(同情なんか、死んでもするもんか)

(じゃあ、もう良い。
良いから、それだけは頂戴。
何が幸せかなんて、きっと誰も本当は知らない、から)




<ねぇ、こんなに.8>



「銀時、どうした。何があったんだ」

血を出しながら暴れる銀時が
土方に会いたいと言った途端にガックリと
力を失って項垂れるから
ヅラはそれを支えて心配そうな声を出す。

「貴様、鼠退治に行くと行っていたな…?
 何処に行って、誰と接触して来た」

「いや、いやっ、死人なんかに負けたくない…!
 アイツを愛してるのは俺だけだよ?
 土方を愛してるのは俺だけなんだよ?
 こんなに愛してるのに、こんなに

 こんなに」

「銀時、答えろッ誰にその怪我を負わせられた!?」

「なのに、死んだヤツに負けるなんてありぇねぇだろーが!」

再び我を失って叫び始める。
目の焦点が合ってない。
当たり前か。
本当だったらこんな出血量、気絶していても
可笑しくねーくらいだもんなぁ。

「…馬鹿銀時。少し落ち着けや」

浪士達に使う、強制的に瞬時に眠らせるスプレーを
俺は持ってきて銀時に吹きかける。
すると『クソ晋助』と俺の方を睨んだ後、
銀時はやっと眠りについた。

「全く、なんという、本当に馬鹿者だ…!
 こんな適当な止血で戻って来おって…」

ヅラはブツブツ文句を言いながらも
せっせと気を失った銀時の世話をし始める。
この幼馴染は医療の心得を取得しているから
コイツの事はヅラに任せてその様子を眺めた。

「なぁヅラぁ」

「なんだ?くだらない用なら後回しにしてくれ」

「…銀時が言ってた、死人って誰の事だか分かるかい?」


訊いた途端、ピクッと動かしていた手をヅラは止める。
が、すぐに再び何事も無かったかのように動かし始めた。

「恐らく、処刑された近藤勲だ」

「はぁ?」


近藤勲っていやあ、確か真選組を束ねてる
頭的存在じゃあなかったか?
確かにアイツは、幕府に捕らえられて連行されたが。

「恐らく、真選組の何者かと接触し…
 土方の中に強く近藤の存在が残っているのを知ったのだろう。
 だから銀時は『死人に負けたくない』などと…」

「ちょっと待て、ヅラ、てめぇ知らないのか?」

「ん?何をだ」

斬首刑にさせられたのは表向きで。

「近藤勲は生きてるぜ?
 世間での存在は抹消されてるけどな」

「高杉…それは本当か?」

「近藤さん…」


もう何時間経ったか分からない。
もう、どれくらいそうしていたか分からない。

「総悟…」


声は擦れ、涙は枯れた。
ガリガリと壁を削り続けた爪は
可笑しなくらい磨り減って、血が滲んでいた。

「山崎…みんな…」

臀部からは、坂田によって放たれた精が
止め処なく零れて太腿を伝っていて。
前は気持ち悪くて仕方なかったが
今はもうどうでも良かった。

「ひ、っく、近藤さ…」

引っ掛かれた背中が痛んだ。
揉み潰され、引っ張られた乳首が痛んだ。
手錠や鎖でがんじがらめにされた手首や足首が痛んだ。
無理矢理開かされ、抉じ開けられた全身が痛かった。

「ごめん、なさ、俺、護れな、かっ…」

だが、体の痛みよりも
今総悟達がどうしてるのかが分からない方が
痛くてとても辛かった。

ここに来て、もう何日になるのか分からない。
坂田に犯されてどれだけの時間が過ぎたのかも。
世間はどうなっているのかも。
何も分からない。

一つだけ分かる事は
坂田は異常な何かを俺に向けていて
その為に、俺の大切なモノを奪いに行ったっていう事。
あれは脅しじゃない。
本気だ。

坂田のあの目は、殺意だ。

無事でいてくれ。
誰もアイツと遭遇しないでくれ。
頼むから。

俺の居ない所で、誰も危険に晒されないでくれ…!


「悲劇のヒロイン様よぉ、ちょいと失礼するぜ」

ギイ。
重い扉が開かれる音。
薄暗い地下室に慣れた俺にとっては、
その扉から入る光にすら目が眩む。

「…なに、しに来た…っ」

「おや?意外にまだ元気だねぇ」

鉄格子の向こう側で薄ら笑いを浮かべているのは
坂田と同じ武装警察の高杉だ。
ない力を振り絞って睨みつけると
相手は更に笑みの色を濃くする。

「クク、てっきり絶望に浸っていると思ったんだがな」

そうして相手は近寄ってくると
鉄格子の間から手を差し入れ、
俺の首につけられている鎖を引っ張って
己の方に近づける。

「あ…っ」

勢いよく引っ張られたから、
必然的に鉄格子に俺はぶつかる。
ガン、と頭をぶつけて声をあげた俺の耳元に
高杉は口を寄せ。

「土方ァ、暇だろ?だからある男の昔話をしてやるよ」

「なに…?」

「可哀想な、でも本人は全く可哀相と思ってない男の話をなぁ」


高杉から聞かされる言葉。
鎖を捕まれているから身動きが取れず
嫌でも鼓膜に響いて意識に入り込んでくる。

彼の語る言葉は、坂田の過去だった。
アイツは過去にこんな事があったから
今はあんな可笑しな男になってる、
というもの。

「知るかよ、そんなの…ッ」

だが、だからと言って俺は
アイツにされた事を許せる筈がない。
同情だって出来ない。

それよりも只、総悟達の事が
心配で堪らなかった。
本当にあいつ等を
危険な目に合わせていたとしたら、絶対に許さない…!

「なんでそんな話をすんだよ!?
 坂田が可哀想だから!?
 だから俺にこんな事するのは当然だって?」

「いいや?
 俺はアイツがする事に、ちっとも興味ねぇんだがなぁ」


含んだ笑みを高杉は向けてくる。
意味が分からず、
問いかけるように見つめると彼は口を開いた。

「気になる事が一つあってねェ。
 銀時、鼠退治するって言ってフラリと外に
 出て行ったらしいんだがよ。
 お前にアイツはその行き先を告げて行ったか?」

「・・・!」

鼠退治、と称してアイツは総悟達を殺しに
その宣言通り出掛けて行ったのだろう。
全身から一気に体の力が抜ける。

坂田は相当の達人だ。
いくら総悟の腕が立つとはいえど
病に侵された体では歯が立たないだろう。

総悟、まさか…


「可笑しな事にねぇ、銀時が珍しく怪我を負って帰ってきたんだよ。
 死人に負けたくねぇって発狂しながらな」

「…どういう、事」

「察せよ馬鹿者。
 アイツはてめぇの仲間を殺せなかったって事だよ」

「なんで…」


殺意だった筈だ。

恐ろしい程淀んでいたあの瞳は。
なのに、接触したのは組の誰だか分からないが
坂田は相手を殺せなかったどころか
自らが怪我を負ったなんて。


「知るかよ。
 どうせまたアイツはお前に会いに来るだろうから
 その時に訊いてみたらどうだ?」

「…訊いたって、きっと答えない」

「どうかねぇ。
 思ったより、銀時はお前を好きみてぇだから
 今なら答えてくれそうだがな」


身の毛がよだつ事を高杉は言う。
坂田が俺を好きだとか、考えたくもない。
思わず目を逸らすと相手は鎖から手を放した。


「ああ、そうだ土方ァ。もう一つ面白い事を教えてやろうか」

今までの話もちっとも面白くない。
だがとりあえず、仲間の無事に胸を撫で下ろした直後。

「お前達が、処刑されたと勘違いしてる近藤勲は生きてるぜ」

「は…?」


バカな。
意識はそう思うのに
俺は無意識に鉄格子を掴む。

「待てよ!どういう事だ!?」

俺の行動が予想通りだったのか
楽しそうに高杉は笑むと
答えずにその重い扉を閉めた。

「待て!待てってば…クソ!」

響くのは、鎖が擦れ合わさる虚しい音。
混乱する頭を抱えながら
俺はスプリングがうるさいベッドに体を横たえる。

「生きて、る?」

もしかしたら高杉の狂言かもしれない。

もしかしたら、近藤さんが生きているなんて嘘で
もしかしたら、坂田が怪我したなんていうのも嘘で
もしかしたら、仲間達が生きてるなんて嘘で

「近藤さん…」

体を縮めながら俺は、泣いた。
あの優しい笑顔と声にもう一度会える事を
想像しただけで嗚咽が漏れた。

「ひく、こんど、う、さぁん…」

確かに俺達の前で殺された筈の近藤さん。
捕らえられ、斬首刑にされた筈の近藤さん。
見せしめにされ、晒し首にされた、筈なのに。

生きてる?
どこかで?
この世界の、どこかで?


生きて、る?


「土方…?」

彼を閉じ込めた部屋。
何度も足を運んだ部屋。
何度も愛し合った部屋。
何度も愛を囁いた部屋。

暗くて埃くさいそこは
君さえ居れば、天国のような場所だった。
鎖でがんじがらめにされて
逃げられぬように縛られて
快感に身悶える君さえ居れば

俺はそれで良かったのに。

「土方…」


ねぇ、俺って可笑しいの?
こんな愛し方じゃ駄目なの?
どうしたら君に愛して貰えるの?

どうしたら君の仲間を越えられるの?

ねぇ教えて。
なんで俺が沖田総悟を殺せなかったのか教えて。

うん。本当は分かってるよ。
本当は、なんでか知ってるよ。
でも君の口から聞きたいよ。


「寝てるの…?」


沖田総悟に負わされた傷は
ヅラに手当てしてもらったけれど
俺の体は未だにふらついていた。
普段、こんなに血を流した事がないから
イマイチ加減が分からない。

「ねぇ…」

土方の長い髪を引っ張って揺する。
だが、よっぽど眠りが深いのか
呻くだけで瞼を開かない。
いつもならここで苛立って
引っ叩いて起こすんだろうけど
そんな気は到底湧き上がらなくて。

そう。
俺は本当はそんな事したくない。

でも叩かなきゃ。
乱暴しなきゃ。
犯さなきゃ。
泣かさなきゃ。
そうじゃなきゃ愛してもらえない。

あいを、かんじられない


『銀時、私は君の全てを受け入れるよ。
 ただ一つだけ覚えていて欲しい。
 君が君のお父さんにされた事は、決して正しい事じゃない』

『…なんで松陽先生、そんな事言うの?
 お父さんは俺が、大好きだからこういう事、するって』

『違う、銀時。愛するっていうのは、もっと違う事なんだよ』


「土方ぁ…」


傷痕がじくじくと痛み出す。
多分、さっき呑んだ鎮痛剤が切れたんだ。
でも俺はそんな事どうでも良くて
起きてくれない土方の隣に寄り添うように横たわる。


「泣いてたの…?」


間近で見る土方の頬には
幾筋も涙の痕が見て取れた。

違う。泣かせたいわけじゃない。
確かに君の悶える姿は興奮するけど
でも、そうじゃない。

そうじゃないんだよ。

君に愛されたい。


「ねぇ、どうしたら愛してくれる?」


きっとずっと、愛され方を知りたかっただけだった。


気付いた時には
俺の世界においての住人は、父親しか居なかった。
世の中の普通の家庭には
母親と言うものが存在するという。
それは松陽先生に引き取られてから
初めて知った事だった。

でも、俺には父親しか居なかったし
それが不幸だなんて知らないし
知らないから、俺にとってはそれが当たり前だった。

汚い、暗い家だった。
俺は一日の大半を眠って過ごした。
一日の大半は父親は外に出ているからだ。
彼は帰って来ると
出迎えた俺をまず殴る。
そして暫く殴る蹴るを繰り返すと
当然、俺は子どもだから泣き叫ぶ。
そうすると、そんな俺を見て
父親は楽しそうに笑んだ後に
力強い大きな腕で抱き締める。

『銀時、父さんはお前を愛してるよ』
と囁いてくれる。
そして俺に飯を作ってくれる。

毎日そうだった。
毎日その繰り返しだった。

でもある日から、少しだけ事情が変わった。
いつものように帰宅して暴力をした後に
『そろそろ良いだろう』と
父親が呟くのを聞いたのを今でも覚えてる。

ボロボロの俺の服を脱がし
突然下半身を嘗め回し始める。
知識はなくとも、
本能的に汚ないものだと悟った。

『お父さん、汚いよやめて』

どうしてそんな事をするのか分からない。
いつもみたいに殴って『愛して』くれたら
それで良かったのに。
混乱しながら言う俺に、父は。

『汚くない、銀時。愛してるからするんだよ』

それから、ソレが俺の愛の定義。

殴って蹴って、泣き叫ばせて。
脱がせて舐めて、無理矢理足を開かせて
縛って拘束して突っ込んで揺すぶって
いたぶる事が――…



「ふ…」

俺は笑いながら起きない土方をうつ伏せにさせる。
連日、弄り続けた彼の下半身は悲惨だった。
臀部は腫れ、内股は鬱血と爪の痕だらけ。
一番手をつけた肛門は
ヒクヒクと入り口を蠢かせている。

徐に近くにあった鞭を引き寄せ
掴む部分を容赦なくソコに突き入れた。
俺の精子塗れの内部はクチャクチャいいながら
異物を受け入れていく。

その様子が可笑しくて、
俺は己が怪我を負っているのも忘れて
出し入れを始める。

眠っているのにも関わらず
体は刺激を受け入れてピクピクと
反応を示す。
それにほくそ笑みながら
俺は次は何処まで入るかを試すために
ヌプヌプと奥へ差し込んだ。

「…ッ!?」

さすがの圧迫感に
目が覚めたのか土方が目を開く。
だが自分が何をされてるのかを察知したのか
鎖をジャラジャラ言わせて
俺の強攻から逃れようとした。
そんな彼の肩を掴んでズンッと柄の部分を
全部押し入れる。

「ひ、ぁ…!」

「あは。全部入っちゃった」

苦しげに声を上げる土方の尻に
俺は思い切り平手打ちする。
すると、尻穴から出てる鞭の部分も
ケツと一緒に揺れてなんだか面白い。

調子に乗った俺は
何度も土方の尻を叩き続けた。

「あぐ、あっ、あ、やめっ、ぁあ」

「ねぇ、可愛いよ土方。
 尻尾が生えたみたい」

「ひ、ぅ」

バシン、バシン。
暫く肉を叩く音が響いた。
声を上げていた土方も
段々と無言になっていく。

ダメだ。
心の何処かで俺がそう言う。
これじゃあ、土方はどうしたら愛してくれるか
教えてくれなくなる。

どうしてそう思ったか分からない。
でも自然と手が止まった時。
見計らったように土方は口を開いた。


「鼠退治は…出来たのかよ…?」


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