忘れたい事ほど、結構鮮明に覚えているもので。
護れなかった人の顔とか、言われた言葉とか、斬った肉の感触とか。
それは君とて例外じゃなかった。


『貴方を壊したい』


「殺した?俺、を?」
「ええ、そうです」
「うぁ…っ」

信じられず、問い返す土方に天人は笑った表情を変えぬまま言葉を紡いだ。

「貴方はねぇ、坂田銀時に救出されたものの薬に侵された身体が禁断症状に悲鳴を上げましてね。それはそれは悲惨だったらしいですよ?喉を掻き毟り、幻覚に怯え、真選組の隊士達も判別がつかなくなり、暴力を振るって」
「そ、んな、本当に前世があるとして…それでも俺なら、あいつ等の事が分からないなんて、絶対ぇない…!」
「あるんですよ。それを見ていられなくて、坂田銀時は貴方を殺したんですから。ねぇ白夜叉?」

突如天人は話す相手を変えて銀時に声をかける。するとビクッと肩を震わせ、怯えた表情をして銀髪を揺らした彼が顔を上げた。

「大好きな大好きな副長殿が壊れて、護りたいと言っていた真選組を傷つけるのを見ていられなかったんですよねぇ?」
「や、めろ…それ以上言うな…」

銀時は両手で頭を抱え、いやいやと首を横に振る。それこそそんな彼を見ていられず、土方は制止の言葉を叫ぼうとするも遮るように天人の指が口に突っ込まれる。

「護れなかった罪悪感に負けて、直視出来ず、現実から逃げたいが為に土方十四郎を殺したんでしょう?」
「ち、がう。俺は、土方君を助け、たくて」
「はは!綺麗事にしようとしてるんじゃありませんよ、人殺しが!」

天人の台詞に、一気に銀時の体からガクン、と力が抜けるのを土方は見た。

(この野郎…!)

何故天人が前世の事を把握出来たのかは分からない。だが銀時が罵倒されるのが許せず、口に入れられた指に思い切り噛み付いてやった。
その直後頬に痛みが走る。

「うっ!」
「…全く、こっちの淫乱にも躾が必要のようだな…」

土方の頬を殴った手をプラプラと振ると、天人は言いながら後孔の入り口に指先で触れる。思わず逃げ腰になるもすぐに引き寄せられてしまった。

「やめろ!俺に触るな!」
「くく、触るなだと?お前の事も調べがついてるんですよ?夜な夜な屯所を抜け出して複数の者と交わり、挙句の果てにその相手が男だとね!」
「あぁっ、あ!」

全く潤っていない体内に、容赦なく指が2本突き入れられる。乾いた痛さに土方は叫び声を上げた。先日天人達に抱かれたとはいえ、こんな事は慣れるものではない。

「う、ぁ…ぬ、抜け、よぉ…ッ」
「ああ、そうだ白夜叉。私の亡命が無事に出来たら、毎晩お前の眼前でこの淫乱を犯してやるよ」
「…ふざけ、んな」

力なく銀時は答える。が、そんな彼に向かって覇者の嘲笑を浮かべながら天人は言った。

「薬漬けにしてこの男を汚い性玩具みたいにグチャグチャにしてやろう。そして最期に残ったボロボロの副長殿に止めをさすのはお前の役目だ、白夜叉」
「やだ、やめろ」
「最高だろう?前世のような運命から土方を抜け出させる為に兵器になったというのに、結局はコイツが天人に犯され、ヤク漬けにされ、最後にお前が殺す未来は変わらない!」

そう高らかに叫び、更に天人は高笑いする。

(俺は…運命を、変えにきたのに…)

それを見ながら土方は自分が今、どうしようもない立ち位置にいる事に気付く。
むしろ助けに来た筈なのに油断し、こうして捕らえられ、銀時の弱みにさえなってしまっている。
ギリ、と悔しさに奥歯を噛みつつ、そこでこの天人は何故そこまで銀時を追い込もうとするのかが気になった。

まるで白夜叉を、憎んでいるような。


「おや、申し訳ありませんね副長殿?暇を持て余させてしまって…」
「あうっ」

銀時の様子に満足したのか天人は再び土方の方へと視線を戻し、差し込んでいた指の出し入れをし始める。痛みの中に交じる快感を身体が拾い始めている事に気付き、息を切らせながら土方は耐える。

「というわけで、残念ですが貴方はこれから死ぬまで我々と一緒に居て頂くので、覚悟なさって下さいね」
「あっ、ぁ…なん、で、こんな、事…っ!?」

銀時が天人の命令に逆らえないのならば、土方を使って彼を精神的に追い詰める必要などないのだ。何が、天人にそうさせるのか――…

「何故こんな事を?そういえば先程も、私の目的を訊いてましたね。簡単です。
 白夜叉に対しての復讐ですよ」

今まで激しい口調で言葉を振り翳していた天人が、やけに感情を抑えて呟くように言う。
銀時が驚いたように目を見開くのが視界の端に見えた。

「武州にいたといえど、貴方も攘夷戦争がどういったものだったかご存知ですよね?」
「日本人と…天人との、戦争」
「そうです。私の父もその戦争に参加していて、そこの汚らわしい地球人に殺された」

命からがらに逃げ帰ってきた父親の友人が言うには、その男の事をこう言った。
銀の髪と白の装束、返り血を浴びたその姿と驚異的な強さは正しく夜叉のようであった、と。
それを聴いて土方はやはりそうなのか、と思い知らされる。
坂田銀時は、攘夷志士であった白夜叉―…

「父が死んでからね、私の生活は随分と変わりましたよ。それはもう惨めな方へ!
 野蛮な地球人如きに殺されたとあっては恥だとね!」
「んむっ!」

そう言いながら天人は土方の体内から指を引き抜くと、今度は己自身を取り出して咥内に無理に突き入れてきた。あまりの雄くささに思わず土方は顔を背けたが、髪を掴まれて逃れられなくなる。

「だから私は這い上がる決意をした!犯罪シンジゲートである宇宙海賊春雨に入り、いつか地球へもその末端を伸ばす時に私もそこへ行き、白夜叉に復讐出来る機会が作れるように!
そして私の技術力が認められ、春雨と繋がりのある天導衆の下に仕える事が決まり、更に白夜叉である坂田銀時への接触を命じられた時の私の幸福感と言ったら!」

彼は、銀時…白夜叉に復讐する為にあらゆる手立てを行ったと言う。
採取した銀時の髪の毛から複製を大量に作り出し、春雨に手を貸した鬼兵隊の機械兵器・紅桜の応用し、夜兎の血を使って戦闘能力の向上を図り、更には感情を消す為に人格データの移植など、ありとあらゆる事を。

「くく、複製の体を実験として弄くり回すのは楽しかったが、やはり本人を追い詰めるのが良いな。まぁ一番完成に近いのが散々町で暴れた挙句、砂になったのは傑作だったが」

乱暴に口淫させられ、吐き気を催しながらも土方は必死に考えた。
この天人は恐らく銀時が死ぬまで彼を苦しませるのを止めない。
それ程の憎しみと狂気だ。
ならばはやり、ここで天人を抑えるしかない。
この手錠さえ外せれば逆転の可能性はまだ残されているのだ。

(じゃあ隙を作るしか…銀時の目の前だし本当はやりたくねぇ、けど…っ)

「さてそろそろ入れてやるか…見ていろ、白夜叉。お前の土方を弄んでやる…!」

ズルッと土方の咥内から天人の性器は出て行き、同時に足を大きく開かされる。
そこで、ぐっと土方は決意を固めた。

(なっ、為せば成る…萌えろ、俺のコスモ!)

「やめ、ろ!土方君に触るな…」
「だ、旦那様、ぁ。はっ早く、いやらしい俺のお尻の中に入れてください…!」

銀時の声を遮り、土方は天人に強請る声を出す。そして早く挿入を促すように己の両脚を相手の腰に絡めた。銀時は勿論唖然とした表情をしていたし、対して天人はそんな土方を嘲笑して見下す。

「クク、土方。今更従順なフリをしても遅いぞ」
「ち、違います、俺、触られるとスイッチが入っちゃうんで、す、だから、早く、ぅ」

レロリと舌を出し、発情したように息を荒くして見せる。
本当は銀時を苦しめる天人にこんな痴態を晒すのは死ぬほど嫌だったが、効果があったのか相手がゴクリと唾を呑むのを確認した。

「は、淫乱は淫乱でも、とんでもない雌狗のようだなァ」

そう呟くと、天人は思い切り土方の体内に怒張した雄自身を突き入れてくる。予想以上の太さに土方は思わず呼吸を止めた。が、必死にその先を考える。

「んんっ、く」

生き物は、食事をしている時と性行為をしている時に隙が多く出来るという。特に性行為中は理性を失っている。だったらなんとかソレを利用して手錠を外させるしかない。

「あっ、ああ、は、ぁ」
「はぁ、はぁ、見てみろ白夜叉…!お前の大切な土方が犯されてるぞ?結局貴様は、誰も護れないんだよ!」

激しく体を揺さぶられ、揺れる視界には絶望に表情を染めている銀時が見えた。
土方とてこんな姿を彼に見せたくない。早く天人を叩きのめして銀時を抱き締めてやりたい。

(しかし、痛ェな畜生…!)

後ろ手で拘束されている無理な姿勢の為、身体が軋んで悲鳴を上げていた。体位を変えれば手錠を外されるチャンスもあるだろうが、どうやってそこに持ち込むかが問題だ。

『だーからぁ、お尻!ひっく、俺はお尻を叩く方が良いんですぅ〜』

そこでふと。酔いながら言っていた銀時の言葉を思い出す。確かあれは、もう一人の白夜叉と二回目の邂逅の後、怪我だらけの所を彼に見つけられる直前に聞こえた会話の一部。

(クソ、不本意だが、言うしかねぇだろ…!)

「お、お願いです、俺のお、お尻、叩いてくださ、い…!」
「何だと?」
「叩いて、お願いします!我慢、出来ないんです…」

トッシーだ。トッシーが言ってるんだ。
そう自分に言い聞かせながら土方は更に強請った。さすがにワザとらしすぎたか?と様子を伺ってみると、向こうも乗り気になったのか懐から手錠の鍵を取り出す。
そう。体を反転させるには手錠を外さなければならないのだ。
土方はチャンスを逃さないよう、天人の腰に絡めた足に微弱な力を込める。

「ふ、どうせ得物はすぐには抜けぬし、田舎道場の体術など知れているしな…」

言いながら天人は、土方の肩手首の手錠を外す。
それだけで充分だった。相手は土方を見くびり、油断している。
行動は、一瞬だった。天人の腰を逃さないように脚に最大限の力を入れてホールドすると、両腕の力を使いそのまま下半身を捻り、思い切り床に天人の頭を叩きつける。

「バカな…うぐぁ!」

突然の奇襲に驚いている天人の脳天に、思い切り鞘に収まった刀を振り下ろす。

「田舎道場の体術なめんじゃねーぞ、コラ」

気絶した天人に、土方はそう吐き捨てる。そして片手首に嵌ったままの手錠を外そうとするが今の衝撃で鍵が何処かにいってしまったようで見当たらない。
本当はこの手錠で天人を拘束しようと思ったが暫く目覚めないと踏み、急いでそのまま銀時の元へ向かった。

「銀時、オイ、大丈夫か!?」

駆け寄り、蹲ったままの彼の傍らに膝をつく。しかし、土方が傍に来た事に気付かないのか、俯いたままブツブツと何かを呟いている。

「俺だ、聞こえねぇのか!?なぁ…」
「ごめん、ごめんなさい、護れなくてごめんなさい、ごめん、護りたかったのに、俺」

そこで耳を傾ければ、何度も何度も銀時が謝罪の言葉を繰り返しているのが分かった。
堪えかねた土方は彼の肩を掴み、目を合わせて揺らした。

「しっかりしろ!俺を見ろよ!!」
「ご、めん、護れなくて」

しかしその両目を見て愕然とした。深紅の双眸は何も映さない虚ろの色。

「人殺しで、ごめんね…」

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