またね
前を、歩く。
「お前こそ"多串君"とか呼ぶのやめろって言っただろ」
そんな事を考えてる、俺も。
「?
「銀時。キスさせろ」
「はぁ?こんな道端で?
「いいから」
「明日。」
「世界が終わる」
「笑い事ねェぞコラ!今朝、夢で見たんだ」
「ふぅん」
「ふーんじゃない!テメー、知ってるだろ!
「キスだけでいいの?」
「セックスは?しなくていいの?
「・・・」
「あ?」
「いつかまた、生まれ変わっても、俺と土方君が出会う夢」
「そんな、の」
「いいから。会うの」
「…ンな器用な事、出来るか天パぁ」
翌日、本当に俺の夢通りに世界は崩壊した。
「…だーからテメーは人の事言えた義理か?
「だーから言ったでしょーが。
「てんめぇえ!人の言った事返してんじゃねぇ!!」
「土方コノヤロー!!いつまで喧嘩してるつもりですかィ」
「銀ちゃーん!私、お腹空いたアル!帰ろうヨ」
別の世界で、違う大切な人達が傍に居て、
「おい、天パ」
プラチナの髪を揺らして歩く男に声をかける。
すると思いっきり嫌そうな顔をしてこっちを向いた。
口には先程開けたばかりのキャンディーの棒。
「ちょ、多串君。天パって呼ぶのやめてって言ったじゃん」
こんな、くだらない言い争いは普段から。
いつものやりとりも、今となっては、
自分には切ないものしかならない。
だって、明日には。
殺しても死にそうにない、こいつも。
どした?土方君」
誰かに見られたら、近所のおば様方のいいネタに」
制服の襟を掴んで引き寄せ、
口に含まれている飴の棒をさけて
重ねるだけのキスをした。
相手のつけている香水が僅かにかおる。
同時に、甘い飴の味が舌をかすめた。
「…どしたの。珍しいじゃん」
少し驚いたように、はにかみながら言うから
切羽詰って告げた。
「明日?」
一瞬キョトンとしたように目を見開くと
銀時がぶっと噴出して笑い始めた。
「明日世界が終わるから、土方君、俺にキスしたの?」
俺の夢は」
ズボンに手を突っ込んで、不敵に銀時が笑む。
背景に位置する夕焼け空が彼を綺麗に映えさせて、
お揃い、と一緒に買ったピアスを夕凪が揺らした。
「え?」
今日は俺、このまま帰るつもりだったけど」
銀時は俺が見た夢を知らないから、
そんな事を言えるんだ。
「…銀時とヤっちまったら、」
隕石が落ちて大地震が同時に起きて
世界は割れて海が覆い
人は溺死して地球は青い星に戻って
「俺、死ぬのが恐くなる…」
おれ も ぎんとき も、居なくなる
「…土方君」
情けない言葉を口にしてしまい、
思わず俺は顔を掌で覆って表情を隠す。
すると、銀時が軽く肩を抱き寄せてくれたのを感じた。
「それ、言ってくれたの俺にだけ?」
<
俺の予知夢の事なのか
それとも"死ぬのが恐い"と言った事なのか
分からなかったが
とりあえずコクリと頷くと、頭を優しく撫でられた。
「じゃあさ、夢みて」
まるで御伽話だ。
しかも銀時の言い方も子共に話すような
言い方で腹が立ったけど
「気づかなくても、いいよ。
全く別の世界で、お互いの近くに居る人達が全然違っても
違う人を、好きになってても」
それでも
「お互いがお互いだと気づかなくても、
きっとまた、会おう」
そんな夢を信じたくなったのは、どうしてだろう。
「あ、分かった。じゃあ土方君、
生まれ変わったら瞳孔開き気味で生きててよ。
俺は死んだ魚のような目で生きてるから。
そしたらね、会えそうな気がする」
結局、その後に俺達はもう一度キスをして
それぞれの家路へついた。
だから目を閉じる寸前に、銀時の言う通り夢を見た。
またあの馬鹿と何処かで出会い、
喧嘩でもする夢を。
「ねー多串君って、なんで常に瞳孔開いてんの?」
死んだ魚のような目をしやがって」
イザという時はキラめくの。分かった?」
ね、土方君。
お互いがお互いだと分からなくても、
きっと、会うよ。
だからそれまで、またね。
fin.
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