その不敵な笑みと声を間近に感じ、俺の中の何かがゾクンと音を立てた。なんだか体の中がザワザワする。何だコレは
「はい、つーワケでさっちゃん、また今度ね」
「…ふん、そうやって放置プレイして私を喜ばせてるんでしょ」
部屋の奥に行った猿飛は、恥じる事なく下着を付け直してシャツのボタンをはめていた。
やっぱり俺は彼女を直視出来なかったが、どうやら帰り支度をしているようだ。
…坂田と猿飛って…そーいう関係なのか…?
「銀さんに変な真似したら許さないから」
それだけ言い残して彼女は生徒会室を出て行った。
後には俺と坂田だけが残される。シンとした室内を見渡すことも出来ず、埃一つ無い床に視線を落としていると坂田が『まあ、こっち来てよ』と俺を導く。
ぎゅっと鞄を抱いて進みギシ、と音を立ててイスに座った男に近づいた。
『そーちゃんと勲さんをお願いね。…十四郎さん』
総悟の姉、ミツバの声が甦る。
そうだ。アイツの為にも、俺は坂田にこれから何を言われようとも屈するワケにはいかねーんだ。
睨むように視線を向けると、そんな俺を気にもせずに坂田は何やら書類を見ていた。
「…土方十四郎。17歳。5月5日生まれ。177…ふーん、俺と一緒の身長なの」
「な…っ」
「で、近藤勲率いる風紀委員のサブポジねぇ…」
彼が見ている紙には俺のデータでも書いてあるのか、それを読み上げられる。
思わず体がカアッと熱くなった。
まるで初めから力の差を見せ付けてきたかのように感じる。
「話っつーのはさ。この間お前、屋上で…」
「な、なんだよ!?風紀委員だから喫煙してたっつー事で脅しでもかける気かよ!?」
「へ」
「悪いけど、てめーに脅されたって金とか出さねーぞ、俺はっ」
捲くし立てるように言うと坂田は驚いたようにキョトンと目を見開いた後、その瞳を歪ませて笑い始めた。
「はっ、あはっはは、ちょ、スゲーうける」
「…何が可笑しい」
「ふ、くく。そう、俺、お前の煙草吸ってるトコ見ちゃったんだよねー」
一しきり笑い終えた後、坂田は何を思ったのか突然俺を引き寄せる。いきなりの事だったので、そのままバランスを崩して座って開かれたアイツの脚の間に四つん這い、という体勢になってしまう。
「何すんだ…」
叫ぶのを遮って坂田の片足が俺の首に回すようにかけられ、余計に距離は縮まって彼の股間が俺の顔面にくる。意味が分からず上を見上げれば、冷笑した坂田の顔。
「だから、ご主人様にご奉仕して?」
白く細長い指が、自らのズボンのチャックをおろしてまだ反応していない性器を取り出す。
俺はただ、その様子を傍観して。
『俺と同じ匂いがする』
総悟が言った言葉を甦らせた。
『アンタが近寄ったら即行喰われますぜィ』
『銀時って、こんなつまんない人だったんだね。知らなかった』
うるさい。
お前に俺を分かって貰おうだなんて、思っちゃいねーよ。
ムカつく。少しばっかり俺を知っただけで、全部理解したような気になりやがって。
嫌いだ。
俺を否定し、肯定するこの世界が嫌いだ。
ムカつくんだよ、所詮他人のくせに。目障りだ。
ああ、早く年喰って、こんなくだらねー世界とオサラバしてェ
『世界中を敵に回しても』
「え、坂田…ちょっと待て、誰の主人だって?」
状況が俺を混乱させる。
なんで坂田の一物が俺の真ん前にあんだよ…!?つか、アイツの言った意味が分からない。
だが、相手は圧倒的に優勢なのかニコニコしながら俺の髪を掴んだ。
「俺がお前のご主人様。テメーは俺のご機嫌伺ってりゃいーんだよ」
「痛…ッ」
「舐めろって言ってんの。喫煙してんのが先公にバレていーの?」
「ん…ぶ、うう…!」
そして容赦なく俺の咥内に己自身をアイツは突っ込んだ。乱暴に顔を動かされてガクガクと揺さぶられる。
坂田のモノは巨根ではないが並より大きく、その白い肌に合わずに赤黒くて皮はズル剥けだ。
…このヤリチン野郎が…ッ
舌の上を行き来し、喉の奥に出し入れされる感覚が気持ち悪くて口を離そうとしても、坂田はそれを許さない。
「うぐ、う、んんン…っ」
「別に離してやっていーけどさ?いいの?GGの秩序を護る風紀委員が喫煙とかさァ。進路に響くんじゃね?」
「…!」
俺が逆らえないのを良い事に、坂田は余裕ぶって先ほど見ていたプリントを手に取る。
ムカついて歯でも立ててやろうと思ったが、アイツの言葉にその気すら失った。
「風紀委員長の近藤クンも責任取らせないとなー…コイツ、お前の幼馴染なんだって?」
俺の事を何処まで調べたんだ、というよりも近藤さんに迷惑をかけるのは嫌な方に気持ちが向いた。
だからと言ってこいつの言う通りになるのも嫌だ。…どうしたら良いんだ…!
「あぁ…っ!!」
「別に俺は関係ねーからどうなったって構わないケド」
徐に坂田が俺の股間を爪先で緩く踏みつける。突然の刺激にあられもない声を上げてしまった。途端、口を坂田自身から離してしまい、先走りの液がびゅっと俺の顔を濡らす。
「やう、やめ、ろ、やだ…!」
首を振って脚をどかそうとしても、アイツはグリグリと俺の敏感な場所を攻め続ける。しかも逃げられないように俺の両腕まで掴んできた。
「ッあ、なん、で、なんでこんな事すんだよ!?」
踏まれて反応する俺自身が信じられず、苦し紛れに叫んだ。すると今まで猛攻をしかけてきたアイツが顔を寄せてくる。
「…なんでこんな事するかって?」
フッと坂田の表情がひどく歪む。なんて冷たい目なんだ。
「お前さ、屋上で会った日の朝、教室から俺を睨んでただろ」
「え…?」
「分かんだよ。好意なのか、好奇なのか…嫌悪なのか。遠くからでも」
弧を描いた深紅が俺を射て貫く。
この目は、そうだ。コイツが久々に登校してきた―…あの日の朝にも…。
やっぱり勘違いじゃなかった。坂田は俺を見てたんだ。
「ど−せてめぇも、俺が気に入らねーって奴なんだろ?」
「ち、違ェ、別に俺は」
口では否定しても、実際思った事は誤魔化せない。それを見抜いたのか坂田は、俺の顔を掴んで再びフェラさせ始めた。
「嫌いなんだよなァ…俺の事なーんも知らねーくせによぉ、寄って来て好きだとかぬかしたり」
「ん、うう、んー…!!」
アイツのモノの先端が喉を何度も突いて来るから苦しくて悶えるも、そうすると坂田は俺を弛緩させる為にまたもや股間を刺激してくる。
「ん、ふ、ぅあ、んむぅ」
「お前みたいに何も知らねぇクセに俺を嫌悪する奴もよぉ」
「ん、んー!んんんッ」
嫌なのに。
嫌なのに体は坂田の与える刺激に跳ねてしまうから、俺の咥内を良いようにかき回すのをやめさせたくて相手の腕を掴んでも、離すまでには至らず力が入らない。
「だから、テメーに俺の事分からせてあげよーかな…みてぇな?」
「んう!う、ううっ…」
俺の顔を動かすのが早くなるのと同時に、俺自身を踏んでいた坂田の爪先が今度はクンッと下から攻めてきて、睾丸を弄り始めたのだ。
「ふぅ、ん、ん、ン!!」
「あーヤベ。イくわ…口の中で出していい?」
快感に揺れる体を悟られないように俺は坂田を見上げて小さく首を振り、否定を目で訴える。何かが頬を伝うのを感じ、その時初めて俺は生理的な涙を流してる事に気付く。
「やっぱだ―そう」
「!!!」
坂田はさも楽しそうに笑みながら、俺に向かって思いっきり腰を打ちつけた。
一瞬咥内でソレは腫れ上がった後に力強く弾け散る。
…この時の俺の感想は苦しいでも、気持ち悪いでも、なくて。
銀髪を振って射精するアイツが妙に綺麗だとか、そんな事を考えていて。
信じられない事に、俺もその瞬間にイってしまった。
「ゲホ、が、けほ、うえ…っ」
思考はすぐに現実に戻され、咳き込みながら掌に今しがた出されたばかりの精液を吐き出した。座り込んで咳き込む俺を暫く眺めていた坂田が何を思ったのか俺の耳元に口を寄せくる。
咄嗟に赤面してしまう隠し事の出来ない身体。
「なン、だよ、近づくな、この変態!」
「はは、変態はオメーだろ?俺のイった姿見て一緒にイったくせに」
『随分とやらしーカオしてたよ?』と嫌な笑みを見せて俺の股間に手を伸ばしてくるから、思わずそれを振り払う。
早く逃げたいと思う反面、何故か俺の体は未だに高揚していた。どこかでもっとアイツの指に触れて欲しいと願っている。
踏んで、触れて、卑猥な言葉を浴びせられる事、を…?
ってオイイイ!落ち着け俺!なんでそんな思考になる!?
「そーいやメイドさん。土方君って呼んでいい?代名詞メンドイし」
俺が葛藤している間に、坂田はのほほんとそんな事を訊いてくる。
こっちは喉の奥がベタベタで気持ち悪かったり、男の性の匂いが鼻を可笑しくさせているというのに、なんて余裕の違いなんだ。というか、誰がメイドだと!?
不利なのを忘れて俺はアイツに言い返した。
「ふざけんな。誰がお前なんかに名前呼ばせるかよ!」
「んーじゃあ特に希望がないみたいだから土方君で」
「テメェ、聞いて…」
「…オイ、お前自分の立場忘れてねー?」
「あっ!」
坂田は俺の顔をすくい上げるように両手で挟むと、まだ乾ききっていない涙の跡をペロリと舐める。
「これ以上生意気な態度とると、初日なのにもっと酷い事するぜ?」
「なんだ、と」
「まぁ、今日の所はもう帰してあげる。明日から時間かけてゆっくり教えてあげるから」
笑むと、まるで興味を失くしたかのようにトン、と俺の肩を押して『帰んな』と坂田は言う。
俺はまるで力が抜け切っていたが、震える手で落とした鞄を引き寄せた。
体がまだゾクゾクする。
だめだ、これ以上、ここに居たら…!
直感のようなものが俺に教えるから、イったばかりで気持ち悪い股間を、なんとか鞄で隠しながら立ち上がった。
対して坂田はもう既に性器をしまっていて、デスクの上の書類を整理し始めている。
…なんだかこのまま帰るのは癪だ…!
「い!?」
ツカツカと俺は近寄ると、背後から精液でベタベタの掌をアイツの顔で拭いてやった。驚いたように坂田は声を上げる。
「…ハッ、ようは、弱み握って俺を性奴隷にする気だな。…上等だコラ」
向こうが反撃してくるであろう前に、俺は脱兎の如く生徒会室から逃げ出した。
生徒会室がある棟から離れ、全速力で普段使う校舎に走りこむ。そして息を切らせながら近くの水道の栓を捻り、今の出来事を流すかのように咥内と掌を洗った。
「はぁ、はぁ」
冷えたと思っても、いまだに火照る身体が窓から差し込む夕陽に照らされる。
弱みを握られて、これからあいつに良いようにされる日々が待ち構えているかもしれないのに、何処か何かを期待してる思考を懸命に振り切った。
そうだ。別に、俺は期待してるワケじゃない…!
「あーもしもし?さっちゃん?そう。銀さん」
近藤さんに迷惑かけねー為にも、俺の不始末は俺がケリつけるんだ。
「はいはい。続きはまた今度してやっから。え?違う?…ああ、土方君ね」
上等だ。今は坂田の方が有利かもしれねーが
「えーうん。ホントはね、甘党なのがバレたのかと思って口止めさせよーと呼び出したんだけど、なんか別の方向に行っちまって」
逆に今度は俺がアイツの弱みを握り返して、
「…あ、やっぱり?うん、そーだね。なんか本能に火ィつけられた感じ?」
総督、なんてでけー顔して歩けねーようにしてやる…!
「アイツ、俺ナシじゃイけねー体にしてやろーかなって」
俺の繰り返されてきた日常はこうして、アイツとの出会いによって見事に崩れていったのだった。
*
家に帰った俺は、早速ベタベタの下着を脱いで(制服のズボンは幸い、平気だった)洗面所で洗い出す。
うう…こんな屈辱は中学生の頃に夢精して以来だ…つーか、共働きのおかげで家に母さんが居なくて良かった…。
などとグルグル考えた後、ふと坂田の冷たい笑みを思い出す。
ああいうのを顔は笑ってるのに目は笑ってない、という表情なのかも知れない。
洗い終わった後に下着を洗濯機に放りこむと、夕食の準備に取り掛かる。
冷蔵庫の野菜室を漁りながら学園一の権力を誇るとも過言ではない男に、あんなタンカを切ってしまって良かったのだろうか、と我ながら明日からの事にゾクリとした。
『嫌です、姉上!目を、目を開けてくだせェ…!』
が、誓いを立てたあの日の事を――総悟の悲痛な叫びを思い出す。
ミツバの…総悟の姉の最後の日、俺は自分自身とミツバに約束したんだ。
『今なら間に合いやすから…間に合…う、から…』
出棺の時に泣き喚いた総悟を今でも忘れない。
普段、淡々としてるアイツが初めて見せた剥き出しの感情。俺と近藤さんは、必死でアイツを止めて。
そう。俺は冷たいミツバの指に触れて、誓ったんだ。
お前の分まで絶対に総悟を幸せにするって。傍に居るって。
だから喫煙で処罰されるとか、近藤さんにも責任負わせるとか、絶対にこの日常を壊す事はさせねェ。
でもだからって、全部坂田の思い通りにさせるつもりもない…!
「つーワケで山崎。坂田の弱み見つけて来い」
「はああ!?何言っちゃってるんですかアンタぁああ!?」
「テメッ声デケーんだよ」
「うぶ!」
翌日。俺は小声で頼み事をしたというのに、思いっきり大声で山崎は返すので教室中の奴等が俺達を見る。俺の気配りを台無しにした相手をとりあえずぶん殴った。