ねぇ、気づいて。
ねぇ、触れて。
俺の気持ちに。
「何を、って…」
嬌声を聞かれていた事などすっかり吹っ飛び、
真っ赤になりながら反論する土方。
それに対してムッとした顔をし、山崎は彼の股間を撫で上げた。
「ひァん!」
「ずっと考えてました…
副長に、こういう事するのを…」
「や、ぃや、」
そして人差し指でスルスルとズボンの上から擦ると、先程放ったばかりの土方自身は反応し再び芯を持ってキツそうに膨らんでいく。
「可愛い声…いつも俺には恐いのに、そんな声も出せるんですね…」
「は、ぁあ、よせぇ、山崎ィ…ッ」
「よしてもいいですよ?
でも、副長も知っている通り俺、オッチョコチョイですから…
口が滑って鬼の副長がトイレでオナニーしてたとか言っちゃうかも…」
「…!!」
思わずボロッと土方の目尻から涙が零れた。
そんな事をされて…近藤の耳に入ったらお仕舞いだ。
年頃の男だから、きっと他のクラスメイトらは『仕方ない』と笑って済ますだろうが、どうしてもあの幼馴染には知られたくなかった。
彼だって、『しょうがないヤツだなぁ、トシは』ときっと笑い飛ばしてくれるのだろうけど。
「なんでだ、山崎…」
「えぇ?」
「なんで、こんな事…ッ」
「・・・なんで、ですって?」
羞恥に耐えられず、泣き顔を隠す為に土方は腕で顔を隠して問う。
そんな彼の腕を剥ぎ取り、山崎は土方の顔を両手で包んで自分の方へ向かせる。
「分からないなら、分からせてあげます」
普段はキツめの猫目が驚きで見開かれ、涙が頬を伝っていく。
そんな土方の顔をみただけで山崎は歓喜に叫びたくなる。
いつも土方の視界に入ってドジを踏んだりボケたりする事でしか
構えて貰えなかったというのに、
憧れの彼の弱みを握り、こうして泣かせている。
この状況全てに、酔いしれた。
「やぁ、ああっ」
泣く土方の唇にキスをすると、乱暴に襟元のホックを外して首筋に吸いついた。
同時に下半身への刺激も忘れず
五本の指をバラバラに動かして山崎は揉みこんでいく。
「可愛い、可愛いですよ副長…」
「やだ、いやァ!」
耳元で囁かれる声と吐息にビクビクと足を土方は震わせる。
悔しいが、総悟に開発されたこの身体は何処までも快感に弱い事を土方自身がよく知っていた。
しかし、”総悟”という単語を思い出し、ビクリと我にかえる。
鎖骨や首筋にはないが、胸や脇腹やへその周りには総悟がつけたキスマークがまだいくつか残っているのを思い出したのだ。
それを見られるのは後々総悟にバレるとマズい気がして、懸命に土方は山崎の肩を押し返そうとする。
だが、弛緩した腕の力では全く意味の無い事だ。
「えー?ふくちょ、
もしかしてコレで抵抗してるつもりなんですか?」
「・・・あっ、あ!」
いつも見せる間抜けな表情からは
想像も出来ない程の歪んだ笑顔を見せながら、僅かな土方の抵抗などものともせずに、きゅう、と自身を摘む。
「や、あ、ぁあー…ッ」
「ほんっと、おっかしいですよね?
いっつも俺に怒鳴ったりしてる副長が…」
「やっ、やァ」
更に土方の学ランの前をくつろげた山崎は、シャツの上から彼の胸の突起を探り当てると自身と同じように親指と人差し指で挟み、優しく捻った。
「んん…う」
「こんな全身ビクビクさせて、
女の子みたいな声出して、しかも学校で・・・」
ベルトに伸ばされる手。
それを止める事が出来ない。
恐怖に駆られた子どものように、ただいやいやと首を振る事しかままならない。
「ダメですよー、こんなエッチぃミルク出したら…」
下着の隙間から、先程射精したばかりの自身が取り出される。
プルンとして再び外気にさらされたそれは嬉しそうに反応し始め、
トロトロと先走りの液を零し始めた。
「ひぁあああッ!!」
「わぁ、副長のちん…あれ?何ですか、コレ」
ヒクヒクとその光景に泣き崩れそうになりながら、それよりもマズイものを見られてしまった。
「あっ、見る、な、」
秘部へと繋がるコードと、それのスイッチをテープで止めてある内股を。
「やまざきィ、頼む、うぅ…、」
絶望の淵に追いやられながらも、
もうやめてくれというように土方は山崎の髪を引っ張る。
だが、彼の懇願など聞かずに山崎は弱くコードを引っ張った。
「あァう!!」
引っ張られた内部のローターが前立腺を擦り、たまらずに土方は叫ぶ。
彼の顔とコードの先を見ながら、
”うそ、マジですか?”という顔をしながら山崎は言った。
「え、ナカにもしかしてローターとか入ってたりするんスか?」
「ち、ちがう」
言い訳しても意味の無い事は分かっているのに否定する。
それを見越して山崎は切ってあるローターの電源のスイッチを一気に大まで上げた。
「は、ンッ!!」
あまりの快感に、土方は息を呑む。
まるで珍しいものをみるかのようなまたはその様を観察するような目つきでマジマジと見つめられた。
「やだ、ぃやだぁああ…ッ!!」
「へぇえ、話には聞いてましたけど
前立腺ってそんなに感じるんですねぇ…」
強い快感と山崎の言葉に、土方の意識は朦朧としていた。
信じられなかった。こんな痴態をクラスメイトに見せてしまうなんて。
「やぅ、あぁぁあ…ッ」
「ね、副長。どれくらい気持ちイイんですか?
俺にも教えてくださいよ」
プルプルと震える性器をやわやわと握り、先端のを皮を剥きながら問う山崎の顔を土方は見る事が出来なかった。
自分を攻める時の総悟の顔と、今の山崎、一体どちらの方が恐ろしいのだろうか。
「…もぉー、じゃ、お尻上げてください。確かめます」
「や、めて」
「ふくちょ、イイ子だからお尻あげてください。
俺に抱きついていいですから」
「あああ!!」
優しく握られていた自身をキュッと強く掴まれ、舌を突き出しながら思わず土方は山崎の肩に抱きついてしまう。
それを利用して少しだけ山崎は彼の背中に腕を回して抱き上げると、邪魔だったズボンと下着を足首の方までずりおろした。
「いやっ、やァ!」
露わにされた臀部に土方は声を上げる。
真っ赤になってブルブルと震える彼に更に山崎は追い討ちをかけた。
「ふふ、イイ子ですね、副長…ちゃんと脱げましたよ…」
「やめて、やだ、山、崎!!」
言い、つぷ、とローターを呑み込む秘部に指の先を差し入れたのだ。
肉の壁を広げられる感触に土方は身体を強張らせる。
「やなんですかァ?
その割にはすごい俺の指、キュウキュウ締めて来るんですけど」
「ふ、ァ…」
確かに、差し込まれた異物へ嫌悪する意志に反して、秘部は玩具だけでなく指すら食いつこうとするのが分かる。
こんな身体を”淫乱副長様”と総悟に罵られたのをふと思い出した。
「ァ、んんんッ!!」
「すご、こんな強い振動なんですか、よく耐えられますねェ…」
もう山崎の声は聞こえない、土方の意識の外だ。彼は別の事を考えていた。
総悟は今自分がこんな事態に陥っているのを気づいているのだろうか。
彼の意識と土方の性感はシンクロしている。
そういう”絆”の契約を交わしたから。
明らかに他者から与えられている愛撫に、もし総悟が気づいたとしたら…
「副長…」
背後からの熱っぽい声に、ハッと意識をこちらへ戻す。
いつの間にか便器の座る場所に手をついて、後ろに立つ山崎に尻を突き出す格好にされていた。
「俺、すみません。我慢出来ないです…」
ぐにぐにとナカに侵入してくる感覚に血の気が引いた。
入ってくるのは指ではない。
この太さは…
「ゃ、ぁああ…」
山崎の。
…あれ?可笑しいな。
土方さん、帰ってくるの遅すぎじゃねェ?
「だァー!また負けた!」
“土方さんの様子がちょいと可笑しいから、様子見てきてくれねェかィ?
多分、あの幽霊トイレにいると思うんだけどねェ”と、追い討ちで山崎にトイレ行かせたけど、それで何かトラブったんかねェ。
…でも、やっぱり可笑しい。
土方さん、さっきイったその後からずっと気持ちよくなってる。
…なんで?
「ちょ、もう一回!もう一回やろう総悟!」
「…ハイハイ、でもどうせ近藤さんまた負けますよ…って」
「いたァ!ちょ、総悟君痛いよ!」
昼食も終わり、土方が帰ってくるまでの暇つぶしに腕相撲を近藤とやり始めた総悟。
だが、先程から感じる土方の異変に意識は別のところへ行っていた。
「もォー顔に似合わず力強ェよなぁ、総悟はよー」
思いっきり机に叩きつけられ、
赤くなった手の甲を眺めながら近藤が言う。
そうですかィ?と返しながらふと気づく。
山崎が秘かな恋心を土方に寄せていたのは知っていた。
だが土方の心は近藤寄りだし、
何より彼の身体は総悟が掌握している。
故に、土方が山崎になびく事は考えにくい。
そう思っていた。
でも、もし山崎の理性の枷が外れたとしたら。
「チッ…」
「あれ、どうした総悟」
「近藤さん、土方さんの事探しに行きましょうぜィ。
いくらなんでも遅すぎでさァ」
ぴちゃん
緩く締められた手洗い場の水道の栓を抜けて、水が滴り落ちた音。
だが、そんな事は個室にいる2人には関係のないもので。
「あ、ぁ、ぁあああ…!」
「は、ふくちょ、きもちィ…」
「いぁ、あぁあ!やだ、やだ!!!」
ぬちぬちと侵入してくる山崎のモノは一気に芯を固くして膨張する。
更に深くに入るローターと肉棒に与えられる快感に、狂ったように土方は叫んだ。
「いや、いやァ!!ろ、た、抜いて、抜けェ…!!」
「どうして抜けなんて言うんですか?こんなに気持ちイのに…」
「あああああう!!」
ピストンを開始した山崎は同時に前にも手を伸ばして
土方の敏感になっている性器を強く掴んだ。
あまりの気持ちよさに背中がしなり、自然と腰が動く。
「…あれェ?嫌なのに腰振ってません?副長…」
「やァ、あ、ん!あ、ぁっ」
「ふふ、かわいすぎですよ…前こんなに濡らして…」
「ひゃぁん!」
まるで牛の搾乳のように自身を扱いてくる山崎の手に嫌悪を感じながらも、
漏れてしまうのは善がり声。
「あ、あう、あぁ」
ボタボタと零れ落ちる涙。
もう土方の理性は弾けて吹っ飛び、総悟にバレてしまう事などどうでも良くなってしまった。
『土方さん、俺の正体、アンタだけに教えてやりまさァ』
知らない。知らない。勝手にしろ。
もう今は気持ち良さしか欲しくない。
もっと頂戴、快感も恥辱も痛みも全て。
「え、え、副長?」
「ん、はん、やまざきぃ、もっと、強く擦ってぇ、ぁっ」
前を弄っていた山崎の手の上に己の手を重ねて土方は自身を扱き始めた。
今まで抵抗していた相手が突然従順になり、山崎が驚いたような声を出す。
「擦ってって…こう?」
「あぁ!やぅ、もうダメだ、イく、イッちゃうぅう」
「はは…犯されてイくなんて、どれだけ感じやすいんですか」
山崎は腰の動きを止めて竿の部分を擦っていた手を、今度はドロドロの先端に指の腹を当ててこねくり回す。
すると狂ったように土方は鳴いた。
「やああ!、出る、やまざき、出ちゃう、んン!!」
「イイですよ…副長のミルク、いっぱい便器にぶち撒けてください」
「やっ、も、ァ、あー…ッ」
ぶるっと大きく身体を震わせた後、間もなくびゅるると土方は射精した。
先程抜いたばかりだったせいか量が少ない。
「は、はー、はぅ…」
「…まだ立てますか?」
肩で呼吸をする彼の口に精液のついた己の指を銜えさせながら、
山崎はズルリと自身を引き抜いて
トイレのドアに土方の背を押さえつけた。
「ふぁ…やまざ、き」
「副長の感じてる顔が見たいんですよ。
すぐに終わりますから」
山崎の指をしきりなしに舐める土方の顔を安心させるように撫で、
片足を持ち上げて言った。
すると虚ろな瞳で土方が強請ってくる。
「なァ、頂戴、俺のナカをお前でいっぱいにしてくれ…」
言い、山崎の首に腕を伸ばす。
総悟とそんなに変わらない背丈なのに彼より少しだけ逞しい肩幅。
低い声。
何より、総悟のように焦らすのではなく欲しいものをくれる。
ああ、頭が真っ白だ。
「はいよっ、…後悔しないでくださいよ…っと」
「あ…ッ」
突き上げられる感覚に、全身がビリビリするのを感じた。
未だに蠢くローターと侵入してくる性器にナカをかき回され、本当に狂ってしまいそうだった。
土方は思わず山崎の頭を掻き抱く。
「や、あっ、…ぁう」
「はっ、ふくちょ、副長ぉ…!」
ぐちゅぐちゅと厭らしい音に聴覚さえも犯される。思考など働かない。
「あ、受け止めてくださ、俺の気持ち…」
「んぁ、ああ、きもちぃ…あぁっ…!!」
山崎が何か呟くように言ったが、
朦朧としている意識の土方には届かなかった。
頭を胸に抱きこんだまま大きく震えると、ビクビクと今日で3度目の射精をした。
「くぅ…!」
「や、熱い、やまざきのあついのが、ひぁああん!!」
程なくして、同じく絶頂を迎えた山崎は中で果て、その熱さにも敏感に反応して声を上げる。
「くぁ、ぁ、う」
ズルリと秘部から自身が抜かれ、
緊張が解けたのかドアに背を預けながら土方は座り込んだ。
放たれたばかりの精液は内股を伝ってトイレの床にポタポタと落ちる。
「はン…」
「はぁ、はぁ、副長…」
手は無意識にトイレットペーパーへと伸びる土方。
そんな彼の未だ上気する頬や震える肩、唾液で濡れる唇に欲情したのか調子に乗った山崎は自分の性器を土方の前にぶら下げる。
「え…?」
「ねェ、舐めてくれませんか、俺の…」
頬を性器でペチペチと叩かれ、虚ろな目をしながら山崎を見上げる。
すると、そこで土方を襲ったのは
総悟に初めて抱かれた時のフラッシュバック。
『土方さん。
信じられないかもしれやせんが、俺ァサディスティック星の王子なんでさァ』
「あ…!」
「…副長?どうしたんですか?」
『素質のある男をマゾヒズムに犯しつくさせ、快感に屈服させるのが俺に与えられた目的でねェ』
「副長?」
『さ、顔をあげてくだせェ、土方さん。
アンタの髪も顔も身体もナカも全部、俺まみれな淫乱にしてヤりますぜィ』
忘れないでくだせェ。
俺達の間に、愛はないコト。
「そ…ご…」
「・・・・え?」
突然恐怖に駆られたかのように頭を抱え、震えて呟く土方。
そのかすかな声に山崎は心当たりがあった。
そうご?
沖田総悟の事だろうか?
彼がどうしたのだろうか?
そう問おうとした時だった。
思わず山崎も土方も動きが止まる。
「えぇーちょ、この先は幽霊トイレしかないよ!?
ホントにトシ、ここにいんの!?」
明らかに聞き覚えのある声が近づいてくる。
特に土方が聞き間違えるはずのない近藤の声。
しかも足音は二つ。
勿論、もう一人は彼であろう。
「だって、近くのトイレにいなかったんですぜィ?
ならもうここしかないでしょう」
「近藤さん…と、総悟…?」
彼らはこの場にくるのは明確で時間の問題。
近藤はともかく、総悟は土方がここにいる事をすぐに当てるだろう。
総悟に見つかる恐怖に泣きそうな土方を見ながら、どうしたものかと考える山崎。
ふとこのトイレの窓は渡り廊下の屋根があり、外に出れる事を思い出した。
そこを伝っていけば確かその先は化学準備室。
逃げるとしたらもうそこしかない。
急いで山崎はトイレットペーパーを一束掴み、ドアの鍵を開けながら震える土方の衣類を整えさせると腕を引っ張って立ち上がらせる。
「や、なに」
「逃げます。少しの間でも立てますか」
「あ、ああ。多分…」
そうは言ったものの、3度も連続でイって貫かれた身体を支える足は
ガタガタでそう歩けそうになかった。
「いーやーだー!やっぱりやめよう総悟!
こんな不気味な所にトシ居ないって!アイツ恐がりだもん!絶対一人で来ないってこんなトイレ!」
「近藤さーん、いい加減にしてくだせェ…」
どうやら、廊下で近藤が駄々をこねて総悟の足止めをしてくれているようだ。
逃げるなら最後のチャンス。
男一人分は通れる窓の前まで山崎は土方をなんとか連れて行くと、
外へ出るように促した。
「や、まざき。無理だ、ろ、ローターがぁ…」
足を上げて登ろうとするも、
入ったままのローターに刺激されて弱りきった身体には相当酷なようだ。
だが、山崎は懸命に彼を支えて外へ出そうとする。
「見つかってもいいんですか。…沖田君に」
「…ッ!」
この状態を総悟に見つかったら。
それを想像するだけで身の毛がよだつ。
きっといつもより恐ろしい”お仕置き”と称した性行為が待ってる。
…でも。と土方は振り返って山崎を見つめた。
「…副長?早くしないと」
「悪ィな、山崎。…お前だけ逃げな」
「え、だって」
信じられない、と言うような表情で『嫌です』と首を振る。
何故、彼が『委員長と沖田君』ではなく『沖田君』と限定して
『見つかってもいいか』と訊いたのかは分からない。
しかし、今はとりあえず山崎だけ逃がしてしまえば総悟にはいくらでも言い訳が出来る。
「頼むからいけよ」
「…なんでそんな事言うんですか。俺、貴方の事犯したんですよ」
確かにそうだ。
だが快感に負けたとは言っても途中から山崎に身体を開き、求めてしまったのも事実。
何より、恐ろしい総悟の火の粉を
山崎にまで浴びせるわけにはいかなかった。
恐らく総悟は土方と近藤以外の人間には惨酷な程冷酷だから。
「俺まで居なくなったら後で色々厄介なんだよ。
逆にお前が居ると総悟が…その、何するか分かんな…」
「恐くないです。だから、俺を庇うような事言わないでください」
「てめ、山崎…!」
「だって俺、副長が!」
土方は山崎の瞳が、潤むのを見た。
「土方さんが、好きなんです…」
この世界の人間の好きって感情がよく分からない。
(俺の世界の場合、SかMでパートナーを決めるから)
多分、土方さんは近藤さんが大好きだし
(それが恋愛感情かは知らない)
山崎は土方さんの事が、大好き。
(アイツの場合は、多分恋愛感情)
サディズムな行為を相手に与える事に好きという感情や想いは必要ないと思っていたけれど、
正直今はよく分からない。
誰かに愛された事も、愛した事もないから。
「近藤さーん、ホラもう置いて行きますぜィ」
「嫌だ!こんな場所に置いて行かれるのは嫌だー!!」
ワガママを言う近藤に溜め息をつきながら、数メートル先に位置する男子トイレにチラリと総悟は目を向けた。
予想が正しければ、土方は山崎に攻められている筈だ。
今頃、自分と近藤の接近に慌てふためているんだろう。
嗚呼、早く土方さんの焦ってる顔が見てェなァ、とうずく感情を無表情の顔の下に隠しつつ近藤を引っ張る。
「もし土方さんがあまりにも体調悪くて倒れてたらどうするんでさァ。近藤さん的にはそっちの方が嫌でしょう?」
「トシがトイレで倒れてる!?
確かにそんな風紀副委員長トシは嫌だ!!」
今まで怯えていた近藤は突然元気になり、ダッシュでトイレへと駆け込む。
あーあ、先に入りたかったのにと思いつつもスタスタとついていく。
「!?うわぁあああ!!」
「どーしやした近藤さん」
エロい土方でもいましたかィと続けそうになりながら
総悟もトイレに入る。
「いない!トシいないじゃないか、総悟の馬鹿ぁああ!!」
「…え?そんな筈は…」
予想外の展開に驚きつつも奥へと足を踏み込む。
しかし個室の扉は全て開け放されており、誰も居る気配はなかった。
「はい、もうトシいないし帰ろう総悟!幽霊トイレに長居はするもんじゃありません!」
「嘘でさァ。なんで…」
一刻も立ち去りたい近藤を尻目に、ふと個室の中の床に白いシミを見つけた。
僅かに残る性の匂いから、先程で誰かがここにいた事は想像出来るが。
十中八九、土方はここに居た。
恐らく様子を見に行かせた山崎も。
それなのにどうしてもぬけの殻。
ふと風を感じて顔を見ると、窓が開いている。
背の高い土方でも通れそうな大きさ。
「まさか…」
窓に駆け寄り、総悟は外へ顔を出す。
下は渡り廊下の屋根があり、出ようと思えばここから脱出出来る。
土方がこんな事は思いつかないだろうから、誘うとしたら山崎。
「…そーいう事ですかィ」
もしも俺の予想通りだったら2人とも許さない。
酷い目に合わせてやるから覚悟しろィ。
近藤に聞こえないように総悟は小さく舌打ちをした。
全てが狂い、麻痺していたと言っても可笑しくはないと思う。
山崎を巻き込みたくはない
という気持ちは本当だったのに、俺はコイツの気持ちを利用した。
「すき、好きです、副長ぉ…」
総悟からの逃げ道を与えて、『恐くない、好きだから』というコイツの気持ちを。
俺は。
「ぁ、や、くぁ…」
容赦なく腰を進めてくる山崎の動きに耐え切れず、言葉にもならない声を出して何かに縋りつこうと土方は切なげに手を伸ばす。
その手を掴んで10本の指をそれぞれ絡め床へと山崎は押さえつけた。
「すっごい締め付け…これ2回目ですよ?分かってます?」
「んうっ、やぁ、もっと左ッ!」
「はいはいっと…」
「あぁああ!!」
あまりの気持ちよさにぎゅうっと土方が手を握り返すとそれを見て愛しげに山崎は微笑み、もう一度『好きです』と呟いた。
ぐちゅぐちゅという音が響き渡るのは、薬品のにおいが独特の化学準備室。
本来はこの場所は厳重に施錠されているものなのだが、どこか抜けている銀魂高校では幽霊トイレから渡って来れる場所に位置する窓の鍵は壊れっぱなしだ。
「ダメだ、またイっちまう、んんん…ッ」
「止めませんから、存分にイって、くださ、いっ」
総悟に入れられ、朝から土方を苦しめていたローターは先程放った山崎の精液がついたまま、床に転がされている。
「あっ、おれ、俺もイ、きます…!」
「はぁ、ぁ、あぁ…ッ」
「う…っ」
鍛えられ、引き締まった土方の身体はビクビクッと大きく痙攣して射精する。
しかしもう殆ど色は薄く、勢いもない。
また、程よく自身を締め付けられた山崎もその後すぐに熱い物を土方のナカに吐精した。
「はう、びゅるびゅる、して、る…」
「あー…またナカに、出しちゃった…」
あまり反省の色はなさそうな様子で言う山崎に『上等だコラ』と普段のように拳を振上げようとしたが、依然彼に手を押さえ込まれたままだという事に気づいた。
同時に、もう戻れない所まで来てしまった事を土方は思い知らされる。
「副長、」
絡めていた指を離し、隣にゴロンと横たわりながら山崎は言った。
「後悔、してますか」
「・・・」
突如、疲れ果てたのか猛烈な眠気が襲ってくる。
山崎の言葉を朧気な意識で訊きながら、そろそろ昼休みが終わるのではないかと心配が巡る。
早くこの身体を拭いて制服を着て戻らないと…
きっと近藤さんは、心配して待って…
「俺はしてませんけど…ってアレ?副長?
寝てる?寝てます?もしかして。
俺、今すごくカッコいい事言ったんスけど…
ふくちょぉー…もしもーし…」
------------
俺たちの間に愛はない。
じゃあ、この関係は一体何だって言うんだろう?
「近藤さーん」
「何だ、総悟」
「アイ、って何でしょうねェ」
「ぶふっ」
絶対に行きたくない幽霊トイレへ捜索しに行ったにも関わらず、
結局土方を見つける事は出来なかった。
散々な思いをして教室へ戻ってきて、落ち着いて烏龍茶を飲んでいた所へ突拍子な質問を総悟がしてくるものだから、発作的に近藤は噴出してしまった。
「うわ、汚ェ」
「な、何を突然言いだすんだよお前は」
「えー?だって近藤さんは恋泥棒なんでしょう?
だから、それなりに知ってんのかと思って訊いただけでさァ」
言い、プイと総悟はいじけたように顔を逸らした。
噴出した茶を拭きながら、『ああ』と何かを察したように近藤はにんまりと笑う。
「なーんだ、総悟!もしかして好きな娘でもできたかァ!」
嬉しそうに近藤は総悟の肩を小突く。
すると総悟は『はィ?』というように近藤をきょとんと見つめた。
「好き…?」
「あ、でもお妙さんはダメだぞぅ!いくら総悟でも許さん!」
「なんでそこで、誰かが好き、とかいう話になるんでィ?」
「だってお前、愛について考え出したんだろう?
誰かが気になってる証拠さ」
一人納得したように腕を組んでウンウンと頷く。
それを見ながら、絶対にそれは在りえない、と総悟は考える。
…だって、そうしたら俺は土方さんが好きという事になってしまう。
近藤さんが気になってる土方さんのように。
そして、土方さんが大好きな山崎のように。
ああ、何でだろう。
それを考えるとすごくイライラする。
「で、一体何処の誰を総悟は気にして…」
「委員長ぉ〜」
そこまで近藤が言いかけた所で、今総悟が一番聞きたくない声が耳に入る。
睨むように顔を上げて見れば、思った通り山崎だ。
「ん、どした山崎」
「あの、実は副長が体調悪いらしくて…保健室行きました」
一応報告しておこうと思って、とチラリとこちらへ
視線を向けてきた山崎と目が合う。
瞬間、何かを勝ち誇ったように
彼の瞳が弧を描くのを総悟は見逃さなかった。
バレないようにギリッと唇を噛む。
…コイツ、やっぱり俺のに手ェ出したな…。
「えぇ!?何、やっぱりトシってば腹の調子悪かったの!?」
「いいえ、”具合”は良かったですよォ。
只、なんか調子が悪いみたいで…」
「オイ」
刹那、ガンッと机を総悟が蹴る。
近藤はビクリとして『え、総悟?』と驚いたが、山崎は怖じしもせずにこちらを向いてきた。
「何ですか?」
「お前、あの人に”なにを”したんでィ?」
「なにも?
ただ副長が苦しそうだったんで、助けてあげただけです」
明らかに挑戦的な山崎の言葉と態度。
彼の言動の裏には『お前に土方は渡さない』というのが
総悟にはハッキリ取れた。