男と男で
教師と生徒で
兄と弟で

世界が決めた禁忌って奴を、一体いくつ破ったか知らねーけど
俺が愛してるトシは
男の子で、生徒で、血の繋がった弟。

「あ…ッ、ぁ、先生、せんせ…!」

「トーシ…言っただろ、今日はせんせーじゃなくて、お兄ちゃんって呼べって」

「ンな事言われても…ん…」


可愛いね。

嫌って言っても離さないよ。
…絶対に俺を置いてかないでよ?
俺もお前を置いていったりしないから。

「ねートシ」

「なんだ、よ」

背負った罪で、罰を受ける時も

「もっとぎゅってして」


一緒にイこう



『猟奇的な彼氏』



銀八が土方十四郎と血の繋がった兄弟だと知ったのは、一ヶ月前。
二人が付き合い始めたのは丁度3ヵ月前だ。
あの頃はキスやセックスはおろか、抱き締めるのも許してくれず。

手を繋ぐくらいが精一杯だった、そんな時だった。

「あ、トシ発見」

家の近くにあるカフェ。禁煙席の奥に土方は居た。アイスコーヒーを乗せたトレイにガムシロップを山盛りにして彼の元に近づくと、テーブルの上にドカッと置く。

「かれしぃ、待ったぁ?」

「…遅ェよ」

携帯電話をパチンと閉じ、待ちくたびれたと言うような目で見上げてくる。そんな視線をものともせずに銀八は向かいの席に座った。

「仕方ねーだろ、仕事だったんだから。つかなんで喫煙席じゃねーの」

「先生。今俺は制服だっつの」

「オメーはどーでも良いんだよ!銀さんが一服したかったの!」

「…本当に我を通す奴だな…」

呆れたように言いながらカップを持ち、土方はコーヒーを呑む。よく砂糖も入れずに飲めるよなーと眺めて、そこで銀八は気付いたように訊いた。

「トシ、そーいやそのコーヒーいくら?」

「え、いい。こんくらい自分で払う」

土方と付き合い始めてから、可笑しなくらい銀八は彼への独占欲が強くなった。故に土方の食事や細かい入用の物などを何でも奢ったり買ってやりたくなる。

「なーんーでーよー奢らせてよトシぃいい」
「あのな、もう良い大人なんだからそういう気持ち悪い駄々の捏ね方はやめろ」
「んだよ。じゃあガキらしく大人に金を出させなさい」
「…上等だコラ。じゃあ…」

雲ひとつない夜空。
怖いくらい白い月が輝いて、柔らかい光に照らされる。
家路までの時間が、教師と生徒という関係の二人には唯一のデート時間だ。

『奢らなくて良いから、今日は電車じゃなくて歩いて帰ろう』
そう言い出したのは土方。
普段は電車で帰る距離を、今夜は二人でのんびり歩いて帰る。

「ねートシー」
「ンだよ」
「手ぇ繋いでいい?」
「…」
「ちょ、トシ君!?何だよその間!良いじゃねーか、手繋ぐくらい!」

明らかに嫌がる態度――黙り込む土方の姿勢に銀八はごねる。いくら歩いているのは静かな夜間の住宅街といえど、騒がれては堪らないと土方は相手の口を手で塞ぐ。

「ばっか、デケー声出すな!」
「じゃあ、手繋がせてくれたら静かにする」

ニコリと笑んで銀八が言うと、カアアと顔を真っ赤にさせながらも、「ん。」とぶっきらぼうに手を差し出してくる。抱き締めたい衝動に駆られながらも(そんな事をしたら激しい暴行が待っているので)、それを抑えてその愛しい指をきゅう、と握った。

「先生?」
「なーに?」

俗に言う恋人繋ぎをしたいのは山々だったが、意地っ張りな彼に合わせて指を絡めるだけ。今はそれで十分に幸せだ。

「今日、総悟と昼休みに化学準備室で何してたんだ?昨日の昼、も」
「はは、何、ヤキモチ?」
「ち、違ェよ!ちょっと気になったから、訊いた、だけだ」

プイ、と土方が顔を背ける。あららら、そういう可愛い態度取ると、銀さん今すぐ襲っちゃうよー?と内心思いながら隠し事をする時は慎重にしないとな、と心に銀八は決める。

「んーとほら、沖田君てば現国分からないって言うから教えてあげよーと」
「…化学準備室で?」

疑いの眼差しで土方が見つめてくる。ヤバ…と焦りつつも答えた。

「だって、他の教室が空いてなくてさぁ」

動揺がバレていないか、というように銀八は隣の恋人を盗み見る。すると彼は大して気にした風でもなく只「そう」とだけ呟いた。

トシ、ごめんね。心の中でそう謝る。
銀さん、お前に内緒にしてる事とか、言えないような過去とか沢山あるけど…
でも大好きな気持ちは本当だから。
お前の事、だけだから。

「ただいまー」
「たでーまですよ」
「兄上、銀さんお帰りなさい」

二人が家に帰るとエプロン姿の土方家の次男、新八が玄関に顔を出す。どうやら夕飯の準備をしていたようだ。

「もう夕食出来るんで、手洗って着替えて来ちゃってくださいね」

世話好き新八にそう言われ、銀八と土方は洗面台へと向かう。

「何、どしたのトシ」
「べ、別に」

名残惜しそうに土方が見つめていたのは、先程まで銀八と手を繋いでいた右手。だが指摘された事に慌て、急いで手を洗い始める。それを見た銀八はニタリと笑うと背後から耳元に口を寄せた。

「もっと繋いでたかった?」
「…ッ!なななななワケねーだろ!?つかそんな近くで喋んなッ!」

顔を真っ赤にし、プルプル震えながら土方は怒る。だがそれすら銀八には可愛く思えて仕方ない。それを自身で『大人のヨユー』と呼んでいて、構わずに土方に擦り寄る。

「寂しかったら、いつでも銀さんの部屋においで。先生が特別授業してあげるぅ」
「なんだよ、特別授業って」
「えー…言わせるの?つまりはセッ…」
「!!
いい加減にしろやてめぇええ!!」

とまあ、いつもこんな感じで迫ると土方の怒りの鉄拳が飛ぶ。懲りずにふざけ半分でそういう事をする銀八も銀八なのだが。

「あーやっぱりあったかいご飯は美味しいね。先生感激。いつもありがと新八」
「…なんか良いように使われてる気がしないでもないですけどね」
「新八、そーいやお妙は今日もバイトか?」
「多分そうです。近藤さんに見つからないように出て行きました」

土方家は長男の十四郎、その下に双子の妙と新八。そして彼らの祖母にあたるお登勢で暮らしている。子ども達の両親は早くに亡くなったと銀八は聞いている。

「ったく、近藤もよぉ。いい加減ストーカーで訴えられても可笑しくないぜ?」
「そうですよ、兄上は近藤さんと友達でしょ。何とかしてください」
「そんな事言われても…」


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