色でキラキラして、綺麗で。
 その、だから、まっすぐ、見れなくて』

そして段々語尾が小さくなっていくご主人様。
ああ、その時の俺の気持ちを貴方はご存知ないでしょう?

不吉だ。
異質だ。
普通じゃない。
そう言われて非難され、ゴミのように扱われる理由になった『ソレ』を
貴方は綺麗と仰られた。

その時の俺の気持ちを、貴方は知る由も無いでしょう?


『十四郎坊ちゃま。では慣れぬ内は正面から見れなくても良いですから』


俺が貴方様を愛して止まぬ理由、知る筈もないでしょう?


『坂田ではなく、銀時とお呼び下さいませ』



これが、俺が十四郎様を愛して止まぬ理由。
ひいては俺の存在理由。

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