ゴン

何かがぶつかる音と一緒に聞こえる呻き声
神楽ってあんなに声低かったっけ、と覚醒してない頭で考えた後、
ここに居るのは彼女ではなく、彼だったという事を思い出した。


「…何してんの…?」

「ソファの角に足の小指ぶつけた」


裸の体に着流しだけを羽織り、
様子を見に行くと黒髪の彼がうずくまって痛みに耐えていた


「はは、ダッセー」

「うるせェな、水飲みに行こうとしただけだっての」


ヨロヨロとしながらも台所へ向かう彼の後をついていく。
柱に寄り掛かって、
水道の蛇口をひねってコップに水を注ぐ様子を眺めていると
ギロリと睨まれた。



「何見てんだコラ」

「…いや、帰っちゃうのかと思ってたから」


呟きに返事をせずに、彼はコップの水を飲み始めた。
そう、こうしてセフレになり始めた頃は、
行為が終われば彼は姿を消して何時の間に帰り
ぐうたら生活の自分とは違って翌日には隊務に勤めていたものだ。

だが、最近は壊れるような抱き方をしても、
銀時が目覚めるまで彼は居た。

おはよう。またな。

それを言う為だけに、彼は銀時が目を覚ますまでそこに居た。

「…昨日、泣きそうだったじゃねぇか、お前」


水を飲み干した彼は、口を拭いながら言う。
泣きそうだった、と言われても心当たりがなかった。
確かに昼寝した時に昔の嫌な夢を見て、

(例えば仲間を失ったとか
例えば仲間を捨てたとか、
そんな夢を)

なんだか気持ちが治まらなくて、
神楽を志村家へ押しつけて土方を抱いた

護るべき神楽や新八には汚い自分を見せたくない故に、
気持ちの捌け口に土方を利用した

だから、別に泣きそうになる気持ちは何処にもなかったのに

「…フラッと突然何処かに消えそうだからな、てめぇは。
俺が居なくなった後に失踪されて、
あのガキ共に責任問われてもめんどくせーだけだ」



何ソレ

土方君が俺の何を識っててそういう言い方するんだよ
ああ、なのにこの泣き叫びたくなるような衝動は

一体。


「泣きたい」

「は?」


唐突に言うと、驚いたようにこちらを見てくる。
そんな彼に腕を伸ばし、肩口に顔を埋めて抱き締めた。



「泣けたら、いいのに」


大声でガキのように泣いて
母親を探すガキのように泣いて
この優しい彼に縋れてしまえたら良いのに

きっと彼なら、どんな自分でも
理解してくれるという確信があるから、


きっと。  

      でも泣けない。
涙は捨てた。
涙は枯れた。


「だから、このままでいさせて」


苦しい。
心臓が破れて破裂しそうだ。
泣きたくなるくらいのこの衝動は、何だ



「…ん」


もし叶うなら、という願いを彼は簡単に叶えてくれる。
護りたいと願う銀時を、彼はきっと護ってくれる。

苦しい。苦しい。

歓喜を覚えるほど


fin.

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