ただ、傍に居れればそれだけで良いと言えるほど子供でもなければ
ただ、傍に居るだけの方が難しいのを知っている大人な俺達は
「駆け落ちしよう、土方君」
一夜だけの逃避行をした
本当に、着のみ着のまま
アイツはガキ共、俺は近藤さん達。
誰一人、何も告げず。
二人で夜の街へと繰り出した。
眩しいイルミネーションは目を焼いてくる。
瞬きしても消えてくれず、網膜に焦げ付いた。
馬鹿げた俺達の一日限りの駆け落ちを
まるで嘲笑しているような輝きだ。
「さっむー…」
手を擦り合わせて隣を歩く銀時は呟く。
そりゃあそうだ。
隊服を着込んでる俺と違って、
薄着の彼はマフラーも手袋もしていない。
ズボンのポケットに手を突っ込んでいた俺は
アイツの手よりは温かいだろうと思い
寒いとのたまう銀時のひんやりとした手を握った。
すると驚いたような顔をして来るから、なんとなくこっちが驚く。
「へへ」
しかし、彼は余裕そうに微笑むと
そのまま繋いだ手を俺のズボンのポケットに戻す。
重ねた掌がじんわりぬるい。
…何も言わずに出てきちまったけど…
近藤さん達、騒いだりしてねーかな
でも、今は…銀時の事だけ…考えててもいいよな?
「土方君、どーする?このままラブホ直行?」
「え」
温まり始めた筈の心が、一瞬で凍てついたような気がした。
今日ぐらいヤらなくてもよくねーか?
という言葉を呑みこんでしまう。
だって、今夜は全てのしがらみから抜け出した駆け落ちじゃ…
返事に戸惑っていると、静かな笑みを湛えた銀時が言う。
「まさか、クリスマスに駆け落ちだからって一緒に呑気にディナー、んでその後プレゼン
ト交換とかそんな事考えてた?」
「それ、は」
「考えてねーよなァ?俺達良い歳だし、そんなクリスマスに幻想抱く程ピュアでもねーし」
ああ、銀時の瞳が冷えていく。
そんな事を考えながら言われるがままにその辺のホテルに入り、シャワーも浴びずに冷え切った体をお互いの体温で温めあった。
俺は銀時の過去を知らない。
体を重ねて穢れを見せ付ける俺達は、相当傷の舐め合いをしてるだろうにも関わらず。
でも彼は人との繋がりに怯えているのは分かる。傍にいる事がとても単純で難しい事を、知っていると思う。
「…メリークリスマス」
子供でもなければ、大人にも成りきれないその腕に抱かれながら俺は、愛しさを込めて口
付けた。
Fin.