「君が決めていいんだよ、トシ」
土方は突然、選択を強いられた。
予想通り坂田は銀時と土方が会うのを快く思っていなかったようだ。
オフの日なのにわざわざ銀時の相手をしていた事を
どこからか彼は嗅ぎつけ、それが怒りに触れたのか
土方に突きつけてきたのだ。
銀時の命か。
想いかを。
「坂田様。…私にはどういう意味か分からないのですが」
「簡単な事だろう。
あの愚息を戦に向かわせたくなければ、
あやつとの関係を断て、という事だ」
「銀時様が戦へ行かされるのと
私があの方との関係を断つ。
一体、何の因果がありましょう」
「トシ。
私はね、君をどこの女よりも気に入っているのだよ」
銀時への思いを悟られてはいけない。
気丈に土方が振舞うも、ニヤニヤした坂田に顎を掴まれる。
「正直、どこの女の腹から生まれた餓鬼とも分からぬ男に
おぬしを触れさせてやるのは惜しすぎる」
銀時の話で、なんとなく坂田家に彼は引き取られたのだろう、
というのは分かっていた。
だが、あまりの言いようにザワッとしたものが
土方の体中を駆け巡る。
「だから、白夜叉だとか調子に乗っているあやつに
少し罰を与えんと、と思ってのう」
調子に乗っている?あの人が?
馬鹿を言え!
友人と敵対し、多串様を失って
心を痛めているあの人の気持ちを知らないくせに!
その憎らしいツラに、土方は唾を吐いてしまいたかった。
「トシ、だから愛しいお前に選ばせてやろう」
でも、と土方は思う。
いつかは、否、近い内に銀時と離れる我が身。
だったら今、断ち切ってしまうのが一番良いのではないだろうか。
「…私が銀時様との関係を断てば、
あの方をもう哀しい、危険な目に合わせないと
誓ってくださいますか」
初めて見た時から、悲しい目をしていた銀時。
そんな彼が今ではとても優しく微笑んでくれるようになった。
「誓うさ。お前のこの体に賭けて」
土方の言葉にニヤリと口の端を上げると
坂田は着物を脱がし始める。
乱暴に剥がされながら、土方は銀時を思った。
「ああ、トシや。お前の体は男を惑わす」
哀しい銀時様
「う、ぁ、旦那、様」
優しい銀時様
「ならば、私は誓います。銀時様から離れると」
俺を呼んでくれた、銀時様
「だから」
ごめんなさい、十四郎は貴方に嘘をつきます
「もう、あの方に哀しいものを、見せないで下さい・・・」
銀時様・・・ううん、銀時。
お前にとって俺は、その辺の卑しい男娼かもしれねーけど
俺にとってお前は、本当に愛しくなった人でした。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
さようなら。
他の隊を向かわせるから
今回は遠征に行かなくても良いと父親から伝えられた。
初めは半信半疑だった。
自分を憎んでいるといっても過言ではないような態度を取る彼が
まさかそんな事を言い渡してくるとは思わなかったからだ。
だが、直属の部下を失い
心の傷を癒す時間も必要だ、と告げられ。
「なぁなんか良い花ない?」
土方に会いたくて、銀時は手土産に花を持って行く事にした。
沢山の花々が咲き乱れる温室へ行き、
花の世話をしている女性に話しかける。
「まぁ坊ちゃま、贈り物ですか?」
「うん、まぁそんなん」
改めて贈り物、と言われると照れてしまう。
男に花を渡すのもどうかと思うが
土方ならなんでも喜んでくれそうな気がした。
『ありがとうございます、銀時様』
と言って微笑む彼を想像し、なんとなく頬が緩んだ。
「そうでしたら、ユリは如何でしょう」
「ユリ?」
「はい。天人の技術のおかげで、とても綺麗に咲いてるんです。
それに日本のユリには素敵な花言葉がありまして…
『あなたのは偽れない』」
「あなたのは、偽れない…」
気持ちを偽ることは出来ませんものね、と笑われ
からかわないでよ、と言いつつも銀時はユリにした。
「十四郎、驚くかな。花なんて持っていったら」
行かなくても良い、と義父に言われたが
やはり銀時は行くつもりでいた。
少しでも多串が護ってくれたこの命を
誰かを護る事に使いたいのだ。
それが、かつての友達と敵対する事になっても。
江戸を離れる前に会いに行く、と約束をしたし
今日は土方はオフの筈だ。
少しくらい話をする時間もあるだろう――。
「ああ、今トシはお相手中なのです。申し訳ありません」
「え?でもあの子、今日はオフのはずじゃ」
いつも金を余分に払うせいか、
土方がオフの日でも女将は部屋を用意してくれた。
だが、彼に会いに来た銀時を見た途端に表情を曇らせる。
「そうなんですが、坂田様が突然…」
言いかけて、しまった、と言うように女将は口を抑える。
銀時はそれを聴いて眉をひそめた。
義父が?十四郎を?なんでオフの日に…!
「あ、坂田様!」
制止をかける女将を振り切り、
銀時は花を持ったまま店の奥へと駆ける。
いつも通される奥の部屋。
男の花魁、土方の為に用意された、通い慣れた部屋…
「ふぁ、う、やめ、壊れ、壊れ、る」
息を切らせて部屋の前に辿り着くと
僅かに障子が開いている。
そこから絶え間なく土方の喘ぎ声が漏れていた。
「ンあっ、ぁ、ああ、イっ、ちゃ、」
「はは、イけ、そらっ」
「ああああっ」
「十四郎っ!!」
土方の相手の声はまさしく義父のモノだ。
早鐘になる心臓を押さえながら
銀時が障子を開けると、嫌な光景が広がっていた。
「銀時・・・さま・・・?」
義父の腕の中で荒い息を吐きながら
驚愕の表情で土方が目を見開き、どうして、と言うように
こちらを見ている。
「おや、銀時。
お楽しみ中に入ってくるとは野暮な男だ」
土方が放った白濁液を指に絡め
嫌な笑みを浮かべながら義父が声をかけてくる。
「そう思うだろう?トシや」
「ああう!」
土方の秘部から、卵形をしたピンク色のものが
ズルリと抜き出された。
虫の羽音のように鳴るそれは、
天人のもたらした淫具だというのを銀時は記憶している。
「ち、義父上。なんで貴方が今、トシを」
心なしか銀時は声が震えた。
オフの日は、土方は絶対に客を取らないと言っていた。
『銀時様以外は』と少し耳を赤らめて言っていたのを覚えている。
それが嬉しくて、仕方なかったから。
「トシに頼まれたのだよ。
『オフの日までしつこく来るから、追い払ってください』となぁ」
今まで土方の体内にあった淫具の電源を切ると
義父は彼の体を抱き直す。
胸に顔を埋めるような体勢になったので
土方の表情が見えない。
「十四郎、どういう事…?なぁ」
信じられなくて土方に問う。
だが彼は銀時の方を見ようともせずに
義父の首に、縋るように腕を絡めた。
「いや、だ。こわい…っ」
「ああ、可哀想なトシや。
白夜叉に脅されて、さぞや恐い思いをしただろう
大丈夫。私が居るよ」
なに、これは。
いったい、どういうことなんだ?
十四郎。
なんで。
なんで。
・・・これは、どういう、こと・・・?