「では、先に行ってるぞ、さっくん」
「…だからさっちゃんだって言ってんだろーが、コノヤロー」

B組の教室から、黒髪を揺らして出てきたのはC組の桂小太郎だ。
確かコイツも生徒会メンバーで、一部の噂によると化学の高杉先生と付き合ってるとか…。
(いや、俺としてはどんな噂だ、と耳を疑う話だが)
なんとか火照る体がばれないように平静を装うも、桂は俺になんて興味が無いようでそのまま横を通り過ぎる。
クソ…
今こんな状態じゃなければ、あの長髪注意出来んのに…

「あら、思ったより平気そうね」
「てめぇ、上等だコラ…!」

B組に入ると、もうクラスメイト達は全員はけているようで、猿飛以外誰も居ない。
日直なのか、机を動かしながら俺を見て彼女はそんな事を言ってくる。
…普通、日直って二人でやるもんなんじゃ…
というかそれより平気なもんか、下半身がジクジクして仕方ねーんだよ…!

「お前、俺に何飲ませたんだよ!さっきから声抑えんの大変だったんだぞ!?」
「あら、安心しなさいよ。今からもっと声出す事になるから」
「は…え…!?」

素早い動きで彼女は俺に接近すると、ネクタイを瞬時にスルッと抜き取ってくる。
そして気付いた時には、並べられた机の上に俺は仰向けになり、両手首をまとめてネクタイで縛られた状態になっていた。

「な…!?」
「体が弛緩してるからって、ちょっと簡単に縛られすぎじゃないかしら?まぁ楽で良いけど」
「猿飛、どういうつもりだ!?」

ネクタイの端は机の荷物を引っ掛ける所に器用に結び付けられているようで、軋むだけで動かす事が出来ない。

「どういうつもりって…言ったでしょ?私は銀さんを…」
「…呼ばれて戻ってきたら、SMプレイ中ですかコノヤロー」

猿飛が俺の胸に触れようとした瞬間、気だるい声が教室に響く。
今一番会いたくない人物、坂田銀時だ。なんて最悪なタイミングだ…!!
そんな俺とは彼女は正反対で、パアッと顔を明るくして坂田の元へ駆けて行く。

「銀さん!違うの!私、銀さんに喜んで欲しくて…」
「…おまえ、何勝手な事してんの?誰もこんなん頼んでねーだろ」

寄って来た猿飛を、まるで厄介事のような目で坂田は見て言った。

「…出てけよ。余計な真似すんじゃねー」

感情の篭らない、冷たい声と言葉。言われた猿飛は微動だにもしない。
彼女を庇護するつもりはないが、あまりの言いように俺は坂田に怒りを感じた。

「坂田、そんな言い方はねーだろ!?猿飛はテメーの為に…」
「ふん、なによ!そうやって私に冷たく当たってもね、私だって楽しんでるから!」

オイイイ、ちょっ、なんだこの女!?

「あっそ、じゃあとっとと行ってください」
「ええ、出てくわよ!惨めな私を、私は楽しむんだから!」

言いたい事だけ言って、昨日のように彼女は去っていく。
…やっぱりあの女、別次元で生きてんのかもしんねぇ…

「しっかし、さっちゃんがお膳立てしたとはいえ…随分良い格好してんねぇ、土方君」

嵐が去った教室で、坂田がニコリと微笑んで俺に話しかける。
そうだ、今の俺は絶体絶命状態だ…!

「何?お前も拘束プレイとか好きなタイプ?」

「んなワケねーだろ…ッ」

手が使えないから、睨むことしか出来ない俺を嘲笑うように坂田は見下ろしてくる。

「土方君さぁ、今日一度も俺ン所来なかったよなぁ?」
「…だったら何だって言うんだよ」
「良い度胸だよなぁ…ご主人様のご機嫌取り、しようともしねーなんて」
「うぁ…!」

アイツの人差し指が、護る事の出来ない俺の股間をスルリと撫で上げる。
猿飛に呑まされた変な物体のせいで只でさえ熱くなってるソコが、ドクンと脈打った。

「いっ、嫌だ、ぁ」
「感度抜群じゃねーか。ヤられる気満々?」
「違ェ、これは猿飛が俺に変なモン飲ませたせいだ…!」

ビクビクと体が震えるせいで、声まで情けないものになってしまう。

「へぇ?さっちゃんが?…いつ飲まされたんだよ」
「あ、く、昼休み、だよ…ッ」

俺の脚の間に入り込み、坂田は見せ付けるようにセーターをずり上げ、シャツのボタンを一つずつ外してくる。

「ふーん…で、この効果が出てきたのは?5時間目くらい?」
「さ、さっきだ…耐えられないだろうが、放課後になってから来いってあの女が…!だから俺は…!」
「はは、最悪だなお前。さっちゃんのせいにしてんじゃねーよ」
「え…?」

今まで聞こえてきた教室の外から聞こえる、部活をしてる生徒の事か、そういう雑音が全部消えた。
坂田の言った意味が分からなくて。

「あの子がお前に飲ませたのが媚薬なら、その後すぐに効く筈だ。なのに、そんな時間差おいて効果が出てきたのは何でだと思う?」
「…そういう、薬、だか、ら…?」
「違ェよ。お前が、そう思い込んだからだ」

次に続けられるであろう相手の台詞を聞きたくなくて、俺は必死に身を捩る。
違う。違う。違う…!!

「こういう事されたくて、期待しちまったんだろ?勝手に興奮しやがって。この変態マゾヒスト」
「ち、違っ、い、ぁああっ」

違う…!
そう心は叫ぶのに、体は余計に高揚する。昨日と同じだ。
晒された俺の胸の突起を、アイツは摘み上げて捻った。痛いのに、勝手に体が反応して熱くなる。

「い、う、…くぅ…ッ」
「なぁ、何処弱いの?耳?首筋?」
「クソ、やめろぉ…!」

生理的に溢れた涙で視界が滲む。が、ふいに扉が僅かに開いてるのが目に入った事に俺は変な汗が噴出す。
そうだ。ここは教室。昨日の生徒会室とは違うんだ…!

「さか、坂田…!扉、開いて…ンッ」
「開いてる方が興奮すんだろ?何時誰が入って来るか分かんねー状態の方が…」

俺の訴えも聞かず、ちゅっ、ちゅと胸に舌や唇を這わせながら脇腹や太腿、内股をさすってくる。
為す術なく、俺は快感に変わっていく刺激を受けるしかなくて。
どんなに拘束を外そうと試みても、キツく縛られたネクタイは緩みそうになかった。

「なぁ、今どんな気持ち?土方君」
「…は…あ、ぁ」

やがて坂田の手は一点に集中し、俺の股間を再び擦り上げてくる。俺はブンブンと首を振って拒絶を示す。

「言えよ。それともこの制服のズボン、股間の所だけ切り抜いて外歩けなくされたい?」

選択肢を残さずに坂田は訊いてくる。だが、今の俺は羞恥よりも恐怖が勝っていて答える事が出来なかった。
彼の触れる所が全て熱に代わっていくという、恐怖に。

「いや、だ…」

それでも搾り出した台詞はあまりにも情けない。
そんな様子に気を良くしたのが、坂田は笑いながら乱暴にベルトを外してくる。
足だけは自由なのだから蹴っ飛ばしてやりたいが、抵抗できない。
そうだ。坂田の言う通り、猿飛にかけられたのが暗示なのだとしたら、この足は動く筈なのに。

「おっとぉ、もう良い感じに硬くなってるじゃねーか」
「…ッ」

弛緩したまま動いてくれない。俺の身体なのに受け入れようとしてる。
…なんでだ…!

『こういう事されたくて、期待しちまったんだろ?』

ドクン

「あ…」

下着の間から自身が取り出され、ふにふにと揉まれる。どうしたら良いか分からず、俺は声を出しながら顔を背けた。

「はい、じゃあ反転してくれる?」
「え…っう、んんっ」

身体を反転させられ、下半身だけ机から下ろされる。だが両手首はネクタイで繋がったままだから、上半身は机の上に伏せて腰を高く掲げて立っている体勢にされた。
逃げたくても腰が坂田にがっちりとホールディングされていて、逃れる事が出来ない。
その間にも彼は片手で器用に俺のズボンを下に下ろしていた。

「…土方君さ、嫌とか言ってる割には準備万端じゃねーか」

背後から耳元で囁かれ、ビクッと思わず反応してしまう。
何をだ、と問う前にズイと目の前に出されたのは、やけに派手なピンク色の液体が入った小瓶と使用してないコンドーム。
今からされる事を見せ付けられたような感じがして、ヒクリと喉が鳴った。

「どっから、そんなの」
「しらばっくれんなよ。お前のズボンのポケットに入ってたぜ?」
「はぁ!?ふざけんな、俺はそんなのモノ持ってねぇ…!」
「だって実際入ってたんだし。まぁ使わせてもらうけど」
「ひっ!」

下着を脱がされ、晒された臀部に躊躇いなく坂田は小瓶の液体をトロトロとかけてくる。
冷たさに、悲鳴を上げた。

「あ…あぁ…ッ」

ぐるっと坂田の指が俺の肛門の周りを撫でた後、くちゅりと中に進入を開始する。
異物の衝撃にぎゅう、と瞼を瞑り拳を握って耐えながら、あんなものを俺の気付かない内にポケットに入れられるのは猿飛ぐらいしかいない、と犯人を頭の隅で割り出した。

「はぁ、…ぁ、は、…っ」
「なんか慣らすのメンドイから、もう入れちゃってイイ?」
「え?待っ、ぁ、ああああっ!!」

肩で息をしている間に、坂田の怒張したものが括約筋を裂いて一気に貫いてきた。
痛い。痛い。痛い…!

「やめ、いた、痛い、うぁああっ」
「はは、根元まで入っちゃったし。分かる?土方君」
「あく、ぁつ、いやだ、抜けぇええ…」

おおよそ嬌声とは程遠い悲鳴を上げる。そんな俺に圧し掛かって身体を重ねながら、坂田が耳たぶを噛んできた。

「ひぁッ」
「ごめんな土方君。こんな事して。…でも銀さんね、本当はお前の事、好きなの」

は?
今なんて言った?コイツ、何を言った?
唐突すぎる坂田の言葉に、感覚が全部消えて意味を理解するのに数秒かかった。

…好き…?

「風紀委員のお前の事、ずっと見てたんだ。でも俺、生徒会長だろ?生徒の模範が、そんな男に恋したなんて軽がるしく言えないし」

好き?見てた?俺、を…?
きつく握り締めていた拳の上に、そっと坂田の手が乗せられる。

「久々に登校した時、お前と目が合ってドキドキして…嬉しかったよ。土方君も俺の事、見てくれてるって」

身体が動かない。何も言えない。頭が真っ白だ。
ペラペラ喋る相手の声が、右から左へ流れていくばかり。

「だから屋上で会った時、チャンスだって思ったんだ。さっちゃんを使ってでも、土方君を手に入れようって」

好き?嬉しい?見てた?手に入れる?何を?誰が?誰を?
…俺、を?

「うぁ…っ」
「こっち見て、土方君」

坂田の性器が尻に入ったまま、ぐるりと身体を再び反転させられ、机の上に乗せられる。
回転したせいで余計にネクタイが手首に食い込んだが、それどころではなかった。

「本当は、この後すぐに生徒会室行って仕事しなきゃいけねーんだけど、こんなチャンス、、もうねーもんなぁ?」

憂いを帯びた坂田の深紅の瞳が近づけられ、思わず心臓がドクリと高鳴る。
つかどうして照れてるんだ、相手は強姦してきてんのに…っ

「ふ、ふざけんな…」
「…ん、何が?」
「す、好きなら、何してもいいのかよ…!」

声が震えてる。なんで?なんで喜んでんだ、俺…!?

「好きなら、もっと、相手を大切にするもんじゃねーのかよ!」

息を切らせて叫ぶと、相手はきょと、とした表情をする。
俺の言った事が通じたのかと一瞬希望が見えたが、それは無残に打ち砕かれた。
坂田が顔を歪めて、笑い始めたからだ。

「ぶは、本気にしてんじゃねーよ、バーカ!」
「!?
や…っ」
「忘れたの?言っただろーが、昨日。お前なんか嫌いだって、よぉ!」
「…ッ」

ケラケラと笑い、坂田は俺の膝裏を掴んでグイと持ち上げながら脚を開かせて、腰を打ちつけてきた。
プチュプチュと抜き差しされる感覚に、思わず息が詰まる。

「いぁ、ぁ、なん、なんで、ぇ、あああっ」
「ほら、もっと鳴けよっ、傷ついたんだろ?傷ついちまったんだろ?」
「ううぅ…ッ」

物足りないのか坂田も机の上に乗り上がると、俺を所謂まんぐり返しの体勢にさせる。
恥ずかしい事よりも、内臓が圧迫される無理な体勢に悲鳴を上げた。
が、彼が動き出した途端、味わった事のない感覚に襲われる。

「や、いやだぁ!そこ、や…やめろぉおおっ」
「へ、何処?ココ?もしかして前立腺ってヤツ?」
「ふ、ぅ、ぁあああ」
「…ホントに感じるんだ」

俺の意思なんて無関係に、ガンガンとピストンしてくる。
縛られ、固い机の上で犯されながら、ああ、ここはいつもB組のやつらが使ってる教室なのに、とかぼんやり考えながら。

坂田は、何がそんなに哀しいのだろう、と思った。

あんなに周りに人がいながら、慕ってくれる人がいながら。
拒絶して、嫌って、俺みたいにどーでも良い人間を傷つけて。

何が哀しくて、何を試してるんだろう、と。

好意を嘘として吐き捨てられた事よりも、坂田の見てはいけない部分を垣間見てしまったようで苦しかった。

『…土方君の世界には誰がいる?』
…きっと彼の世界には、誰も居ないのだろう。

「ねぇ、土方、くん?」

きっと、自分自身ですら。

「今、どんな気持ち?」




(坂田の声が引き起こす、この感情は絶対降伏にも、似てる)





「はぁっ、は、…っ、ぁ」

二人の息が重なり、動きがスムーズになった事でくっちゅ、ぬちゃ、ぬちゃ、という音が教室の中に響き渡る。
手を縛られたままの土方は目を瞑り、一方的な行為に只耐え続けて諦め、早く『コレ』が終わる事を願った。

「あっあっ、あっ、ん、、く」

ガツガツと気持ち良い所を抉られ、口を塞ぐ事も出来ない感じるままに声を出していた土方。
だが、先程から感じる疑問がどうにも解けない。
快感で射精感はつのるにも関わらず、一向に達する気配がないのだ。

「は、ぁ、なぁ、これ以上勃起しない、ねぇ…土方君の…」

ついさっきまでの余裕はなく、銀時が息を切らせながらも土方のモノに触れてくる。

「ひぐっ」
「あれ?感じんの?」

ビリッと電気のような快感が身体を駆け抜ける。
ビクン、と背を反らした彼の雄が、銀時が触れた途端に硬さを増した。
ニヤ、と銀時は笑んで汗ばんだ土方の額に手を乗せる。

「そーいやさぁ、前立腺擦るだけじゃ、男ってイけねーらしいよ?」
「・・・・っ!
 や、だ、あああっ」

敏感になっている先端をグリグリと親指の腹で潰すように刺激してくるから、狂ったように土方は頭を振る。そんな彼の頭上に手を伸ばすと、銀時は片手で器用にネクタイを解き、自由にしてやった。

「だからさ、俺に犯されながらオナってよ…」
「…はぁ…!?」

両手を自由にしたと思ったら、またも奇想天外な事を強いてくる。混乱する土方が力の入らない腕で抵抗を始める前に、腰の動きを再開した。

「やッ、ぁ!!」
「早くしろよ。それとも俺が満足するまでヤられてぇの?」
「あっ、ぁ、そ、ン、なの、ぉ」

射精感が溜まっていく一方でイけないのは地獄だ。ヤケになった土方は、しかし恐る恐る、震える自分の性器に手を伸ばす。

「じゃあ、俺の言う事復唱してオナれよ。『私、土方十四郎はご主人様のいやらしいペットです』」
「ふざ、ざけんなっ!んな事言えるか…あう!」

銀時は乱暴に土方の性器を掴んだ。

「聞き分けの悪ィペットだな。テメーの大好きな近藤も肉便器にされてーか?」

目がひどく惨酷な色に染まっていき、この男なら本気でやりかねない。と土方は直感し、嗚咽を抑えながら口を開いた。

「ふ…っ、 お、俺、は…」

「私は」

「わた、私は、ご主人様の、いや、らしいペットです…」

「『ご主人様のちんぽだけじゃイき足らず、自分でオナニーしなければ達する事も出来ません』」

「ひ、く、ごしゅ、じんさまのち、…ちんぽだけじゃいき足らず、あ、ぁっ、自分でおな、にーしなければ達する事も出来ませ、ん、」

自身を慰めながら言い始めた土方に『良い子』と銀時は微笑み、復唱を続けさせた。

next