そこに居てくれるなら、心なんて要らなかった。

全てを欲しいと願いながら。


愛されるって、どんな気持ち?

教えて
(そんな矛盾)


<ねぇ、こんなに.6>


茶を呑み終わり、
地下室へと向かった高杉と銀時を
呼びに行こうと立ち上がった時だった。

「おーヅラ。待たせたなぁ」

「ヅラじゃない、桂だ。
 あと少し遅ければ、呼びに行く所だったぞ」

「あっぶねー」

悪戯をした子供のような笑みで銀時は言う。
俺はそれに少し違和感を感じた。
高杉はよくそういう表情をするのだが
銀時がその顔をするのは、本当に珍しくて。

「…お気に入りを手に入れて、はしゃぐのは大いに結構だが」

「あぁ?」

「忘れるな。彼は、俺達の敵に変わりはないんだぞ」


昔から一緒に居るから知っている事。
それは悔しいが、銀時は腕が立つという事。
そして斬り方に感情が伴わないという事。

誰しも、一番初めは人を斬る時躊躇うものだが
(今はもう違うが、あの高杉でさえ当初は震えていた)
銀時は違った。
無表情で、容赦ない太刀筋。

それが浪士達に恐れられ、
最恐の白夜叉の異名たる所以である。
なのに、あの男のせいでそれが崩れるとなると
俺達―特に松陽先生の立場が危うくなる。
それだけは避けなければならない事態だ。


「ああ。分かってる」

しかし銀時はそう言って俺の横を通り過ぎ。

「敵だから手に入れたんだよ、ヅラ」

刀を腰に下げるとニタリと笑った。
俺はその顔にいささか恐怖に近いものを覚える。
そんな俺の肩をポン、と叩き。

「止めようとしたって無駄だぜ。
 アイツぁ本気だよ」

「・・・ッ」

クク、と酔狂な笑いをしながら高杉が言う。
そんな彼を俺は無言で睨んでやった。
高杉は、土方十四郎を知らない。
指名手配犯一人一人になど、興味がないのだ。
アイツは松陽先生の為だけに刀を振るうからだ。

…高杉の左目の光を奪ったのは、
土方、沖田ら以下数十名の腕の立つ浪士らを束ねていた
その頭――数ヶ月前に
幕府によって処刑された近藤勲。

その近藤の側近…片腕と言っても良いのだろう。
それが土方だ。
自分の左目の視界を奪った男と親しかった者と知れば、
高杉も土方に対してどんな行動を起こすか分からない。

しかしそれを銀時が許す筈もないだろう。
だからといって2人の間に
亀裂が生じられても困るのだ。

素晴らしい厄介事を連れて来てくれたものだ…。
俺が内心、頭を抱えてるのも知らずに
2人は江戸の見廻りへ向かう為に外へ出て行く。

土方を捕らえた件については
頃合を見て銀時を説得し、松陽先生に報告しよう…

「おいヅラぁ。何ボーッとしてんだよ」

「ヅラじゃない。桂だ」


呼ばれて俺も彼らに続く。

そこでふと、地下に捕らえられた土方が
一体どんな状態で監禁されているのかが気になった。

最も、本当に俺の与り知らない領域なのだろうけれど。


*



「あっ、く、もう、嫌だ…」

掠れた声でそう訴えるも
聞き入れる人物はそこには居ない。
それを知っていても
そうやって声を出さなければ狂ってしまいそうだった。

『ねぇ感じる?
 銀さんのが、土方のケツに、入ってるの!』

『やっ、ぁ、ああっ』

これが何度目になるか分からない言葉のやり取り。
映像は瞼を瞑ればなんとかやり過ごせるが、
耳に入れられたイヤホンだけはどうにもならない。

首を左右に振って、耳から弾き出してやりたかったが
上手くいかずに相変わらず俺の意識を
情事の音が犯していく。

「はっ、は、ぁ、ふ…う…」

俺を苛むのはそれだけじゃない。
肛門に突っ込まれたモノは絶えず振動し、
乳首と性器も微弱な動きを
快感として拾ってしまう。


「あく、ぅ、嫌だ…」


『ひじかた、好き、すき』


耳元で、坂田の声が注がれる。
もう何回繰り返されたか分からない



『すき、だから』


愛の言葉。


『ずっと銀さんがお前をここに


 閉じ込めて愛してあげるね・・・?』


「嫌…」


閉じ込めて愛するってどういう事だ。
ずっとここでこうして、
こんな事をされて生きていけと言う事なのか?


「ひっあっ嫌だ…近藤さん…」


ふざけるな。
冗談じゃない。
近藤さんを奪った幕府に仕えるアイツに
一生飼い慣らされるなんて
冗談じゃない…!

「近藤さん…総悟…」

俺は、一生坂田なんか愛さない。
世界が許しても、俺は絶対に許さない。

近藤さん

総悟

山崎

皆・・・


『トシ。本当はこんな事言いたくないけどなぁ。
 もし俺に…近藤勲に何かあった時は
 お前が皆をまとめてやってくれな』

『ふざけんな、何言ってやがる。
 俺はアンタを護る為にここに居るんだ。
 アンタが居ない世界なんざ、意味がない』

『はは、そう言うなよ。
 というかもしもの話だから。俺は死なないよ』


アンタ、そう言ったじゃねーか。
なのに何をあっさり殺されてんだよ。
今も俺達の隣に居て
笑ってくれてるんじゃなかったのかよ。

「・・・近藤さ、ん」

会いたい。

会いたいよ。

なぁ、頼むから。
もう一度、俺の前で頷いて
笑って見せてくれよ…。


「会いたいよ・・・」

「へぇ?誰に会いたいの?」

イヤホンの向こう側から声が聞こえ、
意識が一気に冷えていくのを感じた。
途端、ゴーグルとイヤホンが乱雑に取られ
目の前には嫌な笑みを浮かべた坂田が居た。

「ねぇ、誰に会いたいの?言ってよ」

「・・・」

「銀さん?
 それとも・・・他の誰か?」

「言えよ。誰に会いたいんだ?」

「あう!」


答えない俺に焦れたのか、
坂田は穴に突っ込んであるバイブを
グルッと容赦なく動かす。
無言を決め込もうとしていたのに、
体に与えられる刺激には勝てなかった。


「あ…あぁ…」


更に揺さぶられ、声がだらしなく洩れる。
足がガクガクと痙攣してきた。


「…イきたい?」


坂田の言葉に、素直すぎる程ビクンと跳ねる身体。
微弱な快感だけを絶えず与えられ続けられていたせいか
意志に反して体は解放を願っていた。
勝手にトロトロと自身から液体が流れ始める。


「なぁ、イきてーよなぁ?
 数時間、こーんなに乳首とか色々刺激されてんのに」

「あっ、ああっ、あ、あああ!」

「一度もイってねーんだろー?」


グッグッと中を突き動かされ、
その度に擦れた喉から情けない声が漏れた。
そんな俺の様子が楽しいのか
坂田は笑いながら俺に話しかける。


「あのね。
 開発しねーと、男はケツマン○だけじゃイけねーの。
 分かる?」

「う、あ!」


ぐり。
坂田の指の腹が、俺の尿道を捕らえて動かす。
体が求めていた快感に思わず目を見開いた。

「こうやってね?
 銀さんが気持ち良くしてあげねーと
 土方はイけねーんだよ?可哀相だねぇ」

「ひっ、ぁ、や、め」

「でも、俺は出来れば土方には気持ち良くなって欲しいの。
 土方が大好きだから、イかせてあげてーの。」


可笑しくなりそうだった。

嫌なのに、絶頂は溜まっていく一方。
先程まで視覚や聴覚で犯されていたせいか
本能が理性をぶち破って出てこようとする。

このまま坂田に強請って、
性を吐き出してしまいたくなる。


「だから教えて。土方が会いたいのは誰?」

「・・・じゃねェよ」


…でも俺は。


「なーに?聞こえなかった」

「てめーじゃねぇ事は確かだって言ったんだよ」



近藤さんを殺した幕府に仕える
コイツなんかに絶対に屈しない。

そう言って、睨みつけてやった。


「…そう」


すると、何故か悲しそうな声を出して坂田は俯く。
まるで子供が叱られてしょげる様な態度。
信じられなくて俺は相手を凝視した。

だが。


「じゃあ、俺以外の奴の事。
 考えられないくらいグチャグチャにしなきゃ
 ダメみたいだなァ、こりゃあ」

「!!」

顔を上げた彼は、
楽しそうに笑んで口元を歪ませていた。
呆気にとられている間に
坂田は俺の体に乗り上げてくる。


「本当は飯食わせてあげようと思ったんだけど
 その前に躾のお時間かなー」

「あくぅ!」

そして俺を苛ませていたバイブや
乳首についていた玩具を全て
乱暴に取り払う。


「ねぇ土方。
 お前はね、これからずっとこうやって生きてくんだよ」

「あっ、あ!やめろ!!」

「銀さんだけに脚開いて、おまん○広げて、
 尿道から汁垂れ流して、俺だけに愛されるんだ」


坂田は言いながら
既に勃起している己の自身を取り出すと
俺の腰を持ち上げる。

今まで玩具を入れられていたソコが
パックリと口を開けてヒクついているのが
見なくても感覚で分かった。


「もうお前の仲間にも会えないよ。
 確か沖田総悟とか、山崎退とか、他にいっぱい居たよな?」


クスクス笑いながら
坂田が牡の先端を俺の穴に宛がう。


「公にはね、土方が幕府に捕らえられたって報道されてないんだ。
 ヅラも高杉も、俺を恐れて黙認してる。
 だからお前がこんな所でこんな事されてるの
 上の奴らも、土方の仲間も知らないよ」


分からなかった。
坂田が笑う理由が。

何が楽しい。
こんな事して、何が楽しいんだ。


「良かったね。
 俺達は誰にも邪魔されずに、こうして愛し合えるんだ」

「あああ…ッ」


ズプリと入ってくる。
痛みはなかったが、異物感の気持ち悪さに
俺は思わず目を瞑った。


「愛してる」


吐息混じりに耳元で
囁かれる言葉。


「愛してるよ、土方」


でもそれは、まるで坂田が
『愛して欲しい』と言っているように聞こえて…
そんな血迷った事を考えながら
俺はアイツの下で何回も犯された。


「あいしてる」


今が何時なのかも
朝なのかも昼なのかも夜なのかも分からない。

俺は生きてるのか死んでるのか
総悟達は生きてるのか死んでるのか
もう何も分からない。


坂田が俺を
本当に愛してるのかどうかも
分からなかった。



*


「ゲホッ、ゲホ」


今日も口から血が出る。
つい最近までは何日かに一回だったソレが
頻度を進めていた。

それは病が進行しているからだという事も
勿論自覚はしていた。

恐らく、天人の技術が入ってきた
現在の医療方法であれば
治せなくもない病なのかも知れない。

だが幕府にとっては反乱分子である自分を
診療してくれる医者などいないだろうし
第一、近藤さんを奪った幕府に世話になる気など
更々俺にはなかった。


「沖田さん…!」

部屋にやって来た山崎が
驚いたように俺の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
あーあ。
やな所、見られちまったなァ。

「い、いつ出たんですかその血」

「今咳した時でさァ。気にすんな」

「気にするなって言われても…」


不安そうな声色で山崎が言う。
その顔を横目で見ながら俺は
手の甲で口の端についた血を拭った。


「それよりも、土方のヤローは見つかったんかィ?」

「い、いいえ。
 やはり5日前にこの隠れ家から出て行ったきり、
 消息がつかめません」

「・・・」


あの馬鹿野郎。
俺は心の中で舌打ちをして、悪態をついた。

5日前に
『街の様子を見てくる』
と言って単身江戸市街へ出てから
アイツは失踪した。

俺がこの血を吐く病にかかってから
仲間達を統率して支えていたのは
悔しいけれど実質、あの人で。

行方も分からず
幕府に捕縛されたとも、殺害されたとも
情報が入らない今、皆不安で仕方ないのだろう。
俺と一緒で指名手配犯にされているあの人は
多分、幕府に捕まれば
大きく報道される筈だ。

なのにそれがないという事は…
俺達や幕府の与り知らない所に居る可能性がある。

「沖田さん。もう、俺達は活動を止めましょう」

「…何言ってんでィ」

「土方さんも居なくなって、
 沖田さんはそんな血を吐いてて…俺は耐えられません。
 せめて医者に行けるようにしましょう」

「・・・ッ!」

俺は手元にあった刀を鞘から抜き、
その刹那、山崎の首に宛がう。


「沖田さ…」

「俺は止まらねェ、何があっても!
 俺らがここで止まったら
 誰が近藤さんが生きてた事を証明するんだ!」

「でも、だからってそのままじゃ貴方が…」

「うるせェ、土方さんだって同じ事を言うだろうね!
 だって俺らは…う、ぐ」

「…沖田さん!?」


突如視界が真っ赤になり、
苦しくなって俺は膝をつき、倒れる。
血相を変えた山崎が俺を抱き起こしたけど
俺は全く別の事を考えていた。


なぁ、山崎は俺の体を案じてくれたけど
本当はこんな体、どうなったって良いんだ。

俺に生きる理由をくれたのは近藤さんだったから。

そんな近藤さんは奪われて、
もう二度と会えない人になってしまったから。

だから生きてる限り俺は近藤さんを想う。
近藤さんの名前を呼ぶ。
その為だったら喉が擦り切れたって構わないんだ。

ねぇ、土方さん。
アンタがいなきゃ皆バラバラになっちまうよ。
何処にいるの、土方さん。
早く戻って来いよ。

俺の生きる理由、奪わないでくれよ。


「土方さん…」


意識が途切れる際に、俺は土方さんを呼んだ。



*


土方を閉じ込めてから一週間が経つ。
ヤりすぎたせいか、犯してる最中に土方は意識を失った。
まぁ少しくらいは休憩を与えてやろうかな。
俺はそんな事を考えながら
土方の寝顔を眺めていた時だった。


「総悟…」


そうご。

彼は確かにそう言った。
その名前は知っている。
土方の仲間の沖田総悟。
刀の達人で、幕吏も相当手を焼いている
指名手配犯…。


「ねぇ、土方」


何ソレ。
こんなに愛してあげてるのに
なんで銀さんの名前じゃなくて、ソイツの名前呼ぶの?

なんで?どうして?
嫌だよ。こんなに愛してるのに。

俺を呼んで。

おれいがいのおとこのなまえをよぶなんてゆるさない


「起きろ」

「いた…ッ」


土方の長い黒髪を無造作に掴み、揺すってから引っ張る。
すると眠りは浅かったのか
痛みに呻きながら土方がすぐに目を覚ます。

「あ…」

俺を見た途端、彼は情けない声を出した。
その目には絶望の色が広がる。
数日前まで反抗的だったその目は
次第に諦めを覚えていったのが分かる。

それでも俺は、土方を解放する気になんかなれない。

「も、やめ…」

「充分休んだだろ?また愛し合おう?土方」

「くぁ…」

前はキツくて仕方なかったが、
今は俺の性器の形を覚えたのか
抵抗なく呑み込んで熱く迎えてくれる土方の体内。

それが気持ち良くてたまらないんだ。


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