それは突然の呼び出しだった。
松平いわく、これは名誉な事であり、真選組の評価にも繋がるから慎んだ態度を心がけろ、との事。
しかし一ヶ月間も隊を離れる為、近藤の事が気がかりな土方だったが(実質、サボり癖がある総悟も心配だったが『一ヶ月だけとは言わずにそのままこの世から跡形もなく消えてくだせェ』とか言ってきたから無視する事にした)、だからと言って上からの命令を断るわけにもいかない。
呼ばれる内容は謎だったが、そのまま来いとの命だったため、愛用の刀だけを手にして屯所を後にしたのである。
「よく来てくれたな、副長殿」
てっきり登城するのかと思いきや、黒服の男達に連れてこられた場所はかぶき町に位置する一般人では中々泊まれない上等のホテル。格式高い、とは言われているものの金持ちの人々が愛人と泊まる、などにうってつけのような場所で。
「…真選組副長、土方十四郎、参上致しました。…用件とは、一体?」
最上階に位置する部屋に連れてこられ、だだっ広い部屋に高そうな椅子が置かれ、そこには見覚えのある人物達が座っていた。
笠を被っている為に顔はわからないが、その姿は正しく天導衆の面々だ。
幕府を良いように操り、実質的な実権を握っている彼らが、何故こんな所で、自分を呼び出したのだろう。
「まぁそう急ぐ事はない。…近くに寄りなさい」
意味が分からなかったが逆らう事も出来ないので、土方は真ん中に座る天人に近づく。
彼の目の前に到着した途端、背後にいた黒服の男が土方の頭を抑えるとそのまま伏せる格好にさせて床に押さえつけた。
「痛…ッてめ、何しやがる!?」
思わず男に怒りをぶつける土方の口元に、彼を呼んだ天人は靴先を当てた。嫌な予感がして土方は顔を上げる。
「分かるだろう、舐めなさい」
「な、にを…」
恐らくはこの状況からして、この四つん這いに近い屈辱的な体勢のまま靴を舐めろ、という事なのだろう。だが意味が分かっていても、そんなのを行動に移せるわけがなく。
「言葉と態度には気をつけた方が良いと言われなかったかね?全ては真選組の評価に繋がるのだよ、土方」