気に入らない君の誕生日。
僕の理解者であると同時に、敵対しているという最悪の立場の君の誕生日。
攘夷浪士には幕府の狗と罵られ、江戸の街の者には乱暴者と嫌われ、同じ隊の連中にも副長と恐れられる君の誕生日。


「土方さん、おめでとうございます」

「一つ年とっちゃいましたね。いくつになったんですか?」

「お誕生日おめでとうございます!今夜は派手に飲み明かしましょう!」


それでいて、皆に必要とされている君。
皆に慕われて愛されている君の、誕生日。

君がこの世に生まれた日。
僕は今まで生きてきて、一度も喜ばれる事のなかった、生まれた、という過去の出来事。
ああ、生まれた事を祝って一体何の意味があるのだろう。


「ほら、伊東先生も呑んでちょうだいよ!」


君の誕生日だからというだけの理由で今夜は無礼講、と局長である近藤が宣言し、それにつられて隊士達はドンチャン騒ぎを始めるのだ。
くだらないと思いつつも、付き合わなければならない。が、次々と酌をされるペースの早さに、嫌でも酔いが回る。
騒がしい部屋を抜け出し、僕は火照った身体を冷ます為に屯所の庭へ足を踏み入れた。

砂利を踏みつける感覚が、足の裏にぼやけた感じで伝わる。
まずいな、相当酔っている。
別に君の誕生日なんて祝いたくなんかないのに。
理解しているくせに、認めない君の生まれた日など。


「…なんだ、てめぇも抜け出してきたのか?」


声をかけられてそちらを見れば、煙草をふかした君がそこに居た。


「ふん、土方君。君こそ、今夜の主役がこんな所にいて良いのかい」

「良いだろ。俺の誕生日と称して、呑みてーだけだろあいつ等は」


言いながら、ふーと煙を吐く。
その紫煙を見つめながら僕は、ああ、それは嘘だよと内心思う。

彼らは君が居てくれる事を本当に喜んでる。
だから君が生まれたこの日を、祝い、喜ぶ。
僕とは違って。
誰にも認めてもらえない、僕とは違って。


「そういや、伊東の誕生日はいつだよ?」

「・・・は?」

「多分、お前の誕生日の時も本人無視して馬鹿騒ぎするぜ、あいつ等」


クク、と愉快そうに彼は笑う。
ああこの男も酔っているな、と思いながら僕も相当酔っていると思った。

今まで一度も待ち焦がれる事のなかった僕の誕生日が、早く来れば良いのに、などと考えるなんて。


「…土方君」


彼は酔ってる。
僕も酔ってる。


「あぁ?なんだ」

「こんな事を言うのはとても不本意だが」


だから、今夜くらいは別に言ってやっても良いだろう。 「誕生日おめでとう、土方君」


例えばいつかの未来で僕がこの真選組を壊し、君と刀を交える事になるとしても。


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もう君に二度と言えないけれど、おめでとう。
生まれてきてくれて、ありがとう

fin.

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