「万斉さんの歌、流石って感じだったな。作曲の才能あるんじゃねぇの」
「まぁ学生ン時からバンドやってたしな。つか、万斉さんって気持ち悪い」
「えぇ?じゃあなんて呼べば良いんだよ」

神様。

「…お義兄さん」
「…おにいさん…」

神様。

「なんで笑ってんだよ、トシ」
「はは、だってさ。晋助の兄貴をお義兄さんって呼ぶんだぜ?
なんか結婚したんだな、俺達って、実感が」
「そうだぜ。めでたくアンタは今日から俺の嫁だ。引き合わせてくれた近藤に感謝だ」

病める時も、健やかなる時も、

「だな。宜しくお願いします。…旦那様」

俺の体も魂も、これからは全て晋助のものです。
願わくばどうか、愛する晋助に幸多からん事を。
願わくばどうか、俺達の明日が光に満ちている事を。

「ああ。これからも隣に居てくれよ。トシ…」
「ん…」

永遠の愛を誓ったあの日、俺は貴方にそう約束しました。

「隣にいるよ、晋助」

そう、確かに願いました。


『左手の薬指』


「まさか、晋助の取引先の相手が総悟兄ちゃんだなんて、夢にも思わなかったよ」
「全くでさァ。世界はやっぱり狭いもんなんですかねぇ」

小学生の頃からの幼馴染、近藤さんの紹介で高杉晋助と出会い、俺は結婚した。
あの幸せの始まりから何年か過ぎた頃に、でかい契約にありついたと晋助から報告を受ける。その話をよくよく聞いてみるとその取引先の相手は、小・中学生の頃に近所に住んでいて、よく遊んでくれた総悟兄ちゃんだという事が判明した。
更に晋助と総悟兄ちゃんは大学時代に同じゼミだったというものだから尚更驚きだ。

「結婚しても土方さんは仕事続けてるんで?」
「ああ、まあな。今の仕事好きだし…つーか総悟兄ちゃん。残念ながら俺、土方じゃなくて高杉なんだぜ」
「おや、長年の癖で。こいつは失敬」

降参、と言うように両手を挙げる総悟に俺と高杉は笑う。正直こうしてまた総悟兄ちゃんと一緒に飯でも食べながら笑える日が来るなんざ、夢にも思わなかった。
晋助は結婚式に呼んだが、総悟兄ちゃんは仕事の都合上行けなかったとの事。
旦那である晋助には申し訳ないが、昔遊んでくれた人に久々に会えた嬉しい気持ちは抑え切れなかった。

「そういや、今日はお前の息子も来るって聞いてたけどな」
「そうなんですよ。アンタらと食事してくるって言ったら、俺も行きたいってごねて…」

晋助と総悟兄ちゃんの会話を聞きながら、一体どんな人が来るんだろうと内心ソワソワしてしまう。
俺は総悟兄ちゃんが学生結婚をして(早々に離婚したらしいが)、しかも子供が居るという事もこの間食事の話が出た時に初めて聞かされた。
年上の、しかも今では晋助の取引先の人をこういうのはなんだけれど、総悟兄ちゃんは昔から中性的というか言ってしまえば可愛い顔をしてる。
その息子なのだから少し小さめで、愛らしい顔立ちの男の子が来るんじゃないか…なんて俺は想像していた、矢先。

「お、来た来た。こっちだぜィ銀時」

子供が店に入ってきたのを見つけたのか、総悟が手を振って呼ぶ。
俺の想像通りだろうか。
期待を込めながら振り向くと、あまりのかけ離れた存在に思わず目を見開いた。

「遅れてすんまっせーん。沖田銀時でぇす」
「へーぇ、沖田と違って随分と男前じゃねぇか」

そう。晋助の言う通り、俺が思っていたよりもだいぶ男らしいのだ。
座っている状態でも分かる高身長に、スーツの似合う広い肩幅。
眠たげな目の上に被さる癖のある銀髪は、どこか優雅さすら思わせる。
俺の心の第一声。
本当にコイツ、総悟兄ちゃんの子供なのか…!?

「オイ高杉。どういう意味でィ」
「あはは、マジっすか。ありがとうございまーす」
「というかなんでこんな遅れたんでさァ」
「え?だって親父がスーツ着て来いっていうから、一度家に戻ったんだもん」

それでも普通に兄ちゃんと喋ってる辺り、ああ本当に親子なんだと思ってしまう。
というか、自分の想像と違ったからって子供かと疑うなんて失礼…

「で、この別嬪さんが親父が昔よく遊んでたっていう“土方サン”?」
「えっ?」

声をかけられてそこで、晋助達の視線が自分に向けられている事に気付いた。
どうやら晋助の紹介は終わっているらしく、次は俺の番だったようだ。

「あ、はい、ええと土方…じゃなくて高杉十四郎、です」

そこで、総悟兄ちゃんが視線を俺から逸らした。理由が分からず、何か可笑しな事を言ってしまっただろうかと思ってしまう。

「十四郎さんですね、宜しくお願いします。それにしても、綺麗なお嫁さん見つけましたねぇ」
「クク、随分と口達者な息子さんだ」
「いえいえそれほどでも〜」

晋助が銀時君と楽しそうに会話を始めてくれ、そこに総悟や俺も加わるという形で話も盛り上がり密かに胸を撫で下ろした。
その後は今はどこに住んでいるとか、どんな結婚式だったとか、銀時君の学校の話とか(まだ彼は高校生になったばかりだという。だいぶ今時の子は大人びてるんだな…)他愛のない話をし、時間も来たという事で食事会はお開きになった。

「十四郎さん、今日はどうもありがとうございました」
「いえ、こちらこそ楽しかったです。ありがとう」

晋助と兄ちゃんが会計をしている間に銀時君に突然お礼を言われ、こちらこそと頭を下げる。

「あんな穏やかな親父見れたの久々なもんで。いっつもは恐いから」
「…恐い?」
「そうです。特に仕事の事になると、悪魔も逃げ出すドSっぷりを発揮するんで」

そう言ってへらりと笑う銀時君を見ながら、俺は兄ちゃんが子供には厳しい父親なんだろうか、ぐらいにしか思わなかった。
だからそれ以上深くは考えなかった。
その銀時君が、総悟兄ちゃんの息子だという事。


「あっあっ、あ、い、やぁ」

次の日は休日だというのを良い事に、シャワーも浴びずに俺達は家に着くなりベッドへと倒れこんだ。
俺の体の中を晋助の指がゆっくりと行き来する。
くちゅ、ちゅ、という音が聞こえる度に恥ずかしくて、それでいて気持ち良い。
もう何度も繰り返している行為がいつまでも慣れない。
なのにもっと、もっとと最近は体が晋助を欲する。
彼に愛撫されたいと、抱かれたいと、芯から火照る。

「どうだ、初の目隠しは?見た感じ感度ビンビンみてぇだが」
「うっ、あ、わかんねぇ、よ、そんなの」
「分からない?どの口が言ってンだよ」
「んん!」

今まで触れられなかった胸の突起をきゅうっと摘ままれ、ビクッと感覚が全身を貫く。
前までは痛いだけだったそれは甘い痺れをもたらすようになった。

「しんす、け。そんな突然摘まむ、なぁ」
「何を言ってるのかねぇ。それが目隠しの醍醐味だろうが・・・」
「あっあ!やぁっ、や、あぁ…」

指で挟まれていた乳首が今度は晋助の舌によってぬちゃ、と舐められる。蕾を慣らす指の動きが早くなるのと同時に開始される動作に、自然と声が洩れた。

「気持ち良いんだろ?トシ」
「う、あぁっ、」

ああ、指じゃなくて今すぐにでも晋助のもので貫いて欲しい。激しく愛して欲しい。
だがどうしてもそんな浅ましい思いはいつも口には出来ない。
だから俺は気付いて貰えるように、強請るように、腰を動かしてみせる。

「あっ、ぁ、しんすけ…」
「クク。随分と淫乱な奥様になったもんだねぇ」
「んっん、ぁあぁ」

トロトロトロトロ。
俺の体の奥から流れ出る精液みたいに、俺の思いも溶けていって、晋助と一つになってしまえれば良いのに。
気持ちよさと一緒に溢れ出る、この愛しさも一緒に…


その数日後に、銀時君から電話が入る。
困った事があるから、どうしても十四郎さんに来て欲しいと。
銀時君は晋助の取引先の息子であると同時に、総悟兄ちゃんの子供。
俺は何の疑いも迷いも無く、銀時君と待ち合わせをした場所へと向かった。


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