目が覚めた時、俺はもう既に兵器だった。
名前はなく俺には何もなく、只兵器だとー…白夜叉だと告げられた。
日の光は浴びれない。だから活動出来るのは夜だけ。
そして、『お前と同じ顔を持つ男を殺せ』と言われた。そうすれば、お前はお前になれると言われた。
迎えに行くまでに殺さなければ、お前を殺すと言われた。
時間がない。
だからといって、俺の頭に残ってるのは微かな記憶だけ。
しかも記憶は一日しか持たないみたいで、次の日には持ち越せない。
その記憶の中で、忘れないたった一人大切な誰かが居た。
ソイツの為に俺は生きるんだ。いつか会えるんだ。会いに行く、きっと。
その為に俺は、俺と同じ顔を持つ男を殺しに行く。
時間がない。
迎えなんて、いつ来るかも分からないのに。
なのに目の前の黒服の男は『目的は何だ』と訊いてくる。
俺にだって分からない。でも生きる為に生きているのは確か。
でもさっきから息苦しい。日の光を浴びすぎたせいだろうか。
ダメだ。時間がない。見つけなきゃ。殺さなきゃ。
死にたくないから。
(死にたくないよ)
『貴方を壊したい』
相手の冷たい赤の瞳が、苦しそうに歪められた事に土方は気付く。
そういえば、先程よりも何処か息を荒げているようにも見える。兵器といえども、体力に限界があるのか…?そう考えながらも土方は再び問う。
「お前が、目的もなくこんな殺戮をしているようには見えねーからだ」
「へぇ?お兄さん、俺の何を知ってるっていうんだよ」
「…知ってるワケじゃねぇ。ただ、お前が前に『俺に必要なのは、アイツだけだから』って言ってたから…こんな事するのは必要なソイツの為なんじゃねーのか?」
「・・・!」
土方がそう言った途端、怯えたように『彼』は目を見開く。
そして持っていた脇差と銃を地に落とすと、掌でその顔を覆い始めたのだ。
明らかに動揺を見せる相手に土方は密かに手錠をジャケットの下で用意する。
こんなモノで彼を拘束出来るかは分からないが、生かして捕らえる事が出来るのならばそうしたい。
「い、や、俺、死にたくない、死にたくない、い、やぁ」
「あ、オイ待て!」
だが、そう呟いたかと思えば、白の着物を翻して突如逃げ出したのだ。
まさか逃走すると考えていなかった為、急いで土方は動ける隊員を連れてパトカーに乗り込む。
「お前ら、そのガキ共を頼む。俺達はアイツを追う!」
「は、はい、副長、お気をつけて…」
「待ってトッシー、私達も連れてってヨ!」
「・・・お前らをこれ以上、危険な目に合わせらんねーんだよ」
理解しろ、と土方はごねる神楽の頭を軽く叩くと、彼女達を隊士に任せてパトカーで『彼』を追う。
本当は総悟達の到着を待つべきなのだろうが、そんな事をしてしまえばまた逃がしてしまうかも知れない。
それだけは避けなければならなかった。
(万事屋…お前、今何処に居るんだよ…?)
逸る気持ちを抑えながら、土方は何処に居るか分からない銀時を想った。
「はぁっ、はぁっ、苦し、苦しい」
路地裏に入り込むと、壁に手をついて胸を押さえた。心臓が煮られているかのように熱い。
日の光を浴びすぎたせいだろうか。それとも、あの黒服の男に図星をつかれたせいだろうか…?
それにしても、あの男を何処かで見た覚えがある。その時も、確か彼に刀を向けて…
『なんで俺の事を殺さない…?情けでもかけたつもりかよ!』
「アイツ…ひじかた、くん…?」
「オイオイ、随分と息が上がってんじゃねーか。発情期ですか、コノヤロー」
自分と同じ声が話しかけてくる。
肩で呼吸をしつつ反射的に顔を上げた。まるで本能のようなものだった。
そこには自分と同じ顔、同じ姿の男が立っていた。唯一瞳の色が―相手は白銀なのだ―違うだけ。
殺すべき彼が、そこに悠々と立っていた。
「は、ははっ、見つけ、たぁ…ッ」
笑いが自然と零れた。呼吸をする度に喉が焼け切れそうだったが気にしなかった。
一度しか見た事がない自分の顔。夜は暗くて鏡も川の水面も当てにならない。
だが覚えていた。何よりあの銀髪。忘れる筈がなかった。
(居た!見つけた!殺せ、殺せ!アイツを殺して俺は俺になって、会いに行くんだ!)
「あ、れ…?」
しかし体内にしまってある武器が、意志に応じて出てこない。思わず震える自分の掌を見つめた。
可笑しい。確かに脇差と銃は先程逃げる時に置いてきてしまったが、後は刀やクナイやらがまだ残っている筈だ。
「あー…なんか俺じゃねーとはいえ、銀さんと同じ姿の奴が苦しそうだと居た堪れねーなぁ、オイ」
言いながら、腰に木刀だけ携えた相手がボリボリと頭を掻いて悠長にしている。
こちらは苦しみ、尚且つ殺意すら向けているというのにその態度が許せない。
だが、その一方力がどんどん体から抜けていくのだ。立っていられず、膝すらついてしまう。
「クソ、なんで…なんでだ!」
「…お前、アイツらに何の説明も受けてねーの?」
「はぁ?説明?日の光を浴びるなってやつか?そんなの…」
どうやら向こうもこちらの存在を認知しているようだ。
相手の言う『アイツら』とは自分を白夜叉と名付け、兵器に仕立て上げた連中の事だろう。
息を切らせながら応えると、ふ、と笑われた。
「そ。お前の体には俺の遺伝子に夜兎族の遺伝子が組み込まれてるから、その敏感肌ゆえ日の光を浴びれないし」
コツ。相手の靴音が近づく。
「機械機動兵器・紅桜を応用した装置も組み込まれてる」
動けなかった。殺したいのに殺せない焦燥感が、掌に汗を握らせる。
「紅桜は只でさえ宿主の体力を奪う代物――…それに加えて、夜兎が嫌う日の光を浴びすぎたんだ。
そりゃあ体にも限界が来るよなぁ」
コツ。動けない身体の前で、男の足が止まる。そしてしゃがみ込んできた。銀の瞳が近くなる。
「俺の姿で色々派手に暴れてくれたらしいじゃねーか。
今まで密かに行動してきたくせに、ここに来てこんな騒ぎ起こしたのはどうして…」
「ころ、してやる…!」
無防備な首目掛け、殆ど力の入らない手をのばして締め付ける。
しかし相手は抵抗も焦りも見せず、無表情でこちらを見つめてくるから余計に殺意が湧いた。
「死ね、死ね…死ねよ!お前が死ねば、俺は俺になれる!俺はあの人に会いに行ける!」
「…お前がお前に?名前もねーくせに?」
『誰か傍に居るだろ。ソイツらにはなんて呼ばれてたんだよ』
前に誰かに問われた言葉を思い出す。
「な、まえは」
「大体、誰に会いに行くつもり?」
ぐらり。
絶え間ない責め苦に二の句が告げなくなる。意識さえ霞んできた。
会いに行く。
アレは誰なのだろう。昔一緒だった高杉でも、ヅラでも、辰馬でもない。
だったら遠い記憶の向こう側で、微笑んでくれてる人は誰なんだろう。
振り向いて優しい笑顔をくれる、あの人は。
「…教えてやるよ。お前は白夜叉。
亡霊で、過去で、護りたいモンも護れねぇ…もう一人の、俺」
あの人は
「お前が会いたい人って言うのは、松陽先生だろ?」
「いや、いやだ」
あの人は
「助けて、ひじかたくん…」
会いたい人はもう、この世界の何処にもいなかった。
*
「良かったんですか?逃がして」
嫌見たらしい声が訊いてくる。しかし銀時は応えず、『助けて』と言って逃げ出した己の分身を見送った。
追いかけなくとも『彼』の命がもう少しで消える事を、なんとなく察したからだ。
「俺が止めを刺さなくたって…アイツが死ぬって、もう知ってんだろ、アンタ」
「いえ、存じません。主人からは貴方を送るように、としか言われておりませんので」
よくもまぁ、白々しく言ってくれるものだ――…そう思いつつも、浮かんだ疑問を銀時は相手にぶつける。
「アイツ、何で俺の記憶を持ってたワケ?」
「正確に言えば、彼の記憶はあなた自身の記憶ではありません。
貴方が幼少時代に過ごしたであろう記憶を我々が映像化し、彼にそれを記憶として刷り込みしただけです」
つまりは、捏造した映像を『彼』にとっては大切な遠い記憶と信じ込ませたのだろう。
(用意周到なのも良い所だ…まさか、本当に松陽先生の事まで知ってるなんて…)
そこで、林流山が成功させようとしていた、人格データを移し代えるプロジェクトを思い出す。
あの計画は、娘の芙蓉の為に人の人格データを機械に移そうとしたもの。
…もし、『彼』に施した刷り込みが、それを応用させたものだとしたら?
「夜兎族、紅桜…それに芙蓉プロジェクト…。
あんた等幕府は、鬼兵隊以外に後はどんな組織を抱きこんでるわけ?」
「さあ?私には何の事だかさっぱりですが」
恐らく、白夜叉と言えば坂田銀時は動揺する、と彼に吹き込んだのは高杉か、その配下の万斉だろう。
彼らは宇宙海賊春雨と繋がりがあるし、天導衆ともその線が伸びたとしても可笑しくはない。
「もーいいよ、帰って」
天導衆の一人の使いだと言う天人は、結局喰えない男だ。
彼と一刻も早く分かれ、大切な者達の所へ戻りたい銀時はペぺっと追い払うように手を振る。
「後は何事も無かったかのように、万事屋銀ちゃんすれば良いんだろ?」
「はい。くれぐれも貴方様の身体の秘密は漏らしませんように。
そうすれば、約束通り貴方様の大切な者達の命は保障致します」
「・・・本当だな?」
銀時はその瞳を細めて、相手に問いかける。
「あの話も…真選組を自然消滅させる為に、その要である土方君を春雨が造った改良種の転生郷でヤク漬けにする話も…無くしてくれるんだよな?」
「勿論です。真選組の副長さんも、必ずお護り致しましょう」
ぐ、と拳を握る。
そしてまだその感覚が残っている事に、何処か安心した。
兵器になれば殆どの感覚が徐々に失われていくと告げられたからだ。
(…良かったんだよな?これで。俺が兵器になれば、俺の感覚と引き換えに皆を護れる)
「それでは、どうぞこれからは貴方様がこの国をお守りください」
(護れる。ヤク漬けにされる未来から、土方君を)
「我らが兵器、白夜叉」
(ねぇ、土方君。俺の選んだ運命、間違ってないよね…?)
*
喉が焼ける。胸が痛い。心臓が口から出そう。足がついてこない。
「はぁ、はぁ、ひじかたく、土方君」
助けて、助けて、助けて。
頭の中はそれだけだった。
もう俺と同じ顔を持ったアイツへの殺意も、会いに行きたい気持ちも全部消えた。
『亡霊で、過去で、護りたいモンも護れねぇ…もう一人の、俺』
俺は終わる。俺は死ぬ。
分からないけど、俺はアイツの踏み台にされた事だけはよく分かった。
アイツの存在の為に、俺は生み出されたんだ。
「ひぐ、く、うぅ…!」
もう日は傾き、夜がやってくる。それでも日の光を浴びすぎたせいか、肌がジリジリと焦がされるように痛い。
うずくまって呻き、両腕で俺は体を抱き締めた。
そして、助けを求めたい土方君を思った。
俺が会いたかった人―アイツは松陽先生と言っていたが―は、もうこの世にはいない、俺の記憶ではなくアイツの記憶の中の人物。
でも、土方君は違う。俺が出会った、俺だけの人。消えていく記憶の波に呑まれなかった人。
『テメェ、何が目的だ!?何の為にこんな、人を傷つけてる…!』
俺の存在を、訊いてくれた人。
「ひじかた、く…」
会いたいんだ。兵器として勝手に生み出されて、勝手に死んでいくちっぽけな俺だけど…最期に壊れる時は、あの人の腕の中がいいな。
*
「くそ、完全に見失っちまった…!」
かぶき町を騒然とさせた銀時そっくりの彼は、パトカーで追ったにも関わらず行方をくらました。
応援要請を頼んだ他のパトカーからも捕縛した、発見した、という連絡は入らず土方は焦りで苛立つ。
(犯人が万事屋じゃないとしても…アイツと同じ姿をしてたんじゃ、また面倒な事になる…。
せめて真選組で捕まえる事が出来れば、庇う手立てを考えられるのに…)
「副長、居ましたッ」
先程、『彼』に負わされた怪我を応急処置してもらった掌。それをぎゅう、と土方が握りながら考えていたが、隊士の一人の声にハッと我に返る。
その指差された方向には、確かに追っていた『彼』が倒れていた。
どくり、と土方の心臓が嫌な音を立てる。あの倒れているのが銀時ではないとはいえ、同じ姿をしているのだ。嫌な気分を覚えつつもパトカーを止めさせ、全車両に通達するように命じる。
「あれ…どうなってるんですかね。まさか自殺…?」
「分からねぇ。ただ用心は怠るな」
バズーカも効かない。体からは謎めいた触手や武器を取り出す。おまけによく知る銀時と瓜二つの姿。
隊士が怯えるのも無理はないだろう。
土方は率先して『彼』に近づき、様子を伺おうとした瞬間。
「・・・じっか…た」
うつ伏せに倒れていたのを顔だけ上げ、掠れた声を出して『彼』がこちらを見る。
場に緊張が一気に走った。…土方を除いて。
「副長ッ、危険です。下がってくださ…」
「いや、お前らだけ下がれ」
「副長!?」
確実に、途切れ途切れにだが『彼』は土方の名を呼んだ。
深紅の瞳は攻撃していた時のように睨んでこないし、むしろこちらに縋るような視線さえ送ってくる。
この瞬間を、土方は近い過去に見た。
死んでいく身体と、死んでいく目を。
『立て、伊東。決着つけようじゃねーか』
そう。伊東の最期の瞬間も、こんな風だった。
「おい、お前…俺が分かるのか」
コイツは万事屋じゃない。死んでいくコイツは万事屋じゃ、ない。
震える声で問いかけながら土方は、何度も自分に言い聞かせた。
「…わかん、ない。でも」
そんな弱弱しい声を上げるな。アイツの声で。アイツの顔で。
そんな見たこともないような弱弱しい表情をするな。
「君は…ひじかたくん、なんでしょ…」
「・・・」
消え入りそうになりながらも訊いて来る相手の横に、土方はそっと膝をつく。
すると『彼』は嬉しそうにふわりと笑んだ。それが余計に土方を複雑な気持ちにさせる。
「お前、結局何なんだ。白夜叉だとか、兵器だとか…じゃあ何を壊す為の兵器だ」
「…壊すものなんか、何もない。俺は壊れる為だけに生まれてきたようなモンだった…」
「な…んだよ、ソレ…!」
カアッとしたものが内から込み上げる。今にも意識を失いそうな相手の胸倉を土方は思い切り掴んだ。
「言え、テメェはなんで人を傷つけた?なんで暴れた?時間がないとか、俺の事知らなさそうにしてるくせに知ってたりとか…!それに…ッ」
(なんで丸っきり、万事屋と同じ姿なんだよ…!?)
「…なんで、俺に縋ろうとしてる」
込み上げる感情と、思わず口から出そうになる問いを抑えて冷静になって訊く。
すると息を切らせながらも『彼』は応えた。
「人を傷つけたのも、暴れたのも…そうすればアイツが騒ぎを聞きつけて、出てくると思ったから…時間がないから、早くアイツを殺さなきゃいけなくて…」
「アイツ…?」
「でも、それも初めから何も意味がなかった…初めから俺に意味なんてなかったんだ」
相手が何を言っているかがさっぱりだった。そんな混乱する土方の頬に手を添えてくる。
「土方君に壊れる前に会いたかったのは…俺に触れてくれたのが、君だけだったから…」
さら。
刹那、頬に触れていた手がまるで砂のように零れ落ちる。驚愕に土方はその目を見開いた。
「ねぇ土方君。もし俺が兵器じゃなかったら、ちゃんと意味があったら…俺は、俺はね」
そこまで言いかけて彼の全身は一瞬にして砂と化し、崩れ落ちた。呆然とする一同の前で『彼』の着ていた衣服と、刀やクナイなどが地へと落ちる。
「嘘…だ、ろ?」
震える手で土方は砂の山に触れる。
確かに先程まで人間の形をしていた。触れられて確かに温かかった。
なのに。
彼の存在は脆い砂になって…消えた。
「土方さん。大丈夫ですかィ」
「…総悟…」
世界はもう夜の帳をとっくに迎えていた。
かぶき町は全面閉鎖され、辺りは状況確認をする真選組の隊士達が動き回っている。
容疑者が砂となってしまうというとんでもない事態だが、壊された建物もごく一部。怪我人も多数だが重傷者、死亡者が居ない事が唯一の救いだ。
「なんとかな。ちょっと疲れただけだ」
総悟にしては珍しく飲み物なんて渡してくるから、土方は余計に調子が狂いつつも答える。
その隣に座りながら総悟は口を開いた。
「…チャイナがやられたらしいですねェ。おまけに、犯人は旦那そっくりだったとか」
嫌な話題だが、避けては通れない。缶コーヒーを開けて気を紛らわす。
「で、その張本人は砂になっちまうたァ…どうなってんですかねェ」
土方はそこまで聞いてふと、総悟は彼なりに自分に気遣ってるのだと知る。
普段の総悟だったら『何やってんですかィアンタ』とか嫌味の一つでも言ってくるというのに。
心配するな。近藤さんの事だけ考えろ。
そう言ったから、遠回しに…心配してくれてる。
『もっと周りに頼りゃあ良いじゃん』
なぁ万事屋…お前が言ってた事、そういう事、なのかな。
総悟は副長の座を狙いつつも、何だかんだで土方が定めた局中法度に従い、破った者には粛清をしている。
そうだ。背負っているのは俺だけじゃ、ねーんだよな。
「総悟。もう本人がもういない今…正体が分からねーが。犯人は只殺戮をしていたワケじゃなく、何か目的があるみてぇだった」
自分の中だけに秘めて置こうとしていた、『彼』から聞いた事実。
一人で考えても仕方ない事でも総悟に話せば、何か糸口が見つかるかも知れない。
「目的?なんでさァそりゃあ」
「誰かを探していた、らしい。しかも、あの言いぶりからして…誰かに命じられていた可能性もある」
『初めから何も意味がなかった』
砂になる寸前、『彼』はそう言った。
今まで意味があると信じていた事が、なくなった事を知ったのだろう。
ならば…あの見失った間に何者かに接触し、それを告げられた?
「つまり、今回の事件は犯人の単独行動じゃなく、裏で糸引いてた黒幕がいるかも知れねぇって事ですかィ?」
「あくまで可能性、の話だけどな。」
ぐい、とコーヒーを飲み干す。そうであって欲しい、という願望が土方の中で何処かにあった。人を傷つけ、街を壊した事は許される行為ではない。
それでも伊東と重なる最期の姿、なにより体内から武器を取り出したりと人外的な行為は普通の人間個人では為しえない。
例えば、天人が絡んだりしていたりしなければ…。
「土方さん、じゃあその線で俺は調べてみやす。アンタは今日はもう屯所に戻りな」
「え、何言って」
「いいから。そんな怪我人にウロウロされても困るんでさァ」
総悟の言葉にム、としつつも実は土方は満身創痍であった。
彼の優しくない言葉の優しさに甘えて、今日は戻るか…そこまで考えて銀時に会わなければ、と心の隅で使命感のようなものが生まれる。
もし、銀時に兄弟の類が居たらまた微妙に状況は変わるのだ。
(そういや…万事屋の家族って…どうなってんだ?)
「副長!万事屋の旦那が…」
「よぉ」
刹那、今しがた考えていた銀時が山崎に連れられてやって来た。
一般市民を勝手に入れるな、と叱るべき所だがそれを土方は忘れた。
先程生まれた使命感も消えた。
訊かなければならない事が沢山あった筈なのだが、それは全て消えた。
「よろず、や」
「ん?」
震える声で呼ぶと小首を傾げ、銀髪を揺らして応えてくれる。
たったそれだけの事が土方には嬉しかった。非現実な世界から現実に帰ってきたような気持ちにすらなった。
「え、ちょっと土方君!?」
山崎の前だというのに我も忘れて土方は現れたばかりの銀時の手を掴み、路地裏へと連れて行く。