さも当たり前の事のように言い
『仕事に戻りまさァ』と言って部屋から出て行く。
その後ろ姿を見つめながら土方はしばし考えた。
「何、一人でシてんのかよ、アイツ…」
置いてかれたエロ本を部屋の隅に投げ捨て、元の位置に土方は寝転がる。
考えていることは誰がこんな挿げ替え本を作ったかと言うより事も、
総悟が土方の知らない所で自慰してる、という事実だった。
土方と総悟は密かに付き合い始めていた。
色々お互いにムカつく事も譲れない事も多々あるが、
それでも好きだという総悟の気持ちに
土方が素直に応じ、晴れて恋人同士になったのだ。
それに伴って特別変わった事と言えば
やはり恋人同士にしか出来ない行為。
キスまでは許せたが、その先にはどうも進めない。
『二人でしか出来ない事しましょうよ、土方さん』
やけに扇情的にそう言って、迫られた夜を今でも覚えている。
彼のその申し出を猛烈に拒否ってから
総悟は部屋に夜に来なくなった。
普段はドSの王子のクセに変な所で脆いガラスハートの持ち主。
「…仕方ねェな…」
チッと舌打ちすると、土方は人生最大の決心をする。
女を抱いた事は何度かあるが、さすがに男は経験ナシ。
だが総悟の為にもヤってやるかと今夜決行するのを決めた。
「総悟君。この後俺の部屋に来たまえ」
「はィ?」
夜も更け、今日の報告会議が終わり、
隊員が散ったのを見計らって土方は
こっそり総悟に言った。
『いいな、誰にもバレないようにして来るんだぞ』
と付け加えると返事も聞かずにダッシュで部屋に戻る。
そして急いで布団を敷いて整え、
部屋にゴミが落ちていない事を確認し、
そこでハタと気付いた。
「やっべ、ゴムねぇよ…」
「…土方さん、何してんでィ」
「うわぉう!?」
シチュエーション作りに夢中になっている所に声をかけられ、
土方は驚きで体をビクつかせた。
障子の間から総悟が覗いている。
「ててててめぇえ驚かすんじゃねーよ!つか来るの早っ!」
「だってこの後、って言ったのアンタでしょう」
「…まーいいや、入ってここ座れ」
布団の中央に座らせ、
しばしの沈黙の後に深呼吸をし、
俯きながら土方は告げた。
「そ、総悟…その、今から、しよう。」
「何をでさァ?プロレスごっこ?」
「違ぇよ!その、だから、二人でしか出来ない事」
「…マジでか」
キスをして押し倒そうとした瞬間、
何故か逆に土方が布団に縫いとめられる。
アレ?と見上げるととても嬉しそうな総悟と目が合った。
「優しくしてあげますぜィ、土方さん!」