静かにそう言った十四郎を抱き寄せて
銀時は触れるだけのキスをした。


「だって、俺の為を思ってそうしてくれたんでしょ」

「でも、嘘でも銀時様にあんな事を言ったなんて」

「ううん。ありがとう」


大好きだよ、と耳元で囁くと
土方が嗚咽を漏らし始める。


「え、なに。どうしたの」

「嬉し、い」

「ん?」

「こんな汚れた俺でも、そう言って貰えて、嬉しい」

「汚れてねーよ。
 少なくとも、俺にとっては綺麗なたからものだよ」




そう言って口付ける。

愛しい十四郎。

どうか、幸せになって。



「十四郎達はこの後、アテある?」

「あ、以前話してた友人達が見つかって。
 その人達のところへ行こうと…
 あの、銀時様も宜しければ、一緒に」


土方が言いかけたところで山崎が戻ってくる。


「・・・銀時様?」


答えずに二人に微笑んだ銀時は
隙を見て先程と同じように布を鼻に押し当てた。

「んん!?」

「土方十四郎。山崎君。
 君達は友人達を探す為に、地道に働いた事にして、
 遊郭で働いてた時の事は全部忘れるんだ」


暗示がかかりやすいのか
山崎は頷くとすぐに気を失った。
だが、土方は効きが悪く
イヤイヤと首を振っている。


「十四郎。全部忘れて。
 君は男に脚を開いて抱かれてないし、
 友達を探し続けた、素敵な男で」


声が震えた。

ああ、十四郎も嘘の別れを告げる時
こんなに辛かったのだろうか。


「優しくて、強くて」


十四郎



「坂田銀時の事なんか、愛していない」



十四郎。



「ばいばい」



ありがとう。

俺のいとおしいきみへ


土方と山崎に暗示をかけ終え、
銀時はぽてぽてと一人歩いていた。

二人からも銀時の記憶を奪ったのは
自分の罪を償う為だ。

親殺しと、多串をすくえなかった事に対する罪。

一番大切な人から自分の記憶が抜け落ちるほど
哀しくて辛いことはないと思ったからだ。


だからこの命を、
何かを護る事に使いたい。
そう考えながら落ち葉を踏んだ時だった。


「あ、れ・・・?」


ぐらり、と視界が揺れて銀時は膝をつく。
そして次々と何かが零れ落ちていく感覚に陥った。

これは、記憶、が・・・?

まさか自分も知らずの内にあの麻薬を吸い、
暗示がかけられてしまったのか?


「そん、な」


銀時は両手で自分を抱き締めた。

ダメだ。
忘れちゃダメだ。


義父を追い詰めた事も
多串君を護れなかった事も

十四郎に出会った事も
愛した事も


「いや、だ、やだ、こんなのは」


抜け落ちていく。
辛い記憶だけが失われていく。

松陽先生の元で
桂、高杉と共に学び
戦争に出た事だけが頭に残る。


多串君のような父親が欲しかった

(多串君、金魚)

護れないものが沢山あって


「とうしろ・・・」


そんな俺が
愛する人の幸せを願ってしまった事が
そもそもの罪なのかも知れない。

でも、十四郎のは偽れないよ。
俺を俺にしてくれた人だから。


ああ、意識が遠ざかる・・・



叶うなら君の幸せを、護ってあげたかった











「オーイ、ババー
 それ饅頭か?食べていい?腹減って死にそうなんだ」

「こりゃ私の旦那のもんさ。旦那に訊きな」


記憶がほんとんどない俺を、
お登勢のババァは面倒を見てくれた。

そんな彼女を護ると誓い
俺は一人で万事屋を開いた。


「銀さん!」
「銀ちゃん!」


そんな一人ぼっちの俺に寄り添うかのように
傍に居てくれるガキが二人出来て。

護りたいものが増えた。


抜け落ちた記憶は未だに戻らない。
でも時々、思い出したように
懐かしい感情が甦ったりする時がある。


「その重さに気付くのは、全部手元から滑り落ちたとき」

「ほしかったよ、そんな家族が」


きっと失ったものが沢山あるのだろう。
でも、今の俺には。



本当に護りたい人が、居る。


「お前、じゃあアレじゃねーの。
 その抜け落ちた記憶の人物だぜ、あれはきっと」

「え、なにが」

「俺がテメーを探してる時、言っただろうが。
 『あれ?多串君?金魚でかくなってんの?』とか
 意味不明なこと」

「えー言ったっけ?」

「言っただろうが!」

「そんな怒らないでよ、やきもち?」


泣く子も黙るといわれる
近藤勲率いる真選組の副長、土方十四郎。
彼が今、俺の隣に居てくれてる。


「上等だ、勝手にしろ」

「やだー怒っちゃイヤー」


ゴロン、と寝返りを打って背を向けてしまう彼に
駄々をこねながら俺は抱きついた。
鬱陶しいと文句言うけど
それが照れ隠しだって知ってる。


「まぁ、俺もどうしても思い出せねー事があるけど
 それを時々夢に見るんだ。でも覚えてない」

「え、なに?どういう感じ?」

「言うかよ」

「ンだよ、けちんぼ」

「(なんかすごい好きだったぽい奴がユリ持って夢に出てきて
 それがお前に激似なんて言えるかよ)」



俺は今、万事屋を開いてる。
そこにはうるさいガキが二人と
デカい犬が一匹。

そして内緒でお付き合いしてる人が、一人。
(ばれたら、沖田君かジミー辺りにリンチされそうな気がする)


「ねぇ土方君」

「うるせーな、なんだよ」



護りたい。
記憶がなくても強く感じること。

俺が傍に居る人たちは護りたい。
手が届くその場所を。


「大好き」


ありがとう。

俺のいとおしいきみへ




叶うなら君の幸せを、僕はずっと護って生きたい




EnD.

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