土方がどうしたら落ち着くかを考え、そこでいつも近藤が親しげに彼を『トシ』と呼んでいたのを銀時は思い出し、口にした。
すると今まで強張り、殴りつけてきた土方の身体からスッと力が抜ける。
「…しない?何に、も?」
「そ、安心して。だから、泣かなくていいから。…な?」
「ふ、ぅ…」
やがて銀時の腕の仲で嗚咽を漏らし始めた土方を安心させるように、その黒髪を撫でてやった。本当は背中もさすってやりたかったが傷があるから、無暗には触れられなかった。
「えーっと、とりあえず風呂に湯をはって…」
暫く泣きじゃくった後、土方はまた眠りについた。あの様子からして相当な身体的にも精神的にもダメージを負わされたのだろう。
無理はさせない方が良かった。
「レイプ…だよなぁ、あの反応じゃ…」
バスルームはガラス張りになっており、その奥に位置する、成人男性が二人で入ってもまだ余裕そうな広さの浴槽に湯を入れながら銀時は呟いた。
普段の土方なら絶対に見せないであろう涙。
そして、変に銀時に対抗心を燃やしている彼がすがって来たのだから、相当ヒドイ目に合わされたのだろう。
依頼人は経緯を詳しくは話さなかったが、こんな部屋(なんと、プライベートプールまで付いていた)を一ヶ月借しきれるという事は相当な幕府のお偉い方が土方を犯したのだろう。
簡単な事だ。
きっと、真選組を人質のように盾にされて…。
「う…」
ソファーに放られていた土方の隊服を整えてやろうとベッドルームへ戻ってくると、呻きながら土方が瞼を開けた。
「…」
「…おす」
虚無を宿した瞳に無言で見つめられ、銀時はとりあえず挨拶紛いな事をしてみた。すると少しの沈黙の後に返事が返ってくる。
「…悪ィな、さっきは取り乱しちまって…」
「いや、別に、うん。」
何か気の利いた言葉でもかけてやりたかったが、素直に謝られてしまって動揺を隠せない銀時。そんな彼の前で乱れたバスローブを直し、目を擦りながら土方は上体を起こした。
「つーか、なんでてめェがここにいんだよ」
「え、依頼。お世話してって頼まれたんだけど、それが土方君だとは知らず…」
「世話…?」