そう、見損なったのなら助けを求めるべきだったのに。
だが、総悟の言葉に一つも反応を示さずに土方は黙り込む。
思わず総悟は柄にもなく声を張り上げる。
だが、思ったよりも大きな声ではなかった。
「俺にはアンタの考えてる事がサッパリでさァ!
なんで俺を悪く言わない!?
なんで俺のせいにしないんでィ!
俺を悪役にしちまえば、土方さんは…!!」
「…俺が選んだ事、なんだろ?
ならてめェのせいにするワケねェだろ」
ぐったりとした調子で土方が言う。
当たり前だ、散々犯されてまだ一度もイけていないのだから。
総悟は先程からうるさくうなるローターのスイッチの部分を
思いっきり衝動のままに踏み潰した。
ガシャンという音を立てて壊れ、刺激を失った土方の口から溜め息が漏れる。
「ハッ、土方さんが選んだ事?
これが?
朝から陵辱されて、授業中も恥ずかしい思いさせられて、
クラスメイトや同級生にまわされたりする事が!?
自ら選ぶたァ相当な淫乱でドMだねェ、アンタ!」
嘲笑するように見下して鼻で笑ってやったが、
それは全て自分が仕組んで彼を陥れた事だと言うのを
勿論総悟は自覚していた。
思い描いたシナリオの展開どおりになっている筈なのに、総悟は気に入らない。
それが、土方が本当に望んでここに居るわけではない事も分っているからだ。
「…」
「ホラ、ローターも壊してアンタを脅すものはもう何もないでしょう?
今すぐ山崎にでも近藤さんにでも俺にされた事、バラせばいい。
それで俺とは終われますぜィ?」
淫乱と罵ってもやはり反論しない土方に焦れた総悟は、まくし立てながら彼に携帯電話を押し付けた。
だが、受け取ったままで土方は電話を開こうともしない。
「…なんで、だよ。なんで。
『俺に近づくな』って昨日言ったじゃないですか」
「…なんとでも言えよ。
よく考えたら俺は、お前が家に帰れるまで付き合うって約束したんだから…
それに」
土方は引き寄せた学ランを肩に羽織ながらコトンと床に携帯電話を置いて言った。
「ここで俺が山崎に助け求めさせたり、近藤さんに本当の事を俺に言わせたりして…
お前、一人ぼっちに戻るつもりだろ」
大きい瞳を総悟は見開いた。
そして口の中で『やめろ』と呟いたが、
それに気づかない土方は続ける。
「確かに見損なったが、見捨てたりはしねェよ。
総悟は友達作るのは下手そうだか…」
彼の言葉を遮り、総悟は土方を抱き締めた。
何度も抱いているくせにこんな抱擁をするのは初めての事で。
土方も突然の行為に驚いたようでやり場のない手をせわしなく動かす。
「そう、ご、なに…!?」
「土方さん…」
呟きながら総悟は固く瞼を閉じた。
その間、動揺を隠せない土方は暴れていたが気にせずに
もうこのドS試験、失格だなァと密かに思う。
Sなのに、どうやら彼の事を本気で好きになってしまったようなのだ。
好きと言う気持ちが分らない。
愛したことも愛された事もないから。
でもこの抱き締める恋しさを好きというのなら、きっとそう呼ぶのかもしれないと思う。
山崎に彼を渡したくない気持ちも、
土方が近藤に向ける思いに嫉妬する気持ちも、
彼に『もう近づくな』と言われてショックを受けた気持ちも、
それなら全てが納得がいく。
サディスティック星の王子は、
ドM男に恋してしまったという事。
なんでィ、そりゃあと自分の想いに突っ込みを入れながら目を開いた。
そこには息を荒くした、愛しい土方の顔。
「ア…ッ、そぉご…!」
どうやら暴れたせいで、戒められている性器を総悟の腹に擦りつけてしまった為に
またもや苦しい事にやっているようだ。
いい加減に外してやるか、とがんじがらめにしてあったローターのコードを解いてやった。
「え…?あ、やっ、待て…って…!」
総悟が自身をきつめに扱いてやると、よほど良いのか甘く土方が鳴き始める。
求めていた快感の先を貪ろうとする姿に総悟はゾクゾクした。
ああ、やっぱりこの人を壊してやりたいという欲求に、身体の芯が疼くのを感じた。
「あ、ぁ、っもっと強く、ぁ」
きっとこの人の気持ちは、
先程の言葉からして永遠に手に入らない事を
なんとなく分かった。
だが、身体だけでも欲しい。
気持ちが繋げないのなら、身体だけでも繋げたい。
誰の目にも触れさせたくない。
誰の姿も彼の目に映させたくない。
その瞳は俺だけを見ていて。
心では別の人間を考えていても、良いから。
身体だけでも、俺に頂戴。
「ひぅ、あ…や…」
土方自身を扱く手を止め、両脚を大きく開かせた。
その秘部からは北大路と南戸の精液がまだ垂れ流しにされていた。
構わず、総悟は反応し始めていた雄を取り出して少しだけ擦った後、躊躇なく突き入れる。
「すげ…土方さんの中、トロトロでさァ…」
「だ、誰のせいだと…あっ、んん…ッ!」
じゅぷじゅぷぷ、と音を立てながら繰り返される出し入れに、
土方が狂ったように首を振って喘ぐ。
そんな彼に、今まで絶対にした事がなかったキスを、軽く総悟は落としていく。
「あ、そう。ご…?」
「可愛い、可愛いねェ土方さん、
はっ、もっと、鳴いてくだせェ」
息を荒げながら、総悟は更に土方の両脚を広げさせた。
股関節が開く限界までそうさせると、肉のぶつかりあう音を確認させ、聞かせるように教室の中へ響き渡らせる。
「土方さん…いっぱい…沢山、愛してあげまさァ…」
「そうご、そう、ごぉ…」
勿論、ぬちゃぬちゃという水音も激しさを増していく。
「あっ、ぁひ、やぁああ…んむっ」
あまりの快感に耐え切れなくなったのか、仕舞いには土方は己の指を噛み始めた。
彼の綺麗な身体が傷ついては大変、と総悟は口からその指を引き剥がす。
「ぁう、なんで、ぇ」
「しゃぶるんなら、俺の舌をしゃぶってくだせェよ…」
「んんっ、ふ…」
タイミングを見計らっては、キスをして次第に深さを増したり角度を変えたりする。
今日は4人目の雄を受け入れている筈の土方の秘部は、
広がってはいるものの締まりは変わらない。
それに恍惚の笑みをもたらしながら総悟は彼を犯していく。
普段は絶対にしない優しいキスと言葉に、
土方の漆黒の瞳はトロンと酔っていった。
「気持ちぃですかィ?もっと感じたい?」
腰を進めながら、総悟が問うと土方は口の端から唾液を零してコクコクと頷き、縋る。
「…愛して欲しい?」
「あ、あぁっ、愛して、総悟ぉ…っ」
「へェ…?そうですかィ。承知、しやしたっ」
さっきまでのアンタは何処行ったんだよ、と口の中で笑いながらも舌なめずりをし、ピンと尖った胸の突起を弾いてやった。
するとビクンと盛大に身体を反らして土方が鳴く。
「いやぁ!」
「はは、男のくせに桃色に色づいちゃって…
食べちゃいますぜィ?」
「んんん…!」
パクッと乳首を啄ばむと、鼻にかかった声を出してくる。
もうそろそろ射精が近いのか、彼の口から漏れてくるのは
おおよそ言葉になっていない喘ぎばかりだ。
愛しい黒髪をサラリと撫で上げると、
土方をまんぐり返しの状態にして一気に総悟は攻めた。
「あっあぁっ、はぁああ…ッ」
無理な体勢に若干息苦しさを覚えたようだが、それに勝る快感を求めて総悟の雄をきゅきゅっと秘部は締め付けてくる。
この身体を手に入れる事が出来たら。
そう考えながら総悟は、熱い飛沫を山崎達と同じように体内に放った。
「は、っ、ぁ…」
「よく頑張りましたねィ、土方さん…」
ヒクヒクと余韻に身体を痙攣させる土方の額に総悟はキスした。
すると嬉しそう土方が力なく笑う。
随分と壊れてイっちまってるなァと思いながら彼の耳元に口を寄せ。
「土方さん、ねェ、もっと愛して欲しい?」
「…ああ、総悟…」
焦点の合わない目が総悟を映す。
恐らく土方は、突然優しくなった総悟に心を改めたと勘違いしているのだろう。
それを知っていて、総悟は惨酷に告げた。
「骨の髄まで愛してあげまさァ。アンタの身体だけ、ね」
一瞬、総悟の言葉を理解できなかったのか土方の動きが止まったが、やがて凍った時間が溶けたかのように首をゆっくり振って、その言葉を拒絶した。
だがそんな彼の顎を掴んで再び床に押し付ける。
「いや!いや、総悟…!」
「嫌だなァ、忘れちまったんですかィ?アンタは俺の性人形なんだよ」
力なく抵抗する土方の唇を奪い、偽りの愛情を注いでいく。
そう。
身体だけ愛してあげる。
一生閉じ込めて愛してアゲル。
だから心は何処を見てもいいよ。
誰を想っていてもいいよ。
俺を近藤さんとでも山崎とでも、他の誰とでも思えば良い。
だって俺の加虐趣味の事情、知ってるでしょう?
俺が帰れるまで傍に居てくれると約束守ってくれるんでしょう?
でも俺はアンタを好きになっちまったから、別のM男を捜さなきゃいけないワケだけど
土方さん以外のドM男が見つかるまで付き合ってくれるんでしょう?
(まぁ見つける気も帰る気ももう更々ねェけど)
ねっ、土方さん?
「やぁ、いやだ、ぁ!」
「ねぇ、何処がいいんですかィ?耳?腰骨?背中?」
「そうご…」
重ならない気持ち。
それなのに犯す背徳感が余計に総悟をゾクゾクさせた。
やがてろくな抵抗もしなくなった土方は総悟にされるがままにされ、彼が何度か果てた頃には意識を失っていた。
ぐたりと気絶している土方に慈しみを込めて総悟は口付け
こびりついた精液を拭き取り、乱れた制服を着させてやる。
そして移動させた机を元の位置に戻すと背中に土方を背負い、
日誌と鍵を持つと電気を消して教室を後にした。
「はい、今日の日直お疲れぇ〜」
「へ〜い、まァ俺の手にかかればこんな仕事ちょちょいのちょいでさァ」
「…そ?その割には随分と提出が遅ぇな、沖田君」
職員室まで日誌と教室の鍵を届けにきた総悟からそれらを受け取ると、彼の担任である銀八はバサバサと書類整理をしながら言った。
ヒク、と総悟は肩を揺らしたが、
悟らせないように笑顔すら見せた。
「あ〜ソイツはすいやせん。
ま〜今日は転入生が居なくなったり桂君が早退したり、
土方さんが保健室に運ばれたりと大変でしたからねィ」
「ほんっと、色々あったよ一日で…つーか、多串君平気そう?
昼休みに様子見に行った時も顔色悪そうだったケド」
「…ええ、多分」
「あの子、真面目すぎて色々無茶しそうだからよォ、
お前も近藤も仲良いんだからちゃんと気ィつけてやれよ?」
むしろ沖田君の場合は『苛めすぎちゃダメよか?』と銀八は首を捻る。
「あら、先生も苛めてあげやしょうか?」
「すみません、遠慮しときます。
じゃ、ホントお疲れ。気ィつけて帰れよ」
「へーい、さよなら、先生」
天使のような笑顔で総悟は挨拶をすると、ひらひらと手を振る銀八に背を向けて職員室を後にした。
そして気絶したままの土方を置いてきたゲタ箱の所まで戻る。
壁に背を預けて意識を失っている彼にクスリと微笑みかけると、
総悟は彼の手を取り、その甲に口付けた。
「残念だったねェ、王子様。
てめぇの大事なお姫様は悪い魔王の腕の中…」
さも愉快そうに、総悟は瞳で弧を描き、歪んだ表情で呟いた。
「はあっ、はあっ」
ガタン!
ガチャガチャ
息を切らせながらも勢い良く教室のドアを開けようとしたが、それは叶わなかった。
どうやら鍵がかけられているようだ。
扉の上のほうに位置する小窓から中の様子を確認するが
薄暗く、見る限り誰も居ない。
「はぁ、教室じゃ、なかったのか…?」
踵を返して窓から穏やかな夕陽が差し込む廊下を駆けた。
てっきり教室かと思っていたが、どうやら違うらしい。
他に彼らが居る所が思い当たらない。
「副長…何処に居るんですか…!」
呟きながら走っていた山崎は曲がり角で出てきた生徒とぶつかる。
衝撃に耐えられずに思わずしりもちをついてしまい、痛みに呻きながら顔を上げた。
そこには山崎が不得意とする柳生家当主とその四天王が居た。
「…おや、風紀副委員長殿の下僕ではないか」
小馬鹿にするように見下ろして言ってきたのは北大路。
むっとしつつも立ち上がりながら山崎は彼らに訊いた。
「あ、アンタら、副長や沖田君を見ませんでした?」
北大路と南戸が反応を見せたがそれに山崎は気づかない。
彼の問いに答えたのは九兵衛。
「土方達…僕は見ていないな。お前はどうだ、東城」
「いえ、私はもう若しか見えていないので」
「お前に聞いた僕が馬鹿だった…」
情報が得られそうにないので彼らに礼を言うと、今度は職員室へ向かった。
「あれ、山崎。おまえまだ帰ってなかったの」
「先生!沖田君、もう日誌出しましたか!?」
「え、うん。10分まえぐらいだけど…」
「遅かったか…それじゃ、失礼します先生!」
一方的に会話を終わらせて山崎は職員室を後にする。
土方と総悟の携帯に電話をしても出ない。
そこで、近藤なら何か知っているかも、と山崎は思いついた。
「う…?」
意識を取り戻した土方はゆるゆると瞼を上げた。
だが、辺りは暗いのか全く目が利かない。
手探りを入れようと腕を動かそうとした瞬間、
ガシャンと音を立てた何かに阻まれた。
「な、に、」
そこで土方は初めて自分が全裸で寝かされ、手足をそれぞれ拘束されている事に気づく。
把握できない事態に混乱していると、気配が近づいてきた。
「あ、目が覚めましたかィ、土方さん」
「そう、ご…?」
その存在を認めた瞬間、土方の全身を悪寒が駆けた。
そんな彼の頬に総悟は優しく触れる。
「素敵でしょう?土方さん。
これでアンタをずうっと愛してあげられまさァ」
「あ、委員長!あの、副長が今何処に居るか知ってますか!?」
「ザキ…それがいくら電話してもトシ、出てくんねぇんだよ…」
可哀想なドMのお姫様は、悪いドSの王子様に捕まってしまいました。
「や、嫌だ、そうご、やめてくれ」
「確かに閉じ込められるの怖いかも知れやせんが、
食事もトイレもお風呂も俺が全部お世話してあげますぜィ。
土方さんは只、気持ちくなってればイイだけです」
「近藤さん、やまざ、き…!」
いくらでも呼べばいい。もう悪者の手から逃れられない。
「そう、ですか。
…副長、何処行っちゃったんですか…」
ねぇ、土方さん。
「セックス漬けにしてあげる。
アンタにとっては最高のハッピーエンドでしょう?」
めでたしめでたし。