「やだ、絶対コイツの誕生日なんか祝わない」

俺が物心ついて初めての誕生日は、松陽先生と、ヅラと高杉が祝ってくれた。
最後まで諦めの悪い高杉は祝いの席についてからそんな文句を言ったのを覚えている。俺はそんなに傷つきも気にもしなかったけれど、みかねたのヅラがごねる駄々っ子に訊いた。

「そう言うな高杉。どうして貴様は銀時をそんなに目の敵にするんだ」
「…後から入ってきたくせに、俺より背が高いから」

今思えばどうとでもない理由だが、たったそれだけの事で他人の誕生日を祝いたくないと素直に言える高杉が羨ましかった。何処かへ感情を捨ててきてしまった幼い俺には、人を好きだとか嫌いだとか、そんな気持ちすら他人に抱けなかったから。
好きの正反対は無関心と言うけれど、関心という感情すら存在しない俺には無縁の言葉なのだと考えていた。
でも、三人が俺の誕生日を祝ってくれた事は、眠る前に思い出すととても優しい気持ちになった。それを松陽先生に伝えると『それは嬉しいという事だよ。後で小太郎と晋助に祝ってくれた事、お礼を言おうね』と言われてから何となく世界には無だけでなく、そういう綺麗なものが存在する事を知った。

俺は、その時から俺の誕生日を祝ってくれた大切な三人には綺麗なものを見て欲しいと願った。
でも世界は俺を裏切って松陽先生を奪い、高杉を壊した。
俺とヅラに戦争へと行かせた。沢山の仲間を失わせた。

家族が居ないちっぽけな俺からではなく、世界は俺の大切な人達から綺麗なものを奪った

沢山、奪った。



「自分の誕生日くらい、この世に感謝したらどうだい」

お登勢のババアに世話になり始めて三ヶ月程経った頃、『誕生日は何時なんだ』と訊かれたが『そんなモノ答えたくない』と俺は応じた。
そんな俺に、彼女はそう言ったんだ。
正直俺は感謝なんざしたくなかった。この世界はどうしようもないサディストで大切なものを失って悲しんでのた打ち回っている俺達を嘲笑って楽しんでるんだ。
その手には乗らないと考えていた。考えていたのに。

「銀ちゃーん、誕生日おめでとアル!」
「おめでとうございます銀さん!このケーキは僕と神楽ちゃんからです」
「銀さん、私頑張って卵焼き作ったんですよ、食べてくださいな」

何処から聞き出したのか―多分ヅラ辺りだろうけど、ガキ共が俺の誕生日にケーキやら料理やら用意していやがった。今まで全然そんな素振りを見せなかったのに。
少ない賃金から寄せ集めて俺の誕生日を祝おうとするガキ共を見て、正直馬鹿かコイツ等と思った。祝ってどうするんだよ。
お前らだって色々、大切なモン失くしてるんだろ。
俺は持ってねぇ家族とか失くしてるんだろ。
なのに何で笑ってるんだよ。なんで他人の生まれた日なんて祝えるんだよ。
もっと他にする事沢山あるだろ。

なんで。
なんで。

『松陽先生。俺はこの国の人間じゃないって。その銀色の髪は可笑しいって言う奴が居たんだ』
『嫌な事を言う人が居るね。銀時はこの国で生きてるのに』
『うん。でもね、ヅラと高杉は庇ってくれたんだ。そうしたら、誕生日の夜と同じ気持ちになったんだ。先生、これも嬉しいっていう事?』
『そうだね、それも嬉しいって気持ちだよ』
『で、先生に言われたみたいにお礼言ったんだ。そうしたら、ヅラ達は不思議そうな顔した後に笑ったんだ。俺が言った事変だったのかな』
『違うよ、銀時。銀時にお礼を言われたから小太郎達も嬉しかったんだ』
『嬉しい?嬉しいと笑うの?』

『そうだよ、銀時。今度嬉しくなったら、笑ってご覧』


ガキ達の前で自分の感情を読み取られまいと俺は必死だった。
だからいつもみたいに飄々と、『ラッキー、銀さん糖分不足だったんだよね』とか言いながら悟られないように懸命に嬉しさを見せないようにした。

ああ、笑うんだ、人は。嬉しいと、笑うんだ。



「付き合おうよ、土方」

土方君と体を重ねたのキッカケは、たまたま出会った居酒屋でお互いの意地っ張りな性格が災いして呑み比べになって、所謂酒の勢いだった。
女を抱いたり男に抱かれたりしたのは何度かあったけれど、男を抱くのは初めてだった。
酔いが回っていたのに萎えるどころか興奮でそそり立つ自身で、土方君の窮屈な体内を何度も何度も抉じ開けたんだ。手探りで初めた行為は段々と背徳的な快感をもたらした。
俺の下で喘ぐ土方君が妙に色っぽくて、可笑しくなりそうになったのを今でも鮮明に思い出せる。

それから俺達は何度か交わった。別に恋人同士でないから唇は重ねない。
お互いの欲が満たされればそれで良かった。
よかった、はずだった。

ある日、俺の背中にしがみついて突き上げられる衝撃に耐え、唇を噛む土方君にどうしようもない愛しさを感じてしまったんだ。どうしてもキスがしたくて仕方なかった。
性の捌け口だけでなく、愛し合って優しく愛撫を施して、俺を受け入れて欲しかった。

でもただひたすら、彼が愛しくて愛しくてしょうがなかった。

「すきなんだよ・・・」

行為の真っ只中。
土方君の足を持ち上げて肩に乗せ、今まさに腰を動かしますよ的な時に動きを止めて言ってみた。普通に考えれば最悪なタイミング。でもこれで俺の想いが受け入れられなくても「うそ、じょーだん」と言って行為を再開する事が出来る。

でも彼は、泣いた。

表情という色を顔からなくした土方が右目からぽろりと涙を零したのだ。
そして一回だけ頷き、俺の首に両手を絡める。
そうしたら気持ちが止まらなかった。殊更愛しく思った。
キスがしたかった。笑わせてやりたかった。綺麗なものを見せてやりたいと思った。
大切な人たちにそう望むように。
セックスの途中だというのに俺達はそれよりもキスに没頭した。ぐちゃぐちゃに舌を絡ませながら何度も何度も口付けた。
嬉しくて仕方なかった。幸せだと感じた。

「ぎん、とき…」

彼の涙が、嬉しい事はこんなに美しいものだと教えてくれた瞬間だった。



「さー問題です。じゃじゃん。今日は何の日でしょうか」
「…坂田さんの誕生日」
「はい、そうですねー。で、土方君は何くれんの?」
「はぁ?てめっその歳になっても贈り物ねだる気か」
「ぱっつぁん達がケーキくれるから、それ以外ね」
「・・・それで今、てめぇん家に俺とお前は二人きりなわけか」
「そゆ事です。新八達はお妙の所でせっせと銀さんの誕生日祝う用意してるからね。
で、恋人の土方は何くれるのかなーって」
「・・・ッ!」


多分、新八達が作ってくれるのは神楽も居るからとんでもなくでかいケーキ。
んでお妙が用意するのはダークマターでババァ達は多分、酒とかそんなん。
辰馬はまた意味わかんねー宇宙の土産贈ってくるだろうし、さっちゃんは納豆まみれのなんか、長谷川さんは風俗関係の割引券とかくれそうだな。

「自分の誕生日くらい、この世に感謝したらどうだい」

ババァに言われた言葉を思い出す。
俺自身が世界に感謝しろって意味じゃなかったんだな。

「じゃっ、じゃあ」
「うん、なに?」
「せっ、接吻で」
「ふーん?勿論、『愛する銀時、お誕生日おめでとう』って言いながらだぞ」
「誰が言うか、上等だコラァアアアア」

この世界を呪いながらも
俺の為に笑って泣いて、祝ってくれる誰かの為に
世界に生れ落ちた事を、感謝しよう。



「誕生日おめでとう、ぎんとき」

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攘夷組で始まり、お登勢さん、万事屋メンバーを経てトシ嬢で終わります。
銀たん誕生日おめでとう。愛をこめて!

End.


こっそりハピバ銀土イラスト!

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