この込み上げる肉欲や、絶え間無い性欲が
君を傷つける術にしかならないのならば
このままの、距離で良い
「銀時―帰るぞ」
「んー」
毎日、違うクラスなのにも関わらずトシは俺を迎えに来る。
今日こそは整理しようとしていた机の中身。
でもあの子を待たせたくないから、結局いつものように教科書もノートもプリントもグチャグチャのまま机の中に突っ込んだ。
「お前、鞄薄すぎだろ。何入ってんだ?」
「えっと、財布とケータイと筆箱?」
「はぁ?お前、宿題とか予習とかは」
「しなぁい。新八に見せてもらうからぁ」
「…たく、志村の苦労を考えろよな…」
俺とトシは幼馴染。というか、幼稚園も小学校も中学校も同じで、現在高校生な俺達は一緒に居すぎてむしろ腐れ縁に近い。
そんなトシに俺は、一方通行な想いを抱いていて。
「そういやさーミツバちゃんとの仲、どうなの?」
「えっ…」
帰り道。俺は何となく訊いてみた。
ミツバ、というのはトシに最近出来た彼女の名前。
おしとやかで美人で、ちょっと辛いもの好きなのが玉にキズだけど、それでもすごく素敵な女の子。
そして、彼女の名前を出した途端にトシの顔が真っ赤になる。
そんなトシを見て俺がどう思ったかなんて、コイツは想像もしてないんだろうな。
「べっ、別に。どうって、普通だよ」
「へー?キスはした?」
「…ッ」
更に頬を紅潮させた後、黙ってトシは頷いた。
何ソレ。
自分で訊いておいて、なんだかものすごい不快感に襲われる。
…今までの俺達には、色恋沙汰なんて一つも関係なかった。
(トシには内緒で女と遊んでるけど、でも恋愛感情を持った事はない)
二人で遊んだり、勉強したり、昼寝したり、ゲームしたり。
そんな毎日が当たり前で、ずっとそんな日が続くと思ってた。
なのに。
『銀時…俺、惚れた女が出来た…』
そう信じてたのに。
「そう。じゃあもうヤったの?」
「そ、それは…まだ、だ」
照れた感じで言うトシが、余計に俺の気持ちに波風を立たせた。
トシは童貞だから、多分ミツバちゃん相手に初めてを散らすんだろう。
男に対して散らす、なんて言い方は可笑しいんだろうけど、俺にはそうとしか思えない。
俺の知らない場所で、トシは服を脱いで、ミツバちゃんの服も脱がせて。
裸になって、求め合って、手探りで繋がって。
…全部、俺の知らない所で。
「え、ちょ、銀、時、何…ッ?」
やだ、そんなの。
俺の知らないトシにならないで。知らない所へ行かないで。
そう思ったら、目の前に居るトシを強く抱き締めていた。
勿論、腕の中のトシは困惑した声を出す。
「トシ、トシ…」
ああ、お前は知ってるのか。
俺がいつもどんな思いで夜を迎えてるのか。
女を抱く時、どことなくお前を重ねて、お前の喘ぎ声を想像したりだとか。
「銀時…オイ、マジでどうした?」
なぁ、今すぐキスしてやろうか。
強引に肩を抱いて、その学ラン引き裂いて、メチャクチャにしてやろうか。
もう女なんか抱けないくらい、男のプライド踏みつけてやろうか…
「ん。幸せになれよ、って思ってさ」
でも、そんな事は出来ない。
だって俺の幸せは、トシが幸せになってくれる事。
この込み上げる肉欲や、絶え間無い性欲が
君を傷つける術にしかならないのならば
このままの、距離で良い
この親友ポジションのままで、良いんだ。
「言われなくとも、なるさ。銀時も早く彼女作れよな」
「へーん。余計なお世話ですぅー」
このまま、君を傷つけずに隣に居れるこの場所で、いい。
「トシ、ゲーセン行かね?太鼓の達人勝負しよ」
「上等だコラ」
だからせめて、君を愛する妄想をするのくらいは許してね
End.