目を開く。

すやすやと寝息を立てて、眠る土方君の姿。
昼間は攘夷志士を追っかけ回してたらしいから、多分疲れたんだろう。
そんな事を考えながら俺はベタつく身体が気になって、起こさないようにシーツの間から這い出るとシャワーを浴びに浴室へと向かう。

「目…治んねぇままか…」

ふと洗面所の鏡に映った自分の姿を見て呟いてしまった。
鏡に手をついて己の顔を覗き込む。
片方は銀色で、もう片方は血で塗られたような緋色。
俺が白夜叉という兵器であった事を証明させるもの。

『私は貴方に呪いの言葉をかけていきますよ』

俺を憎んで死んでいった天人の本当の呪いはコレかも知れないとなんとなく思う。
自分の姿を鏡で映す度に、己の罪を思い出すように。

「…アホらし」

新八や神楽や、お妙達も俺の片方の目の色が違う事に気付いて追求してきたが、『オッドアイぽくしたかったんだよね〜』なんて誤魔化してみたけど通じたかどうかは分からない。
でも、俺が居なくなった事がよっぽど堪えたらしくて前よりも懐いてくるようになった。
未来の事なんざ分からないし、ずっとこのまま一緒に居れる筈もない事を知ってる。
だけど、だからこそ今は傍に居るんだってさ。

『その未来、一緒に叶えようぜ』

ねぇ土方君。
今でも少しだけ、眠るのが怖いんだ。
眠る寸前が怖いんだ。
もしかしたら眠っている間に、また記憶や感情が失われてくかも、とか。
君や神楽や新八達をいつかまた忘れて、何とも思わなくなっちまうんじゃないかとか。
俺が傍に居ることで、また君達を酷い目に合わすんじゃないかとか。



君の事を、これからも



考える。
考えてしまうよ。
俺は自分の事ならなんだって耐えられる。
でも君達を辛い目には合わせたくないんだ。

ねぇ、だから本当は。本当はね。
未来の話をする事が本当は、いつも怖くて仕方ない。

どうせ、最期は皆居なくなってしまうんだから。
(そんな事を考えてしまうんだから)

シャワーを浴びながらなんだかそんな事を考えてるのが馬鹿らしくなって、栓を止めて適当にタオルで髪と体を拭いて、まだ少し濡れたまま土方君が眠り続ける布団へと潜り込む。

(馬鹿らしい、馬鹿らしい、馬鹿らしい)

なぁ、俺弱くなっちまったよ。
攘夷戦争の時―白夜叉なんて呼ばれてた頃は怖い事なんて一つもなかったのに。
お膳立てされて戦って、失って、滑り落ちて、もう背負い込まねーって決めて。
それでもまた荷物担いで生きてる。面倒くさいと知りながら。
護るものが出来てしまえば、弱くなる事を分かっていながら。

馬鹿らしい。馬鹿だよね。

ねぇ…


途端、頭をポンポンと撫でられるから俺は目を開いた。
すると眠っていた筈の土方君が、寝ぼけた様子でこちらを見ている。
そして相変わらず彼の手は俺の頭を撫でたまま。

「なに、してんの。お前」
「わっかんね」

眠たげな調子で土方君は呟く。
完全に寝ぼけてる。だから『髪も濡れてるし、もうやめろ』って言おうとしたのに。
「でもなんか、こうしてやった方が良い気がして」

土方君の言葉にじわ、と熱いものが目尻に浮かぶ。
それをばれない様に俺は土方君に擦り寄った。裸の体が心地よい。

「…なぁ」
「ンだよ」
「俺ね、お前らと会えて思ったんだけどさ。すげー楽しくて、嬉しくて」
「うん」
「時々、このまま俺の終わりが来ちまっても良いと思う時が、ある」

護るものは何も変わっていない。
なのに護るものは幾度も失ってきた。
だからまた失ってしまう前に、終わりがきてしまえば良いと思う時もあるけど。

「でもな、土方君の顔見たら、明日も生きたくなった」

明日も、土方君や皆に会いたい。
皆と一緒に笑って、傍に居たい。

「俺もだよ、銀時」

寝言なのかどうか分からない。
でも眠りに入る際に土方君がそう呟いたから、俺は明日も生きてみることにした。

この身が呪われていようとも、少しずつ考えていこう。



君のとの未来を、これからも。



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