電話口で銀時は静かに告げた。
勘が正しければ、土方はレイプだけでなく麻薬も服用させられている事になる。
こんな状態が続けば彼が行きつく先はボロボロの未来だ。真選組を護りたい気持ち一つだけで耐えられるものではない。

『分かった。予想よりも早いが手を打とう。…おぬしは依頼人である拙者の素性をどう考えている』

「は?幕府のお偉いさん方と繋がってて、さしずめ副長さん使って麻薬の実験でもしようとしてた…って所じゃねーの?」

『線は良い。だが拙者自身はソレに全く関わりを持たない』

「ちょっ、意味分からないぞ」

『確かにあの部屋で行われているのは実験だ。しかも前に出回った転生郷の改良種。依存性が低くなった代わりに、人体への影響が著しく飛躍する。
内臓や脳が異常を来たすのも早いというワケだ』

「そんなのを、なんでアイツに」

声を張り上げそうになるのを懸命に堪えた。
依頼を受けて初めて部屋で会った時、土方が腕の中で泣き出したのを思い出す。

『真選組が上からも煙たがられているのはご存知か?あの組織の頭脳である土方を潰せば、実質機能しなくなるとお偉い方は考えたようだ』

「つまり乱交パーティーの慰み者に土方君を使って、更に新薬の実験にも利用して、結果的に麻薬のデータ採取プラス真選組の力を大幅に削ぐ、っていうシナリオか」

ぐ、と悔しさで拳を握る。
きっと土方とて、自分が呑まされているものが麻薬だというのに気付いていただろう。それでも真選組の為に拒まず、自由を奪われて幕府の奴らにマワされ続け、体調も崩して…泣きじゃくって。

「…馬鹿だよ、アイツ…」

『そんな馬鹿を救いたいのでござろう、白夜叉』

「ああ、そうだよ。だから何をすれば…」

答えながら、懐かしい呼び名に思考を止まらせる。

白夜叉。

今ではほんの一握りしか知らないかつての異名を、依頼人は確かに口にした。

「テメー、ホントに何者だ?」

『今はまだ言えない』

「…」

『二日後に決行する。土方にはお偉い方にバレないように、荷物をまとめておくように伝えろ』

淡々と言ってくる相手が何者で、目的が何なのかが分からなくなる。

『今から話す事をしっかり頭に…』

「オイ、それに従えばあいつを助けられんだな」

『…無論』

だが、銀時自身の目的はしっかりしていた。
あの歪んだ場所から土方を救い出す。
もうあんな哀しい笑顔をさせない為に。

真選組を護りたいという純粋な彼の気持ちを、汚い何かに押し潰されないようにする為に。


銀時から借りた着流しとウイッグをつけたそのままで、土方は眠っていた。
その穏やかな寝顔を見つめながらベッドに腰掛け、黒髪に触れて軽く撫でる。
すると、気配を感じたのか土方が目を開けた。

「…帰ってきてたのか」

「ん。ごめんね、突然」

優しく言いながら、土方と同じように銀時も横たわる。

「ね、土方君。頼みがあるんだけど二日後までに、荷物まとめといて」

「荷物?」

きょと、と見開かれる瞳。それはそうだろう。この生活が終わるまでにあと10日はあるのだ。

「荷物っても、隊服と刀しかねーけど」

「そっか…あ、でも土方君を犯す変態さん達にはバレないようにしてね」

「…なんで」

「なんでも」

今まで安心しきっていた土方の瞳が途端に不安に揺れる。
銀時が知る土方は確かに感情が高ぶりやすいが、ここまで脆かっただろうかと考えつつも大丈夫、と呟いた。

「絶対に土方君の護りたいものを傷つけさせたりなんかしない。…約束」

小指を差し出すと、初めは抵抗しつつも土方も小指を差し出してくる。大人の男二人が指きりげんまん、なんて光景は可笑しくて、思わず笑みさえ零してしまった。

「万事屋」

変装道具を袋につめて支度を終え、帰ろうとした所を呼び止められる。

「どしたの。銀さん居ないと寂しい?」

「ちげーよ!気味悪い事言うんじゃねぇ!!…じゃなくて、だな。
 その、てめーが居てくれたから、俺」

「うん」

どうやら、先程の境内で言いかけた言葉の続きのようだ。俯き加減で言ってくるものだから土方の表情は見えない。

「……壊れずにいれたと、思う」

「…うん」

「そっそんだけだッ!じゃーな!」

突然恥ずかしくなったのか部屋から追い出されて扉を閉められてしまった。
やっぱり意地を張る土方にクスリと笑いながら、銀時は扉の向こう側の彼に「また二日後ね」と呟いた。


「んッ、離し…」

「おや?思ったよりまだ意識がしっかりしているな」

そして銀時に言われた二日後。いつもなら土方の元には友人を名乗る天人達しか来ないのだが、何故か彼らを招いた天道衆の男も来た。
ローションでネトネトにした土方の雄を握りながら首を傾げ、友人の天人達に問う。

「本当に転生郷を与え続けたのか?」

「しましたよー。でも精神が強いのか中々思い通りにならないつーか…」

「ふん、まあいい。これからまた躾けていけばいいだけさ」

下卑た笑みを浮かべながら彼は土方の両脚を広げる。また耐えなければと土方がぎゅうと瞼を閉じた刹那。

「どーもォ、万事屋でーす」

芯を奮わせる声が、した。


明らかに銀時の声。部屋の入り口の方から…聴き間違える筈がない。だが、何故彼の声がするのかが分からない。

「んんうっ」

土方が混乱している間につぷっと彼の秘部に天導衆の男が己の欲望を埋め込みながら友人の天人に言う。

「なんだ、今のは」
「分かりません。様子を見てきます」
「ああ…。だが可笑しいな…外部の人間は入れないようにしてある筈なんだが…」

まあ良い、と呟いて土方の腰を持ち上げる。途端にきゅうっと無意識に括約筋が男の雄を締め付ける。意思とは無関係に、体は貪欲に性を求めるようになっていた。
そんな土方の体にローションを惜しみなくかけ、ぬるぬるにさせた後にピストンを開始させた。

「ひぁ、ぁあッ、あ…」
「私は随分と君を見くびっていたよ。そろそろ連日の屈辱と転生郷とで精神が崩壊している頃だと思って、いたんだが、な!」
「くぁっ、あ、や!」

容赦なくガンガンと男は突き上げてくる。シーツを掴んで衝撃に土方が耐えているとぬるついた細長い指が彼自身を捉えた。

「こうなったらもっと屈辱的な事を強いなければなァ…」
「…?」
「友人の中に君に甘い者が居たようだからね。どうだろう。今まではトイレでしていた小便を、明日からは私の友人達の前でするとか」

本物の雄の戌のように四つん這いで片足上げて、と楽しそうに呟く。
あまりの侮辱的な言動に土方はカアッと全身が熱くなる。

「…随分反抗的な目をするじゃないか、土方?」
「…して、ません」
「忘れたのか?貴様の宝物は私が握ってるとな…!」

男は土方の髪を掴むと力任せに枕に押し付ける。同時に反り返った彼の首にぬるりと舌を這わせた。

「哀しいね、貴様がどんなに誇り高き魂で護ろうとしても、体は穢れていく一方ではないか!」

悔しさで土方の目尻には涙がたまる。だが決して屈してなるものかと心が叫ぶ。
『軽蔑しないよ』
そうだ、俺は。そう言ってくれるアイツが居る限り。

俺は。

「変態オジサーン。いい加減その子から離れてくれる?」

求めていた声が近くに聞こえて。
声の方に土方が視線を向ければ木刀を携えた銀時が居た。

「万事屋…!」
「なんだ貴様!何処から入ってきた!?」
「勿論、入り口からですよー?アンタのお友達とSPサン達ぶっ倒して来たケド」

そう言って近づいてくる銀時は、土方が見た事のないような冷たい笑みを浮かべていた。

「ひ、土方、貴様が呼んだのか!?こんな事をして真選組がタダで済むと…!」
「タダで済まねーのはテメーですよ」
「ぎゃああ」

焦った男が土方の顔面に拳を振上げるのを銀時が止め、そのまま腕を捻ったのだ。


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