こちらの『fragile』は
『君の事しか、今だけは』の続編です。
心中話になりますので
苦手な方はご注意ください。
なぁ、俺、間違ってたのかな。
「もう、土方さんの脳は萎縮が始まっていて」
もっと早く、お前を助けてあげるべきだったのかな。
「近藤さんも、俺も、隊員をもう誰一人、認識できやせん」
それとも、あのままほっといてヤク漬けにして
廃人にしてやりゃあ良かった?
「旦那、それでも良ければ会ってやってくだせェ」
ねぇ
「ああ、すごい綺麗な銀色だな。キラキラ光って、綺麗だ」
「本当?土方君の黒髪も綺麗で、俺は好きよ」
「土方君?誰だよそれ」
「・・・お前だよ」
ねぇ
「そう、俺って土方君って言うのか。ひじかたくん」
ねぇ
「はは、見ろよ。あそこで犬が死んでるぜ」
「土方君。そこには何も居ない」
ねぇ
「なぁ、お前はなに?なんでここに来たんだ?」
「俺?俺はね」
ねぇ
「土方君を、迎えにきたんだよ」
大丈夫。
一思いに殺してあげる。
苦しい想いはさせない。
俺もすぐそっちに行くから
煙草でも吸って、そこで待ってて
ごめん、ごめんなさい。
苦しめてしまったらごめんなさい。
でもどうか、その先で待っていて。
きっと微笑んで待っていて。
「土方君、ねぇ…」
「あ…っつ、喋る、な、ン」
あの事件で救出された後。
俺と万事屋の野郎は身体を重ねていた。
数回。
そう、本当に数える程しか足を踏み入れたことのない
この銀髪の家。
普段、あの眼鏡小僧やチャイナ娘も使っているであろう応接間で
熱に浮かされたとはいえ
こうしてお互いのを舐めあってるのなんて可笑しな話だ。
変な罪悪感のような、
もっと違う感情のような。
とにかく分からないものが、俺の中で渦巻いていた。
だって本当に、今はコイツの事しか考えられない。
「…フェラ下っ手クソだねぇ」
俺自身の亀頭を甘噛みしながら
器用に万事屋は喋りやがる。
ビク、と感じてしまい、声を裏返しながらも
俺は反論した。
「うっせーな!男なのに上手でたまるかよ…!」
「まぁ言われてみればそーね。
な、アナル舐めていー?」
「へ…っ?、ぁ、んん…ッ」
俺達がやってるのは所謂69なのだが、
ソファーに寝転がって俺のをフェラする万事屋とは違い、
俺は野郎の上に四つん這いに近い体勢で
乗っかっている為に、
少しでも変な刺激を与えられるとバランスが崩れる。
くちゅん、くちゃ、
「あっ、嫌だ、気持ち悪い…!」
アイツの唾液の音が妙に部屋に響いて困る。
体は火照る一方なのに対し、
思考はどんどん冷静になってきていて
なんでこんな事をしているんだと
自分でも思ってしまう。
「ちょ、お前な!気持ち悪いはねーんじゃないのコノヤロー」
「だって本当の事…あぁ!」
「な、なんだよ急に」
「金魚…!」
万事屋がすくってくれた、
俺のあの陵辱生活の支えになったと言っても
過言ではない、屋台の金魚。
彼の存在を、突発的に思い出した。
「ああ、ちゃんと持ってきてあげましたよ」
興醒めしちまったぜ、と言いながら万事屋は俺を押しのけ
ズボンを浅く履いて部屋の奥へと行く。
そして、小さな金魚鉢に入った金魚を持ってきた。
「神楽が貰ってきたきたねー鉢だけどよー
こんなんで役に立つとは思わなかったぜ」
ほい、と目の前のテーブルに置かれた金魚は
変わらずに泳いでいた。
なんだか安心と一緒に喜びが込み上げ、
思わずガラにもなく
「…さんきゅ」
などと言ってしまった。
すると、万事屋はポリポリと頭を掻きながら
隣に黙って座る。
てっきり大笑いして
『鬼の副長サンが金魚大事にするとはねー』
などと言われると思っていただけに、
なんだか拍子抜けしてしまった。
「…死んじゃうよ?すぐに」
口を開いたのは、相手が先だった。
「屋台の金魚は、弱いから」
ポツリと言う。
一瞬、万事屋が消えてしまいそうに見えて
でもそれは俺の視界が眩んだからだという事に気付いた。
思えば手にも上手く力が入らない。
「で、も」
良かった、声は出る。
そう安堵しながら俺は言う。
「おめーはすくってくれたよ。
その金魚も、俺も」
すると、万事屋は今にも壊れそうな顔で笑った。
笑うから。
「銀時って呼んでよ、土方君」
自然と寄り添うお互いの身体。
近寄る唇。
「銀時…」
必然のように交わすキス。
だが、舌先が全く感じない。
まさか、飲まされていた薬の副作用じゃないだろうか?
そう思いつつも今の俺は
目の前の銀時を求め、抱き合った。
ぎんとき。
拙くも、そう名前を呼んでくれたのが嬉しかった。
どうしてだか分からない。
昔はヅラや高杉。
(辰馬は金時とか呼ぶから除外)
今では新八や神楽、ババァやお妙。
他にも沢山の人達が俺を呼んでくれるのに。
「銀時」
「銀さん」
「銀ちゃん」
なのに、土方君が呼んでくれただけで
歓喜を覚えるこの心はなんだ。
「んう…ッ」
土方君の唾液で滑る俺の性器を秘部に食い込ませると
首を振って耐える姿が
愛しくて仕方なくて
ゆっくり挿入しながらも
唇を重ねながら俺は腰を動かした。
「・・・?」
初めの違和感は、その時だった。
舌を吸ったり絡ませても
土方君は全く応じようとしないのだ。
否、応じようとしないのではなく
敏感な場所なのに
まるで神経が通ってないかのように
動かさない。
だが、俺はただ土方君が戸惑ってるだけなのかと思い
口を離してぶう、と怒って見せた。
「土方くーん。
銀さんが一生懸命ディープしてんのに
全く無反応はないんじゃねーの」
「あ、悪ィ…あっ、あ!」
心底申し訳なさそうに謝る土方君の顔を歪ませたくて
何の合図もせず、合意も求めずに
膝裏を掴んで持ち上げ、貫いた。
酸素を求めるように喘ぐ口の隙間から
赤い舌がチロチロ見えて
それが血のように見えて
なんだかそのせいで余計に興奮して
本能のままに奥を突き上げる。
「い、ぁ、ぁつ、いぃ」
「俺、も、熱い、土方君、の、中、ぁあっ」
あーマジ気持ちいい。
女の前で声出すと引かれるけど
相手が土方君だから遠慮なく俺も喘いだ。
ぐちゅくちゅんと鳴る音に鼓膜が焼き切れそうで
理性を保つのに必死で
絡みつく腸壁の粘膜が気持ち良すぎて
善がり狂ってしまいそう。
「あっ、う、ぁんん」
決して古くもないけど
新しくもないソファーが
俺達の動きに合わせてギシギシ喚く。
「は、ぁ、出そ、う」
汗と熱気、そしてカウパー液で
俺達は文字通りぐちょぐちょで。
顔を真っ赤にさせて啼く彼の前髪を掻き分けながら
俺は低く呟く。
「ぎん…っと、き?」
すると、縋りついて俺の腰に脚を絡める土方君が
少し哀しい笑い方で言った。
「銀、時は…死なない、よな?」
神楽のぶっさいくな金魚鉢で
金魚はいつの間にか死んでいた。
行為に没頭していた俺達は
静かに消えた命に気付きもしなかった。
あの事件の後、俺達は少しだけ浮かれてた。
さりげなく会ったふりをして
一緒に映画を見たり
公園に行ったり
(まぁ最終的にヤるコースではあったが)
時々、海に行ったりして。
付き合い始めた俺達は、
本当に少しだけ、浮かれていた。
全てが輝いて見えたし
全てがクリアに聞こえたし
銀時の息遣いだとか声だとか音だとか
そういうのが、沢山。
お互い、それぞれに生活があるから
その辺の恋人達のように
チャラついた付き合いは出来なかったけれど
それでも俺達は、ささいな事が嬉しかった。
会えるのが嬉しかった。
手を繋げるのが嬉しかった。
大切なモノを大切に出来るのが嬉しかった。
だがら、銀時が護りたいと思ってるであろう
あの眼鏡小僧とチャイナ娘は
俺も護ってやろうと思った。
真選組を護ろうとした俺の意思を
尊重してくれた彼のように。
ああ、銀時。
俺は本当に浮かれていて。
身体の不調も
いつか勝手に治るだろうと思い込んで
初めに『可笑しい』と思った時に
病院にでも何でも行けば良かった。
そうしたらきっと今でも俺は
近藤さんや、総悟や、山崎や、隊士達や
そしてお前の声を、姿を
この脳裏に刻んでいけたのに。
ああ、もう何も見えない。
何も聞こえない。
あばよ、俺。
さよなら