土方に会いに行こう、とヅラが俺を見る。
一瞬、俺とヅラが土方に会いに行った事を知った銀時が怒り狂って俺達を八つ裂きにするイメージが脳裏を駆けた。
思わず銀髪の幼馴染が消えて行った部屋の奥へとちらりと視線を向けたもののヅラだって馬鹿ではない。
あの様子の銀時なら「大丈夫」と判断して敵の本当の事を見たいと言い出したのだろう。

「ふん。てめぇも案外酔狂な野郎じゃねーか」

銀時がどんなに願っても、病むほど愛しても手に入れられない土方。
それは、俺が先生の子どもになりたいと願っても、死んでもなれない事実と似ている。
そんな事を考えながら、地下へと通じる階段を俺達は下りた。

「よォ、土方」

血の匂いが、精液の匂いと混じって鼻腔をついた。
多分それは土方の仲間に斬られたと思われる銀時が流した深紅の匂い。

「また、ゾロゾロと現れやがって…」

鎖に繋がれた土方はベッドの上でぐったりと力なく座りながらも目に宿した強い光は未だくすんでいなかった。

「何なんだよ、今度は」

吐き捨てるように言いながら、乱れたシーツを全裸の身体に引き寄せて彼は纏う。
そんな土方にみかねたのか。
ヅラは己の隊服のジャケットを脱いで鉄格子の扉を開け、中に入っていくからギョッとした。
土方も驚いている…その肩にヅラは脱いだばかりのジャケットをかけてやる。

「てめぇ、何のつもりだ…ッ」
「…今から話をしようとする相手が、
 そんなあられもない姿では気が削がれる」

静かにヅラはそう呟くと、続けて口を開いた。

「さて。俺は貴様と初めての邂逅だな。
 俺の名は桂小太郎」
「ヅラ!何、名前明かしてんだよ!」

俺達の素性は、他の人間に明かしてはならない。
それは任務を速やかに遂行する為の…
そして暗躍する為の最低限のルール。
なのにヅラは明かした。
最も敵である筈の、土方に。

「今から話をするんだ。
 己の名前を名乗るくらい当然だろう」

「俺は、お前らと話す事なんざ何もねぇよ!」

ギッと強くヅラを睨んだ土方は肩にかけられたジャケットを投げ捨てる。

「何なんだよ、てめぇら幕府は!!
 近藤さんを捕らえて、あんな見せしめみてぇに公開処刑したと思えば…俺達からあの人を奪ったと思ったら、今度は生きてる、だとか!」

土方は爪先がボロボロの拳を握る。
その震える声には、怒りと悔しさが交じっているように思えた。

「ふざけるなよ…俺達の気持ちを散々踏みにじりやがって…!
 返せよ!!近藤さんを…生きてるなら、近藤さんを返せッ!!」

「率直に言おう。
 俺一個人の意見としては、貴様とその近藤を
 幕府にばれる事無く逃がしたい」

「は、ぁ?」

ヅラが可笑しな事を言い始めるから思わず俺の口から情けない声が出る。

「ヅラ、お前自分が言ってる意味、分かってるのかい?」

「勿論さ。
 只、その代わりと言っては何だが、教えて欲しい。土方」

俺の疑問に答えた後、ヅラは土方に向き直る。

「貴様が銀時に捕らえられたこの数日間、アイツと何をして、何を話したのかを」

「へぇ?
 俺と近藤さんを逃がす代わりに、あの変態銀髪に何をされたか言えって?
敵のお前らを、信じろって?」

馬鹿な話だな、と土方は鼻で笑う。
だがそれでもヅラは屈しなかった。

「…貴様が俺を疑う気持ちは分かる。
だが、今は立場を忘れて、俺を一人の人間として話して欲しい。
俺も貴様を、一人の人間して相手する心意気でここへ来た」

ヅラは真っ直ぐな男だ。
思い込むと一直線な所があるが、基本的に本当に思った事しか言葉にしない。

それを察したのか、土方は戸惑いの表情を見せた後にそれでも口を開いた。

『近藤も助けられる』という条件が彼にとっては尊い希望だからだろう。

「…何をされたかなんて、一方的な暴力だ。
そこの高杉とかいう奴も知ってんだろ」

貴様も交じったのか、とギロリとヅラに睨まれる。
クソ、俺の事まで喋ってんじゃねーよ。

「本当に、それだけだ。
 それ以外は、無理矢理食事をとらされて、風呂に入れられて」

「そうか…。
 銀時は貴様に随分と執着があるようなんだが…
 それについては心当たりがあるか?」

「ねーよ。
 なのに何度も俺に好きだとか愛してるだとか言ってきて、
俺も、アイツが好きなんだって坂田は勘違いしてる。今まで喋った事もねーのに。
それを言ったらアイツ、頭の中で何度も話した事があるって」

妄想が頭の中に現実として刷り込まれてしまっていたらしい。
イってしまっている銀時に思わず笑みが零れたが
ヅラの質問に、その気持ちは掻き消された。

「それに貴様は、なんて答えたんだ」

「…変だって、言った」

……ああ、それか。
俺は唯一世界を映せる方の目を細めた。

アイツの根底を揺るがした言葉は。

「そんな事より、近藤さんに会わせろって、言った…」

言いながら土方の声がか細くなり、やがて項垂れる。
きっとすり減らされた理性と神経が
自ら発した『近藤』という名に反応したのだろう。

だが、俺もヅラも分かった。
銀時があんなに必死になっていた理由。

アイツにとって、土方は初めて自分を否定した存在。
父親に暴力を振るわれていた銀時を保護し、
護り、与え続けた松陽先生。
そんな先生の教え通りに、俺とヅラは銀時を見守り
受け止め、受け入れ続けた。

しかし土方は違う。
生き様も信念も違う。
だから、受け入れられる事が当たり前だと思っていた銀時を拒絶して否定し、拒み続けた。

お前は変だ、と真理を告げてしまったのだ。

「なるほど。そういう事か」

ヅラはそう言った。

「…銀時と向き合ってくれて礼を言う、土方十四郎」


「土方、来て」

そう言って連れて来られた先は
地下室の階段の先。
つまり、地上の世界。
もうどれくらいの時間、
閉じ込められていたか土方は分からない。

衰弱しきった身体は
土方をこんな事に陥れた張本人である銀時に
罵声を浴びせる気力さえ失わさせていた。

「身体、洗ってきて」

そしてそのまま、浴室に押し込まれる。
銀時が普段のように無理矢理入り込んできて
犯すように土方の体を洗うのかと思いきや
彼はそのまま入ってこないようだ。

可笑しい。
そもそも、桂が『お前を逃がしたい』と
高杉を連れて土方に話をしに来た事が
敵同士である自分達にとっては可笑しい会話なのだ。

『銀時と話してくれて、ありがとう』
銀時と同じ武装警察である彼は、そう言ったのだ。
確かに、土方にそう言った。
敵であるのに。
本来ならば幕府に自分達を突き出す
存在である筈の彼らが。

『銀時には、俺達以外の人間は今まで存在しなかったから』

桂は去り際に呟いた。
だがそれは、彼や高杉自身もそうなのではないかと考える。
しかし、そんな事は土方の与り知れない部分だ。
知らなくても良い、部分だ。
敵だ。

敵なのだ。彼らは。

「…コレ」

傷や縄の痕がしみて、洗うどころではなかった。
それでも土方は長い黒髪と身体を洗い終え、
浴室を出ると、銀時が待ち構えていた。
少しだけ警戒していると、俯きながら
オズオズと彼から渡されたのはタオルと下着、
それと拉致された時に着ていた土方の黒い着流し。
しっかりと洗濯されて畳まれている。

「な、にを」

思わず土方はそう言ってしまう。
このまままた、あの暗い地下室へ連れて行かれると思ったのだ。
その時はいつだって土方は着物を纏う事など許されない。

『俺一個人の意見としては、貴様とその近藤を幕府にばれる事無く逃がしたい』

桂の言葉が脳裏を駆ける。
だが、そんな事はありえない、とどこかで心が叫んだ。
土方を監禁し、弄り続けてきた銀時が。

「良いから早く着替えろよ」

自分を逃がすだなんて、そんな事を考える筈がない。

「時間ねぇから」

そんな筈が無いのに。


(どうなってるんだよ)


土方の愛が欲しい、と銀時は叫んでいた。
そしてその為に土方の仲間を殺しに行くとも言った。
だが、半ば発狂した状態に近い銀時が戻ってきた時に
袈裟斬りされていた傷。
そう、まるで返り討ちにされたような。

『銀時はなァ、父親に虐待されてたんだよ』

(知るもんか!)

土方は必死に自分に言い聞かせる。
彼がどんな生い立ちだろうと知った事ではない。
敵なのだ。
生きてきた場所が違うのだ。

彼らは、土方の大事な仲間を奪うのだ。



「乗って」

着替え終えた土方の手を乱暴にとると、
手錠を嵌められる。
そして銀時の低い声が命じて、黒塗りの車に乗せられた。

まだ夜は明けていないようで外は暗い。
だが、久々の外界の空気のにおいと感覚に
身震いをして目尻に涙が浮かぶ。

(やっぱり俺、幕府に連れてかれんだな…)

隣に座ってきた銀時を横目で見ながら
土方はぼんやりとそんな事を考える。
疑ってはいたものの、
少しでも桂の言葉を信じてしまった自分を嘲笑った。

抵抗しようにも殆ど身体には力がのこっておらず、
手錠を嵌められた状態で
しかもこの狭い車内では勝ち目が無さ過ぎる。
逃亡するとしたら、車から下ろされる瞬間だろうか。
そう考えていると力ない銀時の声が話しかけてくる。

「ねぇ土方」

今まで、土方をいたぶっていた時には
到底聞いた事の無いような声色で。

「なんで土方は、そんなに近藤が大事なの?」

感情の宿さない銀時の瞳が、
少しだけ潤んでいるように見えた。

「てめぇに教える義理なんざねぇよ」

「…そっか」

殴られる覚悟で、土方はそう言う。
するとあまりにも拍子抜けな銀時の返答に
思わず彼を見つめてしまった。
いつもなら殴る筈だ。
暴力を振るって無理矢理にでも聞き出して。

なのに何故、それをしないのだろう。

なぜ。

「じゃあ土方。お願いだから、一個だけ答えて」

なぜ。

「もし俺がお前の仲間になれる立場の人間だったら、こんな風にはならなかったの?」




<ねぇ、こんなに.10>



「…ここは?」

車が止まった場所は、闇に紛れるように建っている
所謂監獄であった。
指名手配犯として江戸城に連れて行かれると
案じていた土方は思わず訊くと、
とても穏やかな表情を見せて銀時は答えた。

「お前の大好きな近藤サンが居る所だよ」

「・・・え」


車の運転手に帰るように銀時は命じ、
門番に敬礼をした銀時は『こっち』と監獄の奥へと進んでいく。

それについていきながら土方は
可笑しな程心臓が高鳴るのを止められなかった。

近藤さんがここにいる?
また騙されるかも?
ここに閉じ込められる為に連れて来られたのかも知れない。
だったら、逃げる算段を考えた方が…
でも、近藤さんに会えるかも知れない。
違う。
そもそも近藤さんが生きてる事事体が嘘かも知れない。
幕府の奴らのいう事なんてたかが知れてる。

なぜなら銀時が、土方を近藤に会わせる事で
得れるメリットなど一つも…


「おい、近藤勲」

一つの牢の前で立ち止まり、
銀時がそう呟くから土方は目を見開いた。

「アンタにお客さんだぜ」

そして牢の鉄格子を叩くから
呼吸をする前に土方は駆け寄る。

「こ、んどう、さ」

「え、トシ…?」

土方は部屋の奥に向かって名前を呼ぶ。
上手く声が出ない。

だが、求めていた久しく聴いた声が
呼び返してくれるから
手錠を嵌められたままの両手で
自分と近藤を隔てる鉄格子を掴んだ。

「お前、なんでここに」

「こんどうさ、近藤さん、近藤さん…!」

生きていた。
生きてくれていた。

それだけで頭がいっぱいになり、
隣に銀時が居る事も忘れて土方は泣き崩れる。

「トシ…」

鉄格子越しに重ねられる、近藤の大きな手。
髭は伸びたが変わらない近藤の安心できる声と、温もり。
土方は嗚咽を漏らしながら
相手が生きてくれている事を更に実感しようとするも
無情にもその短い時間は引き裂かれる。

「いたッ…」

「トシ!」

結った土方の黒髪が背後から銀時に引っ張り上げられる。
思わず悲痛な声を上げると、近藤が叫んだ。

「お前ぇ!トシに乱暴するんじゃねぇ!」

「テメーは黙ってろや」

そう言って、髪を掴んだまま銀時が刀を近藤に向けるから
思わず土方は血の気が引いた。
まさか、彼は自分の前で近藤を殺すつもり――…

「土方、取引だ」

だが土方の思惑とは違う言葉を、銀時は告げた。

「自分の自由を取るか、愛する人の自由を取るか」



「…え…?」

思わず土方は己の髪を掴むその男を見上げた。
だが彼はこちらを見ず、近藤の方を向いたままだ。
このまま彼が刀で一突きでもしてしまえば
狭い牢の中だ。
逃げる場所などなく、そのまま刺されて殺されるだろう。

「坂田、意味が、」

分からない。
そう言葉を続けたいのに、情けない事に歯がガチガチと震えた。
やっと出会えた近藤が
今から殺されるかも知れないという目の前の事実に
足がすくみ、腰が抜けてどうしようもない。

自分がこんなに弱い男だと思わなかった。

「だからね。選べって言ってんだよ。
 土方が自分の自由を選ぶって言うんなら、
 俺はお前を解放してあげる」

そんな土方に対し、銀時は淡々と告げる。

「じゃ、あ。俺が近藤さんの自由を選んだらどうなるんだ」

「…近藤は勿論、言葉通りここから逃がしてあげる。
 お前は別だけど」

そう言って銀時は土方を見下ろして微笑んだ。
彼の笑みにぞくりとしたものが背を駆け抜けるのを土方は感じる。

「別、って」

「お前の大好きな近藤さんは、お前の大好きな仲間の元に帰る。
 で、土方はこのまま俺と一緒に帰るの」

一生、一緒だよ。
銀時はそう言うと、
今度は土方を床にうつ伏せに押さえつけ、その頭を踏みつけた。

「うぐぅ!」

「トシっ」

「近藤の自由を選んだ瞬間から、お前の自由は俺のモン。
 またあの地下室で、いっぱぁい愛してやるよ」

自分の名を呼ぶ近藤の声が遠くから聴こえた。
だが、それよりも土方の体を恐怖が支配する。

また、
あの、
地下室で、
抱いて、
引き裂かれて、
嬲られて
弄られて

おかされて


『土方さん。沖田さんの気持ちを汲みたいのは分かります。
 でも、きっと近藤さんは…
 俺達が世界を敵に回すなんて事、望んでません』

『トシ、総悟。
 俺がもし居なくなったとしても
 絶対に世界を憎むなよ』


「そう、か」


(ああ、これは結果かな。
 近藤さんの言う事守らないで、憎しみに心を支配されて)

(近藤さんの言う事を聴かなかった事が、この人への最大の侮辱だったにな)


「じゃあ、頼む、坂田」


『そうか…。
 銀時は貴様に随分と執着があるようなんだが…
 それについては心当たりがあるか?』

『銀時はなァ、父親に虐待されてたんだよ』

『もし俺がお前の仲間になれる立場の人間だったら、こんな風にはならなかったの?』


(…それに俺が、狂気の塊みてぇなコイツの傍に居る事で少しでもコイツの気持ちが晴れるなら)

(ちょっとぐれぇ罪滅ぼしになるだろ?近藤さん)


「…俺の自由は今から、坂田銀時。お前のモンだ。
 だから近藤勲をこんなくせぇ場所から逃がしてやってくれ」

「トシ、何を馬鹿な事言ってるんだ!
 おい!俺はこのままで良いから、トシは…!」

「うるせぇな。
 テメーらテロリストに、そんな権限ねぇんだよ。
 …全部、銀さんが決める」

『テメーら』。
そんな坂田の言い方に疑問を持った。
だが最期に、もう少し近藤の顔を見ておきたくて土方は顔を上げる。

馬鹿だな。
何泣きそうな顔してんだよ。
アンタ、ちゃんと総悟達と合流して
また隊を纏めなきゃいけねーのによ。

ほら、いつもみてぇに

大丈夫だって











ザク。

そんな音が後頭部からしたのを、土方は聴いた。
途端に頭がなんとなく軽くなったように感じて銀時を見れば、その手には髪の束が握られていて。
それが己の髪の毛だと気付くのに数秒を要した。


「さか、た?」

「俺、数秒後には警報鳴らすから。その前に近藤連れて逃げな」


彼の言う意味が分からない。
そうしている間にも、銀時は近藤の牢の鍵も開けていく。

「オラ。早く出てきやがれ」

「お前、どういうつもりだ…?」

「どういうつもりもねーよ。
 土方はお前の自由を選んで、あの子の自由は俺のモンになった。
 だから、逃がすの」

そんな会話をしながら銀時が近藤の手を引っ張り、
牢から出す瞬間を呆然と土方は只眺めていた。

意味が分からないのだ。
何故、彼がこんな事をするのか。

土方の仲間を殺しに行こうとしたり、
今まで躊躇いも無く暴力をふるった銀時が、何故。



『愛してる』


何故、それは。


『愛してるよ、土方』


(『でもそれは、まるで坂田が
『愛して欲しい』と言っているように聞こえて…』)

土方はいつだかそれを、感じた筈だ。
愛してると言いながら愛される事を望んでいるのではないかと、どこかで。


「俺さ、土方」


呆けている土方の近くへ、いつの間にか銀時は近づいていた。
そして語るように話しながら彼は手錠の鍵も外す。


「愛する気持ちも、愛される気持ちも未だによく分からないんだ」


ガシャン、と音を立てて手錠が床に落ちて。


「でもお前に『お前は可笑しい』って言われてから、少し考えた。
 そんでね、お前に選ばせようと思って…
 お前が近藤を選んだら、土方も逃がそうと、決めて」


そして銀髪を揺らして、彼は項垂れる。
土方はその言葉一つ一つを静かに只、聴いていた。


「愛って、分からないけどでも、お前が、笑ってくれるなら、俺は、良い。


土方が俺を愛してくれなくても、お前がお前の大好きな人達と居てくれたら、それで、良いから」



だからもう良いから、これだけは頂戴、と切ったばかりの土方の髪を見せてくる。
已然として土方は何も言えずにいた。
何を言えば良いか、分からなかったのだ。
すると、早く逃げろよと肩を押される。


「恩に着る、が…俺達を逃がして、お前は咎められないのか…?」

2人の事情を何も知らない近藤だが、何かを察したのか銀時に問う。
するとふ、と笑って見せた。

「なんとかするよ。口は上手いから、俺」

「…分かった。ほら、行くぞトシ」

「あ、ああ…」


近藤に引っ張られるように土方はついていく。
今すぐにでもここから離れ、仲間と再会をしたいのに
もう一つ隠し切れない気持ちが頭をもたげる。

もっと銀時と、話したい、と。

高杉の言っていた通りの幼少時代ならば、
彼は歪んだ愛情表現しか知らないのは当然だ。

(違う。同情なんかしない)

何が愛していて、愛されるというものなのか知らなくて当然だ。

(同情なんかしない。あいつは俺を酷い目に合わせた。そう、酷い目に)

彼の時間は子供の時から止まったまま。

(そうだ。何度も何度も、俺に)


ずっときっと、これからも


(愛してると、言った)



「土方」


彼は最後に手を振って、笑っていた。
泣き出しそうな顔で。


「ばいばい、元気でね」



敵だというのに、その表情を愛しいなどと感じてしまったのは
土方にとって生涯残る不覚であった。


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