ガツンと鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
信じられない状況に動けないで居ると、口内に無理矢理靴先を押し込んでくる。

「んう…ッ」
「全く、最近の人間は躾がなっていないものだな」

言いながら立ち上がると、彼は四つん這いの状態だった土方を突き倒し、舐めさせた靴先で隊服に覆われた股間を軽く踏みつける。

「ゃ、やめてくだ、さ…!」

ビクンと反応しつつも相手が相手なだけに、普段のような強気な態度で出れずに声が裏返る。
そんな土方を笠の下からニヤニヤとした笑みをチラつかせながら言った。

「実は、私のお客人が地球に一ヶ月程滞在するものでね。その間、可愛らしい犬を紹介してくれないかと頼まれたのさ」

「い、ぬ…!?」

未だ続くぐりぐりとした刺激に息を荒げながらも土方は問い返す。すると今まで黙って様子を伺っていた別の天人が近づいてきた。

「ほら、そんなに苛めるのはよしたまえ。折角可愛らしい顔をしてるのに随分と怯えているではないか」

そう言った天人は手が蛸のような触手状になっており、吸盤のついた掌で混乱している土方の頬を撫で上げた。
気持ち悪い感覚にゾワッと鳥肌がたつ。

「おお、ヨシヨシ良い子だね。大丈夫、ボクは君を苛めたりしないよ」

荒い鼻息をかけられ、『離れろ』と言いたいのに喉に言葉が張り付いて出てこない。
どういう事なんだコレは。松平のとっつぁんはこんな状況になる事を知ってて、俺を呼んだのか?
違う。
とっつぁんは絶対に俺達をこんな目に合わせるような真似はしない。
だったら、なんでこんな事になるんだ。

そうこう考えている間に、蛸の天人の触手の先端が土方のベルトを外そうと動いた。

「何、する…!」

あまりの気持ち悪さに思わず腰にさげていた愛刀を掴み、抜刀しそうになる。だが、天導衆の男と目が合い、その行為には至らない。否、至ることは許されなかった。

「…確か、君の部下の中には家族に仕送りしている隊員も居るそうじゃあないか。健気だねぇ。そんな彼らの為にも一肌脱ぐのが役目ではないのかね。
真選組副長、土方十四郎」

つまり、お前が逆らえば真選組はどうなるか分からない、と脅されたようなものだ。
土方から一気に抵抗の力が抜ける。

「では、私はこれから仕事があるのでね、退散しますよ。後はごゆっくり楽しんでいってくれたまえ」

土方が抵抗の意思を喪失したのが分かったのか、嫌な笑みを浮かべて背を向けて部屋の扉へと向かっていく。
その後ろ姿を見送りながら、今すぐ刀を抜いて駆け寄って、天導衆のあの男の体をたたっ斬ってやりたかった。
だが、それは出来ない。盾として取られたのは命を掛けて護りたいと願う真選組。
今朝方会ってきたばかりの近藤や総悟、山崎、他の隊員達の顔が脳裏に浮かんで、目頭に熱いものが込み上げる。

「十四郎君って言うの?可愛い名前だね、ねぇ、ボクの事は旦那様って呼んでくれる?」

だが、そんな土方の心境を知らずに先程からペタペタと触ってくる天人が至近距離で語りかけてくる。
彼は天導衆のあの男と友人というのならば、不躾な態度は取れない。

叫びたい衝動をなんとか抑え、声を低くして土方は答えた。

「…あ、の。失礼とは思いますが、俺は男です。旦那様はお気に召されないと思いますが」

「そんなつれない事言わないでよ、十四郎君。もうね、ボク達、人間の女は飽きたんだ」

気安く名前を呼ぶな。大体、飽きたってコイツら、人間の女を何だと思ってるんだ。
心の中で土方がそう思っていると、突然別の天人が今まで土方に触れていた天人を突き飛ばす。

「くっだらねー会話は良いからよ、とっととおっ始めようぜ」

ソイツは毛むくじゃらのゴリラのような姿をしており、確か猩々星の天人だ、と土方は記憶の中から弾き出す。
だが刹那、首もとのスカーフを解かれて思わず息が詰まった。

「…!?」

「あぁぁ、何するんだよ、ボクが優しく脱がせてあげたかったのにぃぃ」

蛸の天人が『ひどいよひどいよ』と文句を言い始める。それを『うるせぇ』と叱咤する猩々星の天人、という光景を見ながら、自分の身にこれから起きるであろう展開に血の気が引いた。
犬、というから屈辱的な事をされるだけだと思っていた。
屈辱には耐えられる。痛みにでも。
だが、きっとこれから行われるのは、輪姦。

女に飽きたとは、そういう事か――…!!

思わず逃げ腰になる土方の足首を猩々星の天人が捕らえ、己の方に引き寄せた。そして露わになった首筋を大きな手で掴む。

「そう化け物みたような顔すんなよ。楽しんでヤろーぜ?」

「や、め」

小さく悲鳴を上げる土方を無視し、彼は中に着込んでいるベストとシャツを一気に引き裂いた。



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