すらりと常備している刀を鞘から抜く。
面倒くせぇ、万斉も近々真選組に
一波乱起こすだとか言ってやがったし、
ここで副長を殺しても何の問題も…


「あっ、高杉氏ぃ刀なんて持ってちゃダメでござるよ。
 廃刀令、及び銃刀法違反で逮捕しちゃうゾ!でござる〜」



<君は誰.2>




土方が何故かウインクして、指で銃を撃つ仕草をしてくる。
すごく脱力感のようなモノに襲われた。
なんだコイツは。異様に疲れる。


「なーんて、冗談だよ〜。
 レプリカでござろう?逮捕なんてしないから安心してね」

「いや、本物…」

「またまたぁ〜そこまでなりきらなくても平気でござる!
 僕は君の事はちゃんと高杉氏と呼んであげるよ!」


どうやら相手は俺を
「高杉晋助」のコスプレ野郎だと勘違いしているようだ。
うんうん、と彼は同情するように俺の肩を叩くと
再び同人誌、と呼んでいた薄い本を読み始める。


「おい、そんな薄い本読んでて楽しいのかい」


俺の角度から、やけにキラキラした2つ結びをしている少女が
変な煙管をふかした女と話しているシーンが見える。
俺は活字しか読まないから詳しくはないが、
恐らく漫画、というやつなのだろう。

確かずっと小さな頃、銀時が読んでた。
じゃんぷとかいうふざけた雑誌。
松陽先生の書いた本の間に挟んで
塾にまで持ってきていたから、
ヅラが叱ってて・・・


「楽しいでござるよ。
 あっ、さては高杉氏も読みたいのでござるか〜」


土方の言葉に、
過去へ馳せていた意識をこちらへと戻した。


「そんなワケないだろ。
 人生の何の役にも立ちそうにねェし」

「高杉氏ィ。それは勘違いでござる」

そう言った土方が
ゴソゴソと袋をまた探る。
そして出てきたのは少女の形を模した人形だ。


「例えばこのトモエちゃんのフィギュア。
 僕達以外の人達から見たら何の価値もないでござろう」

「待てや。『僕達』って勝手に俺も入れてんじゃねーよ」

「こんなのに5000円もかけて、だとか
 気持ち悪い、だとか
 僕達以外の人はそう思うんでござろう」

「・・・」


なんだか俺の話を聞きそうにないので黙る事にした。
すると、少しだけ寂しそうに彼は言う。


「どんなにくだらないと言われようが、
 どんなに周りがなんて言おうが、
 今の僕にはトモエちゃん達が支えで、生きる理由」


そう言って土方が大事そうに人形をしまう。
なんだか可笑しな気分だ。
万斉の話では、真選組は近藤が居るから成り立っている。
そんな彼を護る剣である副長と一番隊隊長が居て
それを支える隊士達が居て
真選組が成り立っているのだと。

鬼兵隊とは正反対でござるな、とも言われた。

なぁ土方。
お前の生きる理由は
何時の間に真選組から、トモエちゃんになったんだい。


「高杉氏にだってござろう?
 どんなに周りに何を言われようが、心の支えとなるもの」

「…ねーよ、そんなモン」

「嘘でござる〜ないと人間、明日に希望が持てないでござる〜」

「・・・ッ!」


ふざけた事を、ふざけた言い方でぬかしてくる
土方が無性に腹が立った。
俺は相手の髪を乱暴に掴んで吠える。

「いたっいたたた!
 痛いでござる、高杉氏ぃいいい」

「言いたい事を勝手に言ってくれるじゃねーか。幕府の犬が。
 こっちは生きる支えなんざ、奪われた時から
 もう必要としてねーんだよ」

next