愛する人の自由を取るか。
<ねぇ、こんなに.7>
「あっ、あっ、あああっ」
腰を突き動かす度に
土方は良い感じに鳴いてくれる。
声を出させすぎたせいか
ちょっと擦れてるのが残念だけど。
「ふ、ぅ、ううっ」
その内に、喘ぎに嗚咽が交じり始めた。
そんな泣く程気持ち良いの?
嬉しいの?
銀さんも気持ち良くて、嬉しくて幸せだよ。
土方の中はいっつも温かくて
冷たい俺の体をいつも安心させてくれる。
この子を犯す音は、いつも俺を安心させてくれるんだ。
「あァっ、ぁ」
一際高く鳴いて、吐精した土方君の体からは
ぐったりと力が抜けた。
それでも俺は構わずに彼の腰を引き寄せ
欲望のままに楔を打ちつける。
「休んじゃ、ダメだよ?まだ俺、イってねぇもん…」
「いや、も、いやだぁ…!」
両腕に力が入らないのか
上半身を支えきれない土方は
シーツに額を擦り付けて懇願し始める。
「むり、んっんっ、もう今日は無理、ぁあ」
「無理じゃねーだろー?この淫乱」
「あう!」
仕方ないから達したばかりの土方の牡に手を伸ばし
再び嬲ってやるとピクン!と震えて
硬さを持ち始める。
この一週間、毎日暇があれば愛してあげたから
土方の体は可笑しなくらい感じるようになり
前立腺を触るだけで反応してくれるようになった。
嬉しいな。
銀さんの手で、土方がこんなに変わってくれるなんて。
「あっ、ぁあ、もう、嫌なんだ、
イきたく、ない…イけな、ぁ、ああ!!」
バックからハメていたのを体勢を正常位に変えて。
土方の両脚を胸につくくらい持ち上げると
そのまま体重をかけてピストンを再開した。
「やだ、嫌だー!イきっ、ひぐ、イきたくない!!」
腰をぶつける度に股間に土方の睾丸が当たるし
彼自身も動きに合わせてぶるぶる震えてるのが分かる。
それが堪らなく俺を興奮させるのに
土方君は長い黒髪をベッドに広げながら
(とてもその様子は妖艶に俺の目には映るのだけれど)
泣き叫んでイきたくない、と喚く。
なんでかな。
そろそろ素直になれば良いんじゃねーの?
「違うよ。お前は本当は、もっとイきたくて仕方ねーんだよ」
本当は銀さんの事、大好きなんでしょ?
「ねぇ、『そうご』って沖田総悟?」
「・・・」
存分に犯し終えた俺が隊服のジャケットを羽織りながら訊いても土方は答えない。
ベッドに無気力に投げ出された彼の四肢は
肩が呼吸をしている様を見ていなければ
まるで死体のようにも見えるくらいだ。
「さっき、土方が気を失った時にね、
呟いてたんだよ」
時間通りに戻らなければ
ヅラや高杉に怒られる。
それは、俺が土方をここに閉じ込めている事を
松陽先生に知らされてしまう事にもなる。
でも俺は見廻りに行く前に
どうしても確かめておきたくて
精液塗れのまま動かない土方に近づいた。
「答えろよ。言わなきゃ、今度は直腸内ハメ撮りするよ?」
「…テメェには、一生答えねぇ…!」
喉から搾り出された声。
そして久々に見た、反抗的な土方の目。
どんなに縄やベルトの痕が体に付こうが
どんなに喘がされようが
どんなに性を蹂躙されようが
彼が、仲間に対する想いは何一つ変わっていない事を
改めて気付かされる。
こんなに愛してるのに、
土方の心は何一つ変えられてない。
恥辱や快感で溺れさせようとも。
何一つ。
「…なぁ土方。
俺さ、考えたんだ。
お前の体も心も奪えないんだったら。
俺のモノに、なってくれないんだったら。」
「・・・?」
なら、環境から変えていかないとね?
「土方の大切なもの、奪っちゃえばいいかな?」
「!!」
反射的に土方が上半身を起こした。
多分、相手の表情からして
とても俺は楽しそうに笑ってたんだと思う。
「やめ、やめろ…」
「土方の仲間だしさ?
まぁ見逃してあげてた部分は
今まで少なからずあったけど」
そうだ。単純な事だったよね。
土方の大切なもの、失くしちゃえば良かったんだ。
「もう容赦しねーから」
「やめろ坂田…!」
切羽詰った様子で
土方が鉄格子の間から手を伸ばしてくる。
「頼む、やめてくれ!!」
でももう遅いよ?
チャンスは何回もあげた。
なのに、君が俺を愛してくれないのがいけない。
土方が素直にならないから
これは外の世界を変えていかなきゃ、だもんな。
君が撒いた種だよ、全部。
それを俺は優しく刈り取ってあげる。
「じゃーな」
必死で俺を止めようとするあの子を置いて
俺は地上へと上がる階段を登る。
「やめ、てくれ…」
待っててね、俺の大切なお姫様。
「俺の大切なもの…これ以上奪わないでくれ…」
「おや銀時。何処へ行く?」
地下室から上がってきた俺は
そこでいつもなら昼寝をする。
だが、それをせずにそのまま外へと出て行こうとする俺を
不審に思ったのかヅラが呼び掛けて来る。
言うべきか。
言わざるべきか。
迷った。
けど。
「んー?鼠退治」
少しだけ濁して俺は外へと出た。
沖田総悟や他の連中にそんな都合良く
遭遇するとも限らないのに
刀を携えて市内を歩く。
土方を手に入れる為に。
彼の仲間は一体、どうしているのだろうか。
土方が居なくなった事で混乱しているのか
もしくは、彼を欠いても
活動は続けているのだろうか…
この一週間真選組と刀を交えてないし
ヅラ達も見つけていないらしいから
そういう情報すら掴めない。
土方は今頃、あの地下室で何をしてるんだろう。
何を考えてるんだろう。
俺が沖田達を殺しに行くって…
それだけ俺が、土方を想ってるって思い知って
喜んで震えて泣いてるかな。
『頼む、やめてくれ!!』
切羽詰った土方の表情が
脳裏に甦って思わずほくそ笑む。
うん、きっとそうだよね――…。
「げほ、ケホ…あー畜生…」
薄暗い路地裏を歩いている時だった。
派手に咳き込んだ後に、悪態をつく声。
声変わりしたばかりであろうその少年の
けだるい調子は何処かで聞いた事があった。
目を凝らしてみれば、腰に刀を差し
薄茶色の髪をした男が蹲っていた。
見間違える筈がない。
沖田総悟だ。
他に仲間も居ないようで、たった一人だ。
その様子を見て口元が緩むのは仕方ないと思う。
神様がいるとしたら、
どうやら俺の味方をしてくれるらしい…
「オイ、お前…指名手配犯、沖田総悟だな?」
「あぁ?」
名前を呼ばれ、怪訝そうに沖田は顔を上げ…
俺の姿を見た途端にその大きな瞳を見開く。
「まさかその隊服…武装警察の野郎ですかィ?」
「本来なら、お縄について貰う所なんだけどねぇ。
俺の愛しいお姫様の為に」
俺は言いながらスラリと鞘から刀を抜き、
相手に切っ先を定めた。
「テメーには死んで貰うよ?」
「はっ…こんな時に面倒な奴が来なさった…!」
ぐ、と沖田は口元を拭うと
退く気はないのか同様に刀を抜いてくる。
「あれ?逃げねーの?
追い詰めてから嬲り殺してーのに」
「逃げるわけねェだろィ…
アンタを前にして、背を向けられるかってんでさァ!」
そのまま突進して斬りかかって来ると思いきや、
沖田は狭い路地裏を利用して
壁を蹴り、上からの攻撃を行ってくる。
ガキン、と音が鳴って
俺は相手の刀を己のソレで受け止める。
なるほど、確かに恐れられる腕の持ち主かも知れない。
その華奢な体を利用した戦い方か…
「てめぇら…土方十四郎をどこへやったんでさァ!?」
「!?」
その小柄な体のどこに力があるのか、
と思う力で相手は押しながら訊いて来る。
「何の事ですか?さっぱりなんですけど」
「とぼけんじゃねェ…!
他の組の奴から聞いたんでィ、
黒い制服の銀髪男に土方さんが連れてかれたって!
その男ってアンタの事だろ!?」
クソ、バレてやがったのか…!
心の中で舌打ちをしながら
とりあえず相手を牽制しようと足払いをする。
しかし察されたのかそれは軽々とかわされ、
沖田は俺と距離を置くと再び叫んでくる。
「答えろ!土方さんをどうした!」
「さぁねぇ?
てか、何でお前そんなに必死なの?
アイツの恋人かなんかですかコノヤロー」
「近藤さんを俺達から奪っといて
よくもそんなのうのうと…!
今度は俺達から土方さんも奪う気かィ!?」
「は?近藤さん?」
突然、今度は違う名を出されて
俺は首を傾げる。
しかし近藤、と言う名はどこかで聞き覚えがあった。
確か、見せしめで
幕府に斬首刑にさせられた
近藤勲・・・?
『・・・近藤さ、ん。会いたいよ・・・』
そんな事を
土方は言っていた気がする。
でも名前がハッキリ聞き取れなくて
だから誰に会いたいの?
って聴いて。
確かに、あの時彼が『近藤さん』と
呼んでいたのならそうな気もする。
じゃあ、あの子が泣きながら
名前を呼んでいたのは
会いたいと願っていたのは
俺じゃなくて。
もうこの世にいない男なのか…?
「…ッ、何をボーッとしてんでさァ!」
どくり。
熱いものが胸元を走るのを感じた途端に
血が吹き出て痛みが全身を駆け抜けた。
それは俺が沖田に斬られたのだと理解するのに
数秒を要した。
何に…俺のどの言葉に相手が動揺したのかは分からなかった。
だが銀髪男が思いがけない隙を
この邂逅から初めて見せた。
今しかチャンスはない。
そう思った。
確実に仕留め、
尚且つ土方さんの居場所を聞きだす。
それから、止めをさす。
じゃなきゃ…俺はもうきっと一生
あの馬鹿土方に会えねぇ…
それじゃあ、近藤さんにも顔向け出来ねぇや…!
「…ッ、何をボーッとしてんでさァ!」
俺は刀を構え、
棒立ちしている銀髪男の胸を切り上げる。
ブシャアと血が噴出し
黒い制服にシミを作っていく。
「な…っ」
そして倒れるかと思いきや
血をボタボタ零し、
全身で荒い息を繰り返しながらも銀髪男は立っていた。
傷が浅かった…?
否、あの感触と出血量じゃ
相当刃が食い込んだ筈だ。
だが、彼は現に立ち続け、
尚且つブツブツと何かを呟き始める。
「な、んで?なんで…?
コイツさえ…沖田さえ殺せば、良いと、思ったのに」
そう言って、銀の前髪の間から鋭い双眸を
こちらへ向けてくる。
刹那、本能的に危険を察した。
思わず足が瞬間的にだが震えた。
「テメーを殺せば土方は手に入るんじゃねぇのかよ!!」
「!!」
血を吐き出しながらも激昂してくる。
マズイ。
よく分からないが、ここで殺さなきゃ俺が殺される。
土方さんの次に俺まで居なくなったら
真選組まで瓦解する…近藤さん、力、貸してくれィ…!
そうして再び刀を構えようとした瞬間、
痛みにも似た感覚が俺の胸と喉を襲った。
こんな時に…!
「ゲホ、げほ、がは…!」
耐え切れず、俺は血に膝をつく。
クラクラする意識を懸命に保ち、
口元に手をやれば、付着する血液。
あぁ…本当、吐血する期間が短くなってらァ…
「ぐ、クソ、ぉ…」
「あー何。沖田君は病気持ち?肺ですか?」
「ゲホ、うるせー。テメーには関係ェでさァ…」
蹲る俺の近くに、
相変わらず胸から血を流した銀髪男が近づいてくる。
大量に出血してる筈なのに
ニヤニヤしながらアイツは見下ろしてきた。
が、視界までぼやけてくる。
刀を握る力さえ失われてきた。
「ま、どっちしにろ俺達、武装警察の姿を見た奴は
生きては帰せねーんだよ」
「く…そぉ…」
笑いながらあいつは、俺の頭上に刀を振り上げる。
足が動かない。頭が痛い。腕が動かない。
ああ、死ぬのか、俺は。
こんな路地裏で、たった一人で。
近藤さんの為に何も出来ずに、死んでくのか。
「バイバイ、沖田君。来世では良いお友達になろーね」
これは、世界を憎むなって言われたのに
世界に復讐しようとした罰なのかな。
ごめんなさい、近藤さん。
近藤さん。
「土方、さ…」
土方さん。
先に近藤さんと姉上の所に逝く事
許して
下さ
い
*
『晋助、新しいお友達だよ』
銀時は、松陽先生が連れてきた子供だった。
俺もヅラも、家族が居てそれなりに裕福な家庭で。
そんな中、羽織も着ず、髪の毛はクセっ毛なのかボサボサ。
更に目は死んだ魚のような目をしていて
話しかけても「ああ」とか「そうだな」としか喋らない。
松陽先生が開いていた塾の中で
銀時は、かなりイレギュラーな存在だった。
松陽先生を幼い頃から尊敬して止まなかった俺は
先生の養子のクセにあんな態度をとるアイツが
物凄く嫌なヤツだ、と初めは思っていたのを覚えている。
銀時が、実父に何をされて
あんな死んだような子どもになってしまったのかを知るまでは。
「…高杉。多分、銀時は」
松陽先生と幕府に報告書を提出しに行き、
俺が戻って来た時にはヅラしか居なかった。
また銀時は土方の所に居るのかと思いきや
鼠退治、と言って外へ出て行ったという。
「自分が父親にされた事を、土方にしている」
そう言ってヅラは、頭を抱えた。
そんな悩んでると本当にハゲるぞ、とは言えず
向かい側に俺は腰をおろす。
「…何を言いてーんだよ、ヅラ」
「ヅラじゃない、桂だ。
俺は…初めから土方を奪い取っとくべきだったんだ」
「はぁ?もう少し分かりやすく言え」
「だからだな。今の銀時は
子どもがずっと欲しかったオモチャを与えられて
それにずっと夢中な状態だ。
銀時はいつも淡々としているから分かりにくいが、
アイツは変な所で脆く、崩れやすい子どもみたいな部分がある」
「あーつまりこう言いたいのかい?
初めは、土方っていう手に入れたお気に入りの玩具。
それを奪ったら銀時っていう子どもは泣き叫んでいう事を聴かなくなる。
だから放っておいたのに、事態は良い方向に向かっていないって?」
言いながら煙管を取り出す。
しかし、そんな俺をヅラは睨む。
俺が思うよりも、アイツは深刻に考えているようだ。
「只の玩具なら、何も言わないし、考えないし、行動を起こさない。
子どもにされるがままだ。
だが土方は違う。
確固たる意志を持ち、話し、生きている人間だ。
玩具は使えなくなったら捨てれば良いが、
土方は死んだら、もう動かないし、喋らない」
「そりゃあそうだろ」
「…俺が言いたいのは、銀時はちゃんと
『土方が自分とは違う、生きている人間』という事を
しっかり理解出来ているかという事だ」
「・・・」
…それを考えて、どうするんだ?
土方は敵だし
それに生きてるヤツを俺達だって何人も斬ってきただろう?
今更、ヅラは何を言っているんだ?
今更、銀時を全うな人間にしようとでも?
思い出せよ、ヅラ。
松陽先生だって『ありのままの銀時を受け止めてあげなさい』
って言ってたじゃねぇか…
その時だった。
乱暴に扉を開いて帰って来たのは銀時。
話している俺達には一瞥もくれずに
土方の所へと向かおうとする。
その時に香った、血のにおい。
「銀時、なんだその傷は…!」
驚いたヅラが銀時に駆け寄った。
その胸元はバックリと裂け、血が流れ続けている。
さすがに俺も驚愕した。
銀時が怪我を負わされるなど。
「やだ。ヅラ…はな、せ」
「駄目だ。まずは止血をせねば」
「いやだ!土方に…ッ今すぐアイツに会わせろ!
殺すぞてめぇ!」
「…銀時、それでは貴様が死ぬぞ。分かっているのか!」
「いい、死んでも良い、良いから」
銀時は、ヅラの言う通り普段は淡々としてる。
だから一見すると分からないが
アイツは本当に子どものような所がある。
子どものような、ではなく子供なのだ。
子どもの時にアイツの心の時間は止まってしまっているから。
「土方に、あわせて…」
実父に性的虐待を受けた、あの時から。