自分の上で繰り広げられる光景に土方は固まって二人を見守ってしまう。その間にも痛みに堪えながら天導衆の男は銀時に弱々しく言った。

「銀髪の馬鹿強い侍…まさか煉獄関を潰した…がはっ」
「だーれが馬鹿だよ、誰が」

言い終える前に手刀をを彼の首に落とし、銀時は男を気絶させる。その体を引きずって土方の体内から性器をぬぽっと抜いてやった。

「う…ッ」
「土方君、遅くなってごめん。本当はヤられる前に助けたかったんだけど…」
「てめーどういうつもりだ!?こんな事しでかしたら真選組が…ッ」
「大丈夫。約束しただろ」

混乱極める土方の顔に微笑んで、銀時はパシュッと催眠ガスをかける。途端に土方の体から力が抜けて寄りかかってきた。

「おめーの大切なモンは傷つけさせねー。…そーだろ、テロリスト」
「ああ、拙者は嘘はつかない。テロリストという言い方は少し反感を覚えるが」

そう言ってベッドルームに入ってきたのはサングラスをかけ、黒いロングコートを羽織った長身の男。背中には到底武器には使えない三味線を背負う。

「しかし、まあ随分と派手にやってくれたでござるな」
「あぁ?全部ぶっ倒してけって言ったのはそっちだろーが」
「(…さすがは晋助と桂小太郎の幼馴染…)」

ローション塗れの土方の体に着流しを着させると、銀時は隊服と刀が置いてあるソファへ向かうと小さなメモに『隊服、刀、プール脇に金魚』と律儀に書いてある。
ふざけた気持ちですくってやった金魚。それもしっかり持って帰る荷物の中に入っている事になんとなく銀時は感慨を覚えた。

「さて、じゃあ俺と土方君はこれで退散すっけど、一つ訊いて良い?」

銀時に土方の世話を頼んだ依頼人――黒ずくめのテロリストは新薬の証拠品を押収したりと着々と準備を進めていた。そんな彼に銀時は部屋を出る間際に問う。

「もし俺が『別に救いたくない』って言ってたら、この子どーなってたの?」
「…切り上げずに当初の計画通りの期限まで、輪姦と麻薬漬けだ。当然壊れた廃人と化していたでござろう」
「ふーん…でもおめーらにとってはコイツが壊れてくれた方が真選組の機能も低下して、攘夷もしやすくなったんじゃねーの?」
「そうでござるが…我らが攘夷は『国を救いたい』という意志の下。おぬしが彼を救いたいならば、拙者はそれを止める術はない」

彼の言葉には何も返さず銀時は部屋を後にした。恐らく麻薬の証拠品を十分に集めた後、あの天導衆の男と友人の天人達の命を彼は奪うのだろう。だがそれに口を挟む事は出来ない。
銀時と土方がこの新薬の実験に関わっていた事を闇に葬るのと引き換え条件だからだ。

結局、俺は闇だ。
眠る土方を抱えて歩きながら、銀時は一人呟いた。


ようは今回の事は仲間割れだ。天導衆の一人が改良した転生郷を横流しし、それを面白く思わない春雨の者達が攘夷志士のテロに見せかけて、彼を暗殺。
通りであのサングラスをかけた男は銀時に部屋のカードキーを渡せたり、天導衆の男が土方の様子を見に来るタイミングを知れたワケだ。

―彼は、銀時を白夜叉と知っていた。恐らく高杉と繋がっている者―…そんな事をぼんやりと考えながら銀時はかぶき町のホテルで攘夷志士のテロ、同時に麻薬が大量に発見されたニュースを見ていた。

もしあの時『救いたい』と言っていなければ、恐らく廃人と化した土方が今頃救出されていたのだろう。こんな銀時の膝の上で、安らかな寝息を立ててはいなかった。

「土方君、起きて」
「ぁ…ん…?」

そろそろ屯所へ帰した方が良いと思った銀時はペチンと軽く土方の頬を叩くと、意識をぼうっとさせながら彼が目を覚ます。

「万事屋…?」
「ん?」
「…悪ィな、てめーも祭り、楽しみにしてたみてぇなのに…」

寝ぼけているのか、土方が意味不明な事を言う。まだ自分が体調を悪くなってしまったのを気にしているようだ。

「良いよ。また来年も行けばいいし。ほらそろそろ土方君ちに帰ろ。神楽ももうすぐ帰ってきちまうし」

ゆるゆると瞼を開ければそこは万事屋の応接間だ。あのホテルだと思っていた土方は驚きに目を見開く。

「え…何、どうなって」
「土方君に悪さしてた奴らの悪行がバレてね、今世間は大騒ぎだよ。」

混乱する土方に今の状況を説明する。だが勿論、攘夷志士と自分の繋がりについては一切触れず彼が麻薬の実験台にされた事も世間には公表されてない、と伝えた。
すると土方は安堵の笑みを零す。どうやら真選組を護りきれた事にホッとしたようだ。

「タクシー呼んだし、今の内に沖田君達に言い訳する理由でも考えといた方が良いんじゃない?」

シャワーを浴びて隊服に着替えた土方にそう告げながら、名残り惜しさを感じる。
彼との歪な生活も今日でお仕舞い。また明日からは可笑しなケンカ相手だ。
そうだ。この生活が変だったんだ。
大体、闇に染まる自分が純粋を貫く彼と一緒に居た事が間違ってる。

だから名残り惜しさなんて感じるんだ。

そんな銀時を、そうだな…と言いつつ土方が見つめてくるものだから思わずドキリとしてしまう。

「…万事屋、俺、変だ」
「変って、何が」

「俺…今、てめーの事ばっか考えてる…」

…俺はかつては白夜叉で、今は万事屋で。
君は真選組の副長で。
たったそれだけの事で引き合わされた数日間が、君へ対する俺の気持ちを変えた。

「じゃあ、俺も変だよ。今だけは土方君の事しか、考えたくない」

神楽には引き続き志村家に居て貰って、呼んだタクシーの運転手さんにはごめんなさいして、屯所に帰る時間はもう少し遅くして。

ねぇ、君にとんでもない俺の闇を気持ち良さと一緒に、見せてあげる。
俺に捕らえられた可哀想なあの金魚みたいに


EnD.

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